<インタビュー>“ヴィッセル神戸の未来”筑波大MF山内翔が語るキャリアの展望、大学最後の大舞台

先月25日、ヴィッセル神戸は名古屋グランパスを2-1で破り、J1リーグ戦初優勝を達成した。Jリーグはすべての日程を終えた中で、最終決戦に挑む“神戸の男”がいる。

来季神戸へ加入する筑波大MF山内翔(4年、神戸U-18)は、今月10日午前11時(東京・AGFフィールド)に大学最後の全国大会である全日本大学選手権(インカレ)初戦の鹿屋体育大戦を迎える。

今季はアジア大会(9月19日~10月7日、中国・杭州)に臨むU-22日本代表に選出され、関東大学1部MVPに輝いた大学屈指の司令塔と称される山内に関東学生1部MVP、キャリアの青写真、大学最後のインカレへの決意などを聞いた。

プレシーズンマッチでの経験

今年2月4日に松本山雅とのプレシーズンマッチ後に行われたトレーニングマッチに出場した山内は、駆けつけた神戸サポーターの前で自身のプレーを披露した。声援を受けてプレーした山内は来季に向けて胸を高鳴らせている。

――プレシーズンに松本山雅とのトレーニングマッチに出場しました。神戸サポーターの前でプレーしたときはどのような心境でしたか。

Jユースカップのときに1回(ノエビアスタジアム神戸で)やりましたけど、そのときはサポーターの方もいなかったです。プレシーズンマッチとはいえピッチに立てたことは本当に良かったと思います。

そのときは、1試合でも多く(特別指定選手として)こういうところでプレーできたらいいなと思っていました。いまは(来季)あのスタジアムで多くのお客さんの前でプレーしたいと思うし、そういうところでサッカーをできたら幸せだろうなと。想像することがいくらでもできるので楽しみです。でもそこで活躍できなかったら意味がないと思っています。

アジア大会で得た経験とパリ五輪に向けて

アジア大会に臨むU-22日本代表に選出された山内は、大会に3試合出場した。2試合目のパレスチナ戦では前半28分に2回目の警告を受けて退場したため、思い描いた活躍を見せることができなかった。ただ、ここで得た糧は無駄にならない。パリ世代の山内は来年開催されるパリ五輪、Jリーグを見据えている。

――アジア大会に出場しました。振り返っていかがでしたか。

自分の中で初めてスタートで出た試合(パレスチナ戦)であのような形(退場)になってしまったことは、自分としてもすごく悔しいです。自分のせいではあるんですけど、すべてがダメだったかと言ったらそうじゃありません。

自分の中でできたこともありますし、久しぶりの国際大会の雰囲気を味わえたことが、成長というか新たな刺激をもらえたと思います。本当に行って良かったです。その中でプロ選手やいろんな選手と関わって、刺激があった大会だと思います。

約1ヶ月間でしたけど、大岩監督の下でプレーできて、いつも一緒にやる選手とはまた違う環境できたので、すごく充実していました。いろんな思いをさせてもらった期間だったと思います。

――アジア大会でできたことを教えてください。

ゲームをコントロールする部分や、ボールを受けてから自分のプレーは少し良くなっている感覚がありました。あとはボールを扱うところはもともと得意だったので、どちらかというとチームをコントロールするところや、ポジションも真ん中ですからその中でチームとしてこう戦うべきというか。

監督から求められていることをやる上で自分のストロングを出すところは、試合自体は少なかったですけど、そういう部分は少なからず出せたと思います。

――国際大会だと相手も国を背負っていますから、普段と違った刺激がありますよね。

4年ぶりぐらいの国際大会だったので、当時の17歳の自分と、21歳の自分の心の感情というか、そのときに思うことも違います。

選手の年代も違うからまったく違う国際大会だから、プロに近くてお互いの国のプライドをかけるというか。出てはいないですけど、北朝鮮戦と韓国戦の向こうの目や、会場の雰囲気は大学で絶対味わえない試合になったと思うので、すごく刺激になりました。

――今後はパリ五輪があります。メンバー入りに向けての青写真があれば教えてください。

もちろん目の前にある以上目指したい大会なので頑張りたいです。まずは神戸での自分のプレーに目を向けないと見えてこないと思います。

いまの自分はインカレもありますし、神戸のプレシーズン、シーズンが始まって、自分がどこまでできるか。そのためにいい準備をしっかりやっていきたいと思います。

来年はピッチで同じ景色を

来季加入する予定の神戸は先月J1リーグ初制覇を達成した。来季はディフェンディングチャンピオンのメンバーに加わる山内は、Jリーグ、アジアの大舞台など未知の領域が待っている。期待を胸に王者の一員として来季も頂点を目指す。

――ヴィッセル神戸が優勝した瞬間はどこで見ていましたか。

家で見ていました。

――どのような気持ちが沸き上がりましたか。

素直に優勝してほしいと思っていました。チームとしても初めてのリーグ優勝で、自分が小学6年のときにJ2からJ1に上がったと思います。去年は苦しいシーズンを送った中で優勝できました…。

優勝したことは本当にすごいと素直に思ったし、来年も同じ景色が見られればと思っています。

――来季のAFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)出場も決定しました。来季はディフェンディングチャンピオンの一員として戦います。

いまはまったく不安はないし、(神戸に)行くことに対して楽しみしかないです。ワクワクした気持ちというか、(キャリアの)初めの年からそういう見られ方をするチームはあまりないですし。

そのチームで例えば1年目の選手が試合に出ていたら見られ方も変わると思っています。ネガティブな思いよりは、ポジティブに思うことが多いと思います。

――神戸アカデミーOBの佐々木大樹選手が今季大活躍を見せました。刺激は受けましたか。

僕が1年のときに高校3年の代に大樹くんがいました。そのときは失礼ですけど、あそこまで走って戦う選手ではなかった印象があった中で、昨季と今季も含めてすごくプレースタイルが変わったというか。

もちろん上手さもありますけど、戦うところを見ていてすごいと思いました。自分も一緒に出たいです。アカデミー出身の選手として試合に出ることで、アカデミーの選手たちからもより見られ方などがすごく変わってくると思います。

大樹くん、山川選手の活躍を今季見ながらアカデミー出身の選手として、負けていられないといったらアレですけど、自分も(その流れに)乗っかっていきたいとすごく思っています。

――先日モンテディオ山形に育成型期限付き移籍中の泉柊椰選手を取材しました。彼も大卒経由で今季から神戸に入団しました。

柊椰くんは高校のときから本当に仲が良くて、僕は年下なんで失礼ですけど、良くしてもらっていたのでお兄ちゃんみたいな感じですね。僕が中3からユースの練習に行ったりしていたので、すごくその代の選手たちと仲がいいというか良くしてもらっていました。その中の一人に柊椰くんがいました。

練習に行ったときもそうですし、お互い大学生のときに練習参加した際はキャンプも同じ部屋でした。一緒にいることも長かったです。サガン鳥栖戦のJリーグ初ゴールが素晴らしいゴールでしたね。でも僕はユースのころからも見ていますし、大学でずっと柊椰くんを見ていた身からすれば偶然ではないと思うし、柊椰くんがいままで大学で準備してきたものが出たと思います。

来年は恐らく戻ってきてくれると思うので、また一緒にサッカーをできることが楽しみです。

キャリアの展望

神戸の未来とファンから期待される大学屈指の司令塔は、大きな夢を抱いている。まずはJリーグでの活躍を目指し、その先にある未来に向かって一歩ずつ歩む覚悟を明かした。

――いまの神戸は司令塔タイプの日本人選手が少ないです。自身の強みをどのように生かしてポジションをつかみたいですか。

まずは監督が求めることや、チームとしてやらないといけないことをやった上で、自分のできることや、他の選手にはない自分の持っているものを出さないといけないと思っています。

攻守ともにいろいろとできるようにならないといけない。試合を見ながらずっと思っていました。いまのチームはゲームのスピードなどがすごく早くなっています。チームとして走るというところは、当たり前というか大事にしている印象があります。

まずはそれをやった上で、その上で自分になにができのるかを練習や試合を重ねながら考えていきたいです。

――近年神戸アカデミー出身の小林友希選手、小田裕太郎選手が海外で活躍されていますね。

たまに話ができるタイミングがあったら話をしますし、(小林)友希くんや(小田)裕太郎もそうですけど、去年練習へ行ったときに話したりしました。あの二人が海外に行った事実はすごいと思うし、身近から出ることは自分も少なからず可能性は活躍次第であるかなと思っています。

自分の思い描いているキャリアを考えたら目指したいものではありますし、そこに向けていまからできることをしたいと思います。(彼らは)純粋にすごいと思います。

――山内選手が描くキャリアの展望を教えてください。

サッカーをしている以上は日本代表でワールドカップを優勝したい気持ちがあります。いまの日本代表を見れば海外組が多いですし、ワールドカップに出ている選手も基本的に海外組が多いです。そこに出るためには海外に行くことがすごく大事だと思います。

小さいころからJリーグを見ていましたから、まずはJリーグで活躍していつかはという思いがあります。

関東学生MVPが挑む最後の決戦

大学サッカーの祭典“インカレ”が7日に開幕した。今季は関東大学1部MVPを勝ち取り、リーグ最多出場も果たすなど目覚ましい活躍を見せる司令塔に大きな期待を抱く師がいる。

決戦を控える山内に恩師の後藤雄治ヴィッセル神戸アカデミーダイレクターがQolyに手記を送った。

私が初めて翔のプレーを見た時期は彼が中学2年のときです。そのときの翔は技術的にしっかりしていましたが、まだ身体が小さくて線も細く、フィジカル的な優位性がなかったので、うまくいかないことの方が多かったように感じました。ただ将来性を感じさせてくれる魅力的な選手でしたね。当時の私はU-18のコーチだったのですが、翔のプレーを見て「彼はU-18に昇格させてほしい」と思ったことを覚えています。

実際に彼を直接指導するようになった時期は、彼がU-18に昇格してからです。毎日のように翔と接していて感じたことは、才能も持っているし、言うことも立派なんだけど、行動が伴わない、まだまだ幼いところでした。人並み以上の才能を持っているし、人並み以上になりたいと思っているのに、人並みのことしかやらない翔に苛立ちを感じていたことを覚えています。また彼はどこか自分に自信がなく、自分が代表に入って、プロになれる存在だと思っていない印象がありました。私は翔がプロになれる選手だと思っていたけど、肝心の翔自身がそれを信じていない。そこに難しさを感じていました。

まずは翔のマインドをセットする必要があると感じていたので、彼の覚悟を試すように、毎日のように考え方や行動の基準の低さを指摘していました。一切甘やかさなかったので、当時の翔は大変だったと思います。翔は徐々に頭角を現しはじめ、(育成年代の)日本代表に選ばれ、U-18Aの公式戦にも出場するようになり、高円宮杯プレミアリーグ2017での優勝や2018年のU-16アジア選手権での優勝に貢献する活躍を見せてくれました。ただ残念ながらトップ昇格の判断をいただけるまでに至りませんでした。

翔がトップに昇格できないとわかったとき、私は翔を筑波大学の小井土さんに預けたいと思いました。私は筑波大学蹴球部のことも、小井土さんのこともよく知っているので、筑波なら翔に足りないものを足せるという感覚がありました。小井土さんに「山内を見てください」とお願いしたことを覚えています。

トップ昇格が叶わず、クラブハウス内のトレーナールームで号泣しながら「他のチームを紹介してください」という翔に「筑波に行ったほうがいい。翔になにが足りないのかを筑波だったら気づかせてくれる。そこで成長して神戸に戻って来い」と伝えたことが懐かしいです。いまの翔を見ていると筑波大学や小井土さんに感謝しかありません。

さて、前置きが長くなりましたが、翔への期待は「日本をリードし、世界で活躍するサッカー選手になってほしい」ということです。まずはヴィッセル神戸で活躍し、リーグ2連覇に貢献できるように頑張ってほしいと思っています。ヴィッセル神戸には人並み以上の才能を持ちながら、人並み以上の努力をしている選手、また強烈なリーダーシップで周りの選手たちの基準を高めていける選手がたくさんいます。いまの翔なら酒井高徳選手や山口蛍選手のすごさを細部まで感じられるのではないでしょうか。

そういった選手を見本にしながらも甘えることなく、彼らを超えていけるように、誰よりも走り、身体を張り、勝利に執着する。そんな翔の姿を期待しています。安っぽいプライドをチラつかせるような姿は見たくないですね。

そしていつの日か、ヴィッセル神戸でキャプテンマークをつけてプレーしてほしいです。

と愛弟子にエールを送った。

関東大学1部MVP選手の新卒入団は神戸史上初であり、サポーターの期待が高まっている。山内は学生最後の全国大会で日本一を目指す。

――関東学生1部MVP受賞、最多出場(1年からの通算5864分出場)と活躍されました。

MVPはチームの成績が認められて選ばれたと思うので、チームメイトに感謝したいです。最多出場は今季実質のヘッドコーチが平山相太さんになりましたけど、入学してから3年間小井土監督の期間を含め、継続して我慢するところは我慢して使っていただいた印象を自分は持っています。その上で(賞を)もらったことなので、小井土監督に感謝しています。

ただ誰もがもらえる賞ではないので、うれしい思いもあります。1年のときから大きなケガもなくプレーできたことが(受賞の)理由だと思います。小井土監督に感謝したいです。

――大学最後のインカレを控えています。多くのサポーターが注目を受けている中で大学最後の全国大会への意気込みを教えてください。

チームとして(関東1部)リーグは優勝できて一つの結果は出ましたけど、インカレはまったく違う大会になります。去年は中京大に負けて自分たちは敗退しているので、リーグの成績は関係なく、他の地域から素晴らしい大学が出てきます。

まったく違う大会にはなるので、すごく面白い大会になると思います。筑波大が優勝と、前評判はもしかしたらあるかもしれないですけど、そんなことはないと思っています。1試合、1試合全力で戦っていきたいです。

もしかしたらそこで自分がプレーしているところを見てもらったら、「あんなサッカー小僧…ガキだったやつが」と、自分の成長みたいなものを神戸サポーターの皆さまには見てもらえると思います(笑)。

いま他の大学にいる神戸のアカデミーの選手も大学でそれぞれの試合に出たりと、結果を残してすごく頑張っています。ぜひ(神戸サポーターに)来ていただけるのであれば来てもらって、自分たちが成長した姿を見せられると思います。

Jリーグも終わりますので、是非お時間がある方がいれば、ちょっと横目に見てもらえればうれしいです。

――最後にファン・サポーターへのメッセージをお願いします。

来年から自分が育ったチームに戻れることが本当にうれしいです。ただ戻るだけじゃなくて力にならないと意味がないと思っています。自分の性格上、サポーターの皆さまともなにかしらの形で触れ合える機会があればと思います。まずはサポーターの方々に自分の力や選手として認めてもらえるように頑張りますので、応援のほどよろしくお願いします。

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神戸に帰還した“神戸の未来”は屈託のない表情で、大学最後のインカレ、来季J1挑戦の抱負を語った。恩師の後藤アカデミーダイレクター、小井土監督は山内の成長に歓喜しており、アカデミー時代から知るサポーターたちもさらなる飛躍を期待している。この記事を読んだ神戸ファンには、大学最後の大舞台で山内が駆け抜ける姿を目に焼き付けてほしい。

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