【イベントレポート】「ウェルビーイングな社会を考える」ウェルビーイング=楽をさせている!?

心と体、そして社会的に満たされている状態を意味する「Well-being(ウェルビーイング)」。

そんなウェルビーイングは、ビジネスや経営においても成長の鍵となっていることをご存知ですか?従業員が健康に働けられる環境づくりを目指すことで、経済的にも成長している事例も増えています。

そのひとつがIT企業のアステリア株式会社。10月21日(土)に行われた「第7回 日本女性ウェルビーイング学会(JWW)総会」では、同社の平野洋一郎代表取締役社長が登壇。

今回の講演では「なぜ、CWO(最高ウェルビーイング責任者)をおいたのか。〜働き方の選択肢を増やし、より質の高いアウトプットを目指す〜 」を題目に掲げ、その取り組みについて語りました。

ウェルビーイング=従業員に楽をさせている?

ウェルビーイングとは、心身ともに健康な状態を指す言葉。企業として経営にウェルビーングを取り入れたアステリアは「創造性と生産性が向上したことを実感している」と言います。

一方、経営者の中では「ウェルビーングというと、単に従業員に楽をさせているのではないか。サボらせているのではないか」という声もあるようです。

しかし、これからはAIやロボットが担う業務が増えていく時代。平野さんは「同じ事を繰り返すような作業はロボットでできるようになるし、人が一度やったことは生成AIに考えさせることもでき、人と同じような結果が本当に出せる時代になる」と説明しました。

こうしたIT化が加速する時代において、人に仕事に求められる「生産性」は、より「創造性」に近づき、その業務を担える人材が求められることになります。

AIやロボットができない仕事ことを行うためには、創造性を高める必要があり、そのためにアステリアでは社員のウェルビーイングを高めることにしたそうです。

社員の心のと体の快適さを確保しつつ、生産性を向上していく。この社員と企業の両方が幸せになるための施策の柱として、ウェルビーングは避けては通れない道になっていくんですね。

1998年からテレワークOK!現在は実施率90%以上に

同社では、なんと創業当初の1998年から開発メンバーの中で在宅勤務が認められていたそう。

その後、2011年からは東日本大震災をきっかけに「会社に来なくても仕事が続けられる環境にしよう」とBCP(事業継続計画)の一環として全社員が在宅勤務できる環境を整備。

当初は、テレワークはあくまでも災害時の実施を想定していましたが、翌2012年から子どもの世話や親の介護などで通勤が難しい場合、テレワークを使うことを可能にしたそうです。

さらに2015年には「猛暑テレワーク」として、毎朝5時に気象庁が発表したデータを元に気温が35度を越えた日は、全社員に「今日はテレワークを推奨します」というメールが送られて、テレワークで業務できるようになりました。

「東京で猛暑日に満員電車で1時間以上かかって出勤してたら、会社に着いた頃には疲れ果てている。生産性は上がらないし、エネルギーの無駄使いです」。

さらに翌年には前日の天気予報を元にして決定する「積雪テレワーク」や、実家や旅行先から業務ができる「故郷テレワーク」もスタート。

その後、2020年のコロナ禍を契機に全社員がテレワークとなり、コロナ禍が終わった今でも90%以上のテレワーク率を維持しているそうです。

数値としてもテレワークで生産性が上がっているなら、経営者として元に戻せない

また平野さんは、内閣官房が実施したテレワークで業務の生産性がどう変わったかというアンケート調査の結果を紹介。

「生産性が上がった」と回答したのは、一般調査では4%、変わらないと答えたのが14%、生産性が下がったと答えたのが82%でした。

一方、アステリア社員に対して行った調査結果では、テレワークの方が「生産性が上がった」が47%、「変わらない」が42%、そして「下がった」が11%でした。

「こういう調査結果が出て、一般的にはテレワークをしていると生産性が下がるから戻そうという気持ちは分かります。しかし、当社は、(以前のように出社に)戻すと生産性が落ちるということになるんですね」と同社のテレワークと生産性の関係について振り返りました。

さらに、テレワークを実施した期間のアステリア社の売り上げを見てみると、テレワークを行う前より売上成長率が高いことが判明。

アンケートで回答された「生産性が上がった」というのは、業績としても表れていました。

テレワークを主体したことで、本社の広さも4分の1の大きさに縮小しました。各従業員に充てられたデスクや会議室もなくし、その余剰金で、全ての社員にテレワーク費用として3年間毎月1万5千円を支給した(現在は毎月8,000円)という手厚さにも驚きます。

女性の金融リテラシーを上げていくことが、女性のウェルビーングを加速させる

同イベントでは、平野さんの発表に続き、朝日広告社の浅野優子さん(リサーチャー、プランナー)が登壇。

同社では、サステナブルな社会実現のために、「一人一人の“よりよく生きる”を考える」をテーマに企業支援を推進する「サスティナラボ」を設立し、2021年からは「ウェルビーイングに関する生活者調査」を実施しています。

今回の発表では、2022年11月に行われた「第2回ウェルビーイング調査」の結果を元に男女の幸福度、自己肯定感の違いについて語りました。

調査の中で、「あなたの普段の生活は幸せだと思いますか」という問いに対し、幸福度が高いと回答したのは男女共70代で、どちらも79%台という結果に。

一方、男性30~50代、女性40〜50代の幸福度は低い傾向にあります。その要因として、この年代はプライベートや仕事面での変化が激しいことが挙げられました。

業務の責任の重さがあるほか、金銭面では教育費や住宅ローンの支払いに追われる時期でもあることが幸福度に影響を与えていると分析されています。

また、男女ともに指標が低かったのは、「将来のキャリアビジョンが描けているか」という点で、いずれも50歳代が低い傾向にありました。

「60歳以降の生き方や働き方について迷っているのではないか」と浅野さんは言います。さらに「貯蓄や投資についての知識がある」という質問に対して、男性よりも女性の方がかなり低いという結果になりました。

これを受けて浅野さんは「女性の金融リテラシーを上げていくことが女性のウェルビーングを上げていくことに繋がっていくのではないか」と考察した。

また、「友人がいる」「家庭以外で接している人がいる」「身近に気軽に話せる人がいる」「困った時に相談できる人がいる」といった4指標では、男女差がかなり出て、男性の充足度がかなり低いという結果になっています。

「特に30歳代から70歳代の男性が人間関係が希薄であるようです。男性は家庭以外で接する人を増やすことが幸福度の向上につながるかもしれません」。

働く場所、働く時間を自分で選び、心身ともに健康で自分のやりたいことができる。働くの対義語に休むがあるだけの生活だけではなく、自分の人生のあり方を考えて生きる時代を目指すことがウェルビーングが示す働き方なのかもしれませんね。

(ウェルなわたし/ 藤山 亜弓)

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