自分の髪の毛を抜いてしまう「抜毛症」や「パニック障害」… 4人に1人は心の病に 「心が弱いだけ?」 苦悩を抱える人々

ストレスが多い現代社会で、うつ病など“心の病”で学校に通えなくなったり、仕事ができなくなったりと、生活に支障をきたすほど悩んでいる人がいます。4人に1人がかかると言われている“心の病”ですが傍目にわからないことも多く、周囲の理解不足に苦しむこともあります。病と向き合いながら生活している人の今に密着しました。

順風満帆な人生から一転…「抜毛症」や「パニック障害」に

名古屋市内に住む29歳の蓮さん(仮名)は、「抜毛症」の対策のため右手の親指にだけ「付け爪」をつけています。
蓮さんは、自分で自分の髪の毛を抜いてしまう「抜毛症」という“心の病”を患っています。国立大学を卒業後、大手企業に就職し順風満帆でしたが、仕事が忙しくなった社会人5年目のとき、無意識に自分の髪の毛を抜いていることに気付きました。そして病院で「抜毛症」「パニック障害」などと診断されました。滑って髪がつまみにくくなる“指サック”や、気を紛らわせるためのおもちゃなど、いろいろ試しましたがどれも続かず…たどり着いたのが、親指の付け爪でした。

(蓮さん)
「髪の毛を挟みにくいというか、自爪の感覚じゃないので。これ(付け爪)になって以来、全然抜かなくなった」

付け爪に辿り着くまでは、抜いた髪の毛が大きな塊になるほど抜いてしまい、帽子をかぶって仕事していたことも。

(蓮さん)
「この部分(側頭部)を隠していた。基本的に両側頭部と後頭部を隠せればいいなと。抜毛症が出たとき、自分のデスクの周りが髪の毛まみれになるんですけど、自分が仕事を終えて帰るだけになったらこっそり(抜けた髪の毛を)集めていた」

今は落ち着いていますが、一時はパニック障害もひどく、タクシーやバスなどに乗ると動悸や吐き気が止まらず、無謀な行動をとることもありました。

(蓮さん)
「赤信号で止まりかけている車からドア開けて飛び降りたとか、気持ち悪くなってしまって。パニック発作のときってやっぱり吐きそうになるので、そういうときに胃の中に食べ物がないという状態を作っておくと、自分の心持ちとしてすごく安定するので、タクシー・バス・電車・飛行機とかに乗る前は絶食」

発作に備えて絶食した結果、一時は12キロも体重が減ってしまいました。今でも、外出する時はパニック障害の発作で吐き気に襲われるという恐怖から、エチケット袋が手放せません。

4人に1人が“心の病“…症状は人それぞれ

蓮さんと、実際に一緒にタクシーに乗ってみました。今は大丈夫なものの、昔は本当に乗り物全般がだめだったと話す蓮さん…そして到着したのは、蓮さんの職場近くの公園でした。

(蓮さん)
「(ここは)動物がいたり人がいたり…仕事からいったん離れられる場所」

以前は食欲がなく、昼休みにこの公園に来ては、ゼリー状の食べ物や紙パックの野菜ジュースなどを飲んでいたといいます。

(蓮さん)
「精神病自体、線引きが難しい。人によっては甘えととらえられてしまうと思うし、自分が弱いだけなんじゃないかみたいな」

病気というより、心の弱さとも思われがちな“心の病”…しかし、蓮さんは、職場をはじめ周りの扱いに救われたといいます。

(蓮さん)
「『調整するから、もうちょっとこの日までやろう』とか、それが終わると『もうあとちょっとで終わるから、この日までやろう』と。ありがたいことに特別扱いするということもなく、本当にいつもと変わらない感じで接してくれた。そこはむしろ助かったかなという感じ」

腫れもの扱いではなく、適度に気を遣いながらいつも通り接してもらえたことで仕事を休職せずに済みました。今は通院も必要なくなっています。

(蓮さん)
「(心の病は)自分とは無関係なもの、という気持ちはあった」

国立精神・神経医療研究センターによると、うつ病や統合失調症などの心の病で病院に通院や入院をしている人は、2017年の段階で国内で約420万人にのぼります。4人に1人が一度はかかるともいわれている心の病。症状は人それぞれ違います。

1日14錠の薬を飲み、約20年間うつ病に苦しむ毎日

愛知県半田市の山田貴道さん(45)もまた、心の病に苦しむ1人です。

(約20年間うつ病と闘う山田貴道さん)
「頭が鍋をかぶったように重いような。死んでしまいたい、ぱっといなくなりたいぐらいのしんどさはあった」

大学の歯学部に通っているとき、治療の実習がうまくできず“うつ病”に。20年経った今も、不眠症に悩まされています。薬を飲んで、寝られるかどうかという山田さん。月に1度は心療内科のクリニックに通い、抗うつ薬・睡眠薬などあわせて1日14錠の薬を飲む生活です。

(約20年間うつ病と闘う山田貴道さん)
「薬に依存しているというのは、もし大災害が起きたときとか、突発的に(薬が)手に入らない状況になったら、そこで僕は終わってしまう」

現在は障がい者手帳(2級)を持ちながら、大府市の老人ホームで理学療法士として働いています。

山田さんの場合も、闘病の支えになったのは職場など周りの存在でした。「心の病」の当事者サークル「シンセサイズ中部」。月に1回、瀬戸市でミーティングを開いていて、心の病の当事者やその親など約15人が悩みを共有します。1人で抱え込まずに治療できる病気だと実感できることが、患者にとっての救いになるといいます。

1人で抱え込まず、ほかの病気と同じように「気軽に治療」を

名古屋市立大学病院・こころの医療センターでは、抱え込まず普通の病気として気軽に治療を受けて欲しいと話します。

(名古屋市立大学病院こころの医療センター 明智龍男センター長)
「“心の病”というと、その人の心が弱いからと思われがちな面もあるかもしれないが、例えば熱が出れば内科に行く、けがをすれば外科に行くというように、(目には)見えないが心が傷めば気軽に精神科・心療内科などに通ってほしい」

抜毛症対策で、親指に付け爪をしている蓮さんの今の望みは、ささやかなものです。

(蓮さん)
「仕事で大きな成果をとか、人生の目標があるわけじゃないんですけど。この病気になる以前の食べ物や乗り物を気にしなくていい自分に戻れたら」

外からは見えづらい病気や症状を抱えた人も生きやすい社会にするために、どうしたらいいのか…心の病に、いつ、誰がかかってもおかしくない現代、社会全体で考える必要があります。

CBCテレビ「チャント!」11月29日放送より

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