『世界の都市総合力ランキング』にみる福岡の〝強み〟〝弱み〟。2023年版 は東京3位、大阪37位、福岡42位

世界の主要48都市について、人々や企業を魅了する都市の総合力を基に順位付けした一覧が、『世界の都市総合力ランキング』です。日本国内からは東京、大阪、福岡の3都市が選ばれています。先日、発表された『世界の都市総合力ランキング』2023年版における福岡の順位や評価についてみていきましょう。

世界の都市総合力ランキングの国内対象は東京、大阪、福岡の3都市

画像提供:森記念財団都市戦略研究所

国際的な都市間競争において人々や企業を惹きつける〝磁力〟とは、各都市の総合力によって生み出される━━━。
このような考え方に基づき、一般財団法人森記念財団都市戦略研究所(竹中平蔵所長)は2008年から毎年、調査・作成した『世界の都市総合力ランキング』(Global Power City Index, GPCI)を発表している。

『世界の都市総合力ランキング』では、世界の主要48都市の〝総合力〟について、《経済》《研究・開発》《文化・交流》《居住》《環境》《交通・アクセス》の6分野について複眼的に評価し、ランキング化している。
これら6分野においては、主要な要素を示す26の指標グループで構成されている。

さらに指標グループについては、70の指標からなる各指標をスコア化し、平均した数値を指標グループのスコアとしている。
そして、各指標グループのスコアを合算することで分野別ランキングを作成する。
一方、分野別スコアをまとめた総合ランキングは、各100点満点である26指標グループの数値を合計しており、2,600点満点となっている。

一般財団法人森記念財団都市戦略研究所が、2023年11月9日に発表した、『世界の都市総合力ランキング』2023年版(GPCI-2023)によると、総合ランキングの主な順位は、次の通りだった。

第1位:ロンドン(スコア1646.7)、
第2位:ニューヨーク(同1506.4)、
第3位:東京(同1375.8)、
第4位:パリ(同1363.7)、
第5位:シンガポール(同1264.7)、
……
第37位:大阪(同947.8)
……
第42位:福岡(同844.8)

……

『世界の都市総合力ランキング』(Global Power City Index, GPCI)2023年版(GPCI-2023)においては、トップ5都市の順位および、大阪と福岡のランキングにおける変化はなかった。

世界の人口は80億人。人口100万都市は全世界に約370都市

国連機関が入居するアクロス福岡の前ではためく国連旗

国連は2022年7月11日の世界人口デーに合わせて、『世界人口予測』2022年版を発表した。
同報告書の推計によると、同年11月に世界の人口は80億人を突破すると予測した。
そして、2058年に100億人を超え、2086年にはピークとなる104億人になるとの見通しを発表した。

現在、80億人余りの人々が暮らす世界において、人口100万人以上の大都市は、約370都市とされる。主な国別における100万都市の数は、下記の通りだ。
中国94都市、インド43都市、ブラジル17都市、ロシア14都市、日本12都市、インドネシア12都市、アメリカ10都市、メキシコ10都市、パキスタン10都市…。

そして、『世界の都市総合力ランキング』では、調査対象とする世界の主要48都市の選定において、下記のような基準を掲げている。

都市の選定基準

  • 既存の有力な都市比較ランキングで上位20位に入っている都市
  • 有力な国際競争力ランキングにおいて競争力上位20位に入っている国の主要都市
  • 本ランキングを作成する実行委員会から対象都市として取り上げることが適切として判断された都市

『世界の都市総合力ランキング』では、日本国内の都市の中から東京、大阪、福岡の3都市が選ばれている。
世界には100万都市だけでも約370あるなど、あまたある都市の中から福岡という都市が、選ばれていること自体の意義は、極めて大きいものといえる。

6分野別ランキングの指標でみる福岡の〝強み〟〝弱み〟

画像提供:森記念財団都市戦略研究所

『世界の都市総合力ランキング』の総合ランキングでは、日本から選ばれた3都市の順位的な変動は見られなかった。
しかし、総合ランキングを構成する6分野では、ランキング上の変化がみられた。各分野での3都市の評価をみてみよう。

GDP成長率が〝弱み〟となった《経済》分野

(指標:GDP、1人あたりGDP、GDP成長率、経済自由度、上場株式時価総額、世界トップ500企業、従業者数、ビジネスサポート人材の多さ、賃金水準の高さ、優秀な人材確保の容易性、ワークプレイス充実度、法人税率の低さ、政治・経済・商機のリスクの低さ)

第10位:東京270.1 (↓5位:前回第05位)第38位:大阪174.4 (↓3位:前回第35位)第42位:福岡142.6 (↓3位:前回第39位)

経済分野では、日本の3都市は共に順位を下げた。経済分野で第42位だった福岡では、となった『GDP成長率』(指標内48位)が〝弱み〟となっている。

『学力の高さ』が〝強み〟、『世界トップ大学』が〝弱み〟の《研究・開発》分野

(指標:研究者数、世界トップ大学、研究開発費、留学生数、学力の高さ、特許登録件数、主要科学技術賞受賞者数、スタートアップ数)

第04位:東京143.4 (→同位:前回第04位)第18位:大阪 69.7 (→同位:前回第18位)第32位:福岡 36.2 (↑2位:前回第34位)

研究・開発分野において、福岡は2つ順位を上げて第32位となった。
福岡の指標では、『学力の高さ』(指標内5位)が〝強み〟になった半面、〝弱み〟は『世界トップ大学』(指標内37位)である。

『観光地の充実度』が〝弱み〟となった《文化・交流》分野

(指標:国際コンベンション件数、文化イベント開催件数、コンテンツ輸出額、アート市場環境、観光地の充実度、世界遺産への近接性、ナイトライフ充実度、劇場・コンサートホール数、美術館・博物館数、スタジアム数、ホテル客室数、ハイクラスホテル客室数、買物の魅力、食事の魅力、外国人居住者数、外国人訪問者数)

第05位:東京237.5(→同位:前回第05位)第25位:大阪110.0(↑4位:前回第29位)第47位:福岡 49.0(↓1位:前回第46位)

福岡の文化・交流分野における順位は、1つ下げて第47位となっている。
福岡に関する指標では、『観光地の充実度』(指標内48位)が〝弱み〟だった。

『住宅賃料水準の低さ』が〝強み〟、『飲食店の多さ』が〝弱み〟の《居住》分野

(指標:完全失業率の低さ、1人あたりの総労働時間の短さ、働き方の柔軟性、住宅賃料水準の低さ、物価水準の低さ、殺人件数の少なさ、自然災害の経済的リスクの少なさ、平均寿命、社会の自由度・平等さ、メンタルヘルス水準、医師数、ICT環境の充実度、小売店舗の多さ、飲食店の多さ)

第03位:東京367.7 (↑8位:前回第11位)第12位:大阪354.8 (↑7位:前回第19位)第23位:福岡336.6 (↑5位:前回第28位)

居住分野で5つ順位を上げた福岡は、第23位である。
同分野の指標では、『住宅賃料水準の低さ』(指標内6位)が〝強み〟となる一方、『飲食店の多さ』(指標内48位)が〝弱み〟だった。

〝強み〟が『都市空間の清潔さ』の半面、『再生可能エネルギー比率』が〝弱み〟だった《環境》分野

(指標:環境への取り組み、再生可能エネルギー比率、リサイクル率、1人あたりのCO2排出量の少なさ、空気のきれいさ、気温の快適性、水質の良好性、緑地の充実度、都市空間の清潔さ)

第16位:東京173.8 (↓3位:前回第13位)
第20位:福岡163.2 (↑5位:前回第25位)
第41位:大阪129.6 (↓2位:前回第39位)

環境分野では、福岡は5つ順位を上げての第20位だった。
福岡の指標では、『都市空間の清潔さ』(指標内13位)が〝強み〟となり、その半面で『再生可能エネルギー比率』(指標内36位)が〝弱み〟だった。

『空港アクセス時間の短さ』が〝強み〟・『国際線直行便就航都市数』が〝弱み〟の《交通・アクセス》分野

(指標:国際線直行便就航都市数、国際貨物流通規模、国内・国際線旅客数、航空機の発着回数、駅密度、公共交通機関利用率、空港アクセス時間の短さ、通勤・通学時間の短さ、自動車の移動速度、タクシー・自転車での移動のしやすさ)

第08位:東京183.3 (↑2位:前回第10位)第32位:福岡117.2 (↓1位:前回第31位)第37位:大阪109.3 (↑2位:前回第39位)

福岡は、交通・アクセス分野で1つ順位を落として第32位となっている。
指標をみてみると、福岡の場合、『空港アクセス時間の短さ』(指標内1位)が〝強み〟とし、『国際線直行便就航都市数』(指標内48位)を〝弱み〟とした。

今回の『世界の都市総合力ランキング』2023年版における福岡に対する評価について、福岡市関連のシンクタンクである公益財団法人福岡アジア都市研究所(URC)の山田美里研究主査は、次のような見解を示す。

山田美里研究主査

今回の総合力順位は、前回と変わらず48位中42位でした。
一方、分野別ランキングのうち環境分野では、『都市空間の清潔さ』で福岡は高い評価を得て、前回から5位上昇して20位にランクインしています。
その半面、経済分野において福岡は東京、大阪と同様に順位を下げており、日本経済の相対的な競争力低下が影響しているのかもしれません。

『世界の都市総合力ランキング』の指標の内訳をみると、英語で検索できる世界的なWebサイトでの掲載数も対象となっています。
このため、英語プラットフォームでの発信力を高めることは、ランクアップを図っていく上でも重要です。
国際的に活躍する人たちに向けて積極的にリーチしていくことは、結果的に人や企業を海外から引きつけていくことにつながっていくのではないでしょうか。

福岡アジア都市研究所の山田美里・研究主査

経営者・高度人材・観光客・居住者の視点でみる福岡の〝強み〟〝弱み〟

画像提供:森記念財団都市戦略研究所

『世界の都市総合力ランキング』では、分野別評価に加え、世界の主要都市において会社を経営し、働き、観光し、暮らす人々の視点からの評価も実施している。
具体的には、3つのグローバルアクター(経営者、高度人材、観光客)と1つのローカルアクター(居住者)を設定している。

それぞれのアクターが重視する指標を『世界の都市総合力ランキング』の6分野70指標の中から分野横断的に抽出し、指標のスコアを平均して順位付けを行った。
今回、コロナ禍が明けて国際的な人的往来が再開した状況下、アクターからの評価においては、下記のような変化が見られた。

『経営者』(グローバルアクター)は何を評価しているのか

第12位:東京 (↓4位:前回第08位)第38位:大阪 (↓1位:前回第37位)第41位:福岡 (↓2位:前回第39位)

『政治・経済・商機のリスクの低さ』『ビジネスサポート人材の多さ』が福岡の〝強み〟であり、『GDP成長率』『優秀な人材確保の容易性』が〝弱み〟だった。

『高度人材』(グローバルアクター)にとっても魅力は何か

第17位:東京 (↓4位:前回第13位)第35位:大阪 (↓2位:前回第33位)第39位:福岡 (↓3位:前回第36位)

福岡の〝強み〟は『通勤・通学時間の短さ』『完全失業率の低さ』であり、その一方で福岡の〝弱み〟は『飲食店の多さ』『国際線直行便就航都市数』だった。

『観光客』(グローバルアクター)は何に注目するのか

第02位:東京 (↑1位:前回第03位)第31位:大阪 (↑2位:前回第33位)第43位:福岡 (↑1位:前回第44位)

『都市空間の清潔さ』『殺人件数の少なさ』が福岡の〝強み〟だったものの、『観光地の充実度』『文化イベント開催件数』が福岡の〝弱み〟となっている。

『居住者』(ローカルアクター)にとっての住み心地は何か

第05位:東京 (↑2位:前回第07位)
第16位:大阪 (↑7位:前回第23位)
第28位:福岡 (↓2位:前回第26位)

福岡では、『通勤・通学時間の短さ』『住宅賃料水準の低さ』が〝強み〟である半面、『飲食店の多さ』『小売店舗の多さ』が〝弱み〟になっていた。

今回、世界の主要48都市の〝国際金融センター〟機能をランキング化

画像提供:森記念財団都市戦略研究所

第1位:ニューヨーク(スコア211.6)、第2位:ロンドン(同203.0)、第3位:東京(同116.2)、第4位:北京(同96.3)、第5位:上海(同96.3)…、第45位:大阪(同22.6)、第46位:福岡(同21.5)……。

金融業界の急速な拡大と国際化で世界の各都市においては、国際的な金融センター機能を担っていく上でのポテンシャル確保の重要性が高まっている。
このような時代背景を踏まえ、森記念財団都市戦略研究所は2023年11月9日、『世界の都市総合力ランキング – 金融センター』(GPCI-Financial Centers)を初めて発表した。

『世界の都市総合力ランキング – 金融センター』は、世界の主要48都市の〝国際金融センター〟としての機能や競争力を複眼的に評価したランキングだ。
グローバルな金融システムにおける各都市の持つ〝国際金融センター〟としての特徴や強み・弱みを明らかにしている。
『世界の都市総合力ランキング – 金融センター』では、従来の『世界の都市総合力ランキング(GPCI)』の6分野(経済、研究・開発、文化・交流、居住、環境、交通・アクセス)26指標グループ・70指標に加えて、〝金融〟分野の4指標グループ・14指標を加算した合計7分野・30指標グループ・84指標で分析・評価をおこなった。

日本国内では今後、『資産運用特区』創設に向けた動きが活発化していくものとみられる。
それだけに今回、『世界の都市総合力ランキング – 金融センター』が実施した福岡の〝国際金融センター〟についての分析は、大いに注目すべき内容だ。

画像提供:森記念財団都市戦略研究所

「彼れを知りて己を知れば、百戦して殆うからず」(孫子)

経済活動の国際化をはじめ、情報通信技術の飛躍的な発展や国際的な交通ネットワークの拡充、さらに国際分業化の進展などの結果、ヒト、カネ、ビジネス、情報が、地球上を駆け巡っている。
そして、世界の主要都市では、これらのヒト、カネ、ビジネスなどを呼び込んでいくために激しい国際的な都市間競争を展開中だ。

「彼れを知りて己を知れば、百戦して殆うからず」(孫子)━━。
現代の国際的な都市間競争においても、古代中国の兵法家だった孫子の言葉は生きてくる。
孫子によると、「彼れを知らずして己を知れば、一勝一負す」「彼れを知らず己を知らざれば、戦う毎に必らず殆うし」とのことだ。

天神ビッグバン、博多コネクティッド、九州大学箱崎キャンパス跡地、セントラルパーク構想、渡辺通二丁目プロジェクト……。
福岡市では、市内各所において多彩な再開発プロジェクトが進んでいる。そして、これらの成果は今後、福岡市を取り巻く国際的な都市間競争でも新たな魅力や戦力になり得るものと考えられる。
『世界の都市総合力ランキング』は、〝彼れを知り〟〝己を知る〟上での有効なデーターでもある。
現在、次期『第10次福岡市基本計画』を策定に向けて動き出している福岡市では今後、このような国際的な視座や指標に基づいた新たなまちづくりが今後、より一層求められるものと考える。

参照サイト

世界の都市総合力ランキング(GPCI)ポストコロナ時代の社会や暮らしの変化が順位に影響~今年は新たに「金融」分野も評価し、国際金融都市としての東京の立ち位置を分析~
https://www.mori-m-foundation.or.jp/pdf/GPCI2023_release_jp.pdf

『世界の都市総合力ランキング』2023年版(2023年11月)
https://www.mori-m-foundation.or.jp/pdf/GPCI2023_summary.pdf

国際農林水産業研究センター『578. 国連「世界人口予測2022」~2022年11月15日 80億人到達と予測~』
https://www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20220713

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