今回は四国新幹線を取り上げます。前回コラム「瀬戸大橋を新幹線が渡る!? 地元で熱く盛り上がる四国新幹線、実現の可能性は?」(※2020年11月掲載)からほぼ3年ぶり。この間、具体的な動きがあったわけではないのですが、四国4県の自治体や経済界は、高速鉄道ネットワークによる地域振興や経済効果を継続的に調査・発信して、着工への最初のステップといえる基本計画路線から整備路線への格上げを政府に働き掛けます。
整備新幹線をめぐっては今夏、北陸新幹線の敦賀延伸開業が2024年3月16日に決定。今後は工事中の北海道新幹線に続く、新規路線や区間をどうするかという国レベルの議論が活発化すると思われます。本コラムは、四国新幹線実現への道を考えました。
(本コラムは四国新幹線の現状を客観的に把握する目的で、必要性などについて過度に言及する意図はないことを、十分にご理解願います)
「整備路線に格上げするチャンス」(佐伯会長)
まずは今夏以降の動きから。四国4県や各県自治体、経済界などで構成する「四国新幹線整備促進期成会」の東京大会が、2023年8月30日に東京都内で開かれました。
佐伯勇人会長(四国経済連合会会長、四国電力会長)はあいさつで、「長く基本計画のままだった、四国の新幹線を整備計画に格上げする大きなチャンスだ。この好機を逃すことなく、一致団結して四国の思いを国に届けよう」とアピールしました。
期成会は、なぜこの時期に大会を開催したのでしょう。
整備新幹線は国の公共事業として整備(建設)されます。仮に四国新幹線が開業すれば、列車運行はほぼ確実にJR四国が受け持つはずですが、インフラの線路や駅を整備するのは国。こちらも確定ではありませんが、従来の整備新幹線のスキームにならえば、鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT)が工事を受け持つのが自然です。
2024年度は北陸新幹線と西九州新幹線の240億円が浮く!?
国土交通省は2023年8月末、2024年度の予算概算要求を財務省に提出。鉄道局扱いでは、「整備新幹線の整備推進」として、2023年度と同額の803億7200万円(国費。地方負担分などを含めた事業費ベースでは、2023年度の1940億円より335億円増の2275億円)を要求しました。
整備新幹線は国の基幹インフラで、査定(財務省による減額)されるとは考えにくいのですが、問題は線区別配分。2023年度は北海道新幹線(新函館北斗ー札幌)1700億円、北陸新幹線(金沢ー敦賀)140億円、九州新幹線(武雄温泉ー長崎。九州新幹線は国の事業名です)100億円(ほかに北海道新幹線新青森ー新函館北斗1億円)で、合計では1940億円になります。
2024年度は、年度初には開業済みの北陸、そして2022年に開業した九州が大幅減額になるのは確実で、減額分が新規路線に振り向けられる可能性が生まれます。佐伯会長が、「四国新幹線を整備計画に格上げする大きなチャンス」と述べたのは、このことを指します。
東西方向に四国新幹線、南北には四国横断新幹線
期成会の資料で四国新幹線を再確認しましょう。
四国新幹線には2つのルートがあります。一つは「四国新幹線」で、大阪市を起点に徳島、高松、松山の県都3市を経て大分市に至ります。
もう一つは「四国横断新幹線」。岡山が起点で、瀬戸大橋を経由して香川県宇多津から高知に至ります。四国の真ん中を南北に横断する高速鉄道です。
期成会は、架橋やトンネル建設が必要となる大阪ー徳島間と愛媛ー大分間を棚上げして、東西方向は徳島ー高松ー松山間、南北方向は宇多津ー高知間を整備(建設)路線と考えます。整備延長302キロ、概算事業費(車両費含む)1兆5700億円。費用便益比(B/C)1.03で、経済波及効果は年間169億円と試算します。
新幹線高松駅はどこに置く? 高松空港地下もインパクト大
ここから、期成会が2022年6月に公表した「新幹線が都市を変える~新幹線と四国のまちづくり調査~」報告書をもとに、四国新幹線の整備計画を考えます。
四国の地方銀行4行のシンクタンクが、期成会の委託を受けて「四国アライアンス地域経済研究会」名義でまとめた報告書では、「徳島、高松、松山、高知の各県都の新幹線駅はどこに置くべきか」などを検討しました。
新幹線高松駅(もちろん仮称。以下も同じです)の候補地は4案あります。具体的な駅位置は、①JR高松駅併設、②JR栗林駅(高徳線)付近、③琴電伏石駅(琴平線)付近、④高松空港地下ーーです。
新幹線高知駅は、①JR高知駅併設、②JR・土佐くろしお鉄道後免駅併設ーーの2案を挙げました。
新幹線徳島駅は、①鳴門エリア、②徳島阿波おどり空港(徳島空港)付近、③JR徳島駅併設ーーの3案を比較しました。
4都市のうち、駅位置がほぼ決定済みなのは新幹線松山駅だけ。連続立体交差(高架化)事業中の在来線(JR予讃線)の東側に新幹線駅を併設します。
高松駅を考えましょう。常識的にいえばJR高松駅併設ですが、高松空港地下の新幹線駅にも相当なインパクトがありそうです。
高松港は瀬戸大橋開通まで岡山県宇野港と結んでいた宇高連絡船が発着し、海陸の交通結節点でした。瀬戸大橋や明石海峡大橋が架橋され、本四連絡は今や道路交通が主役ですが、仮に高松空港に新幹線駅ができれば、空港が空陸の交通結節点になって、四国全体の地域振興に大きなプラスの効果を与えるのは確実です。
報告書の全文は、期成会のホームページに掲載。鉄道ファンなら、ルートやダイヤを想像(妄想?)して楽しめそうです。
「関西・瀬戸内の交流を活発化」(愛媛県がJR西日本に要望書)
最後に県単位の動きを一つ。愛媛県は2023年10月、四国新幹線の早期実現に向けた要望書をJR西日本に提出しました。
要望書は、「四国を含めた関西・瀬戸内全域で観光・ビジネス交流を活発化し、地域活性化に連携して取り組む」、「新幹線を骨格とした公共交通ネットワークを構築し、鉄道の抜本的高速化を実現する」が柱。
想定ルートでは、四国新幹線は山陽新幹線の分岐線になるわけで、JR西日本と四国の地元がWINWINの関係を築こうという意図がうかがえます。
現在、整備新幹線で計画が宙に浮いた状態なのは、北陸新幹線敦賀ー京都ー新大阪間と西九州新幹線新鳥栖ー武雄温泉間です。
とはいえ、四国新幹線との三択にならないことは、皆さまご承知の通り。本格的な人口減少社会が訪れ、財政事情が厳しさを増す中で、本当に必要な高速鉄道はどれか。その点に思いをめぐらすと、四国新幹線には一地方の高速鉄道というだけでなく、日本の未来が託されているような気もするのです。
記事:上里夏生