【今週のサンモニ】反原発・反核原理主義を大爆発!|藤原かずえ 『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。今週は原発や核兵器をめぐって、反原発・反核原理主義を大爆発させておりました。

素人集団のヒステリックな反原発キャンペーン

2023年12月3日の『サンデーモーニング』では、まさに【反核原理主義 anti-nuclear fundamentalism】と表現するに相応しい極めて安易でナイーヴで思考停止なイデオロギーが暴走しました。

反原発や反核抑止といった原子核反応に関連した政策を絶対悪とする【至上命令 categorical imperative】は、異論を【先験的 a-priori】に認めない点で宗教的であり、公共の電波を利用するテレビ放送として問題があると考えます。以下詳しく見ていきます。

関口宏氏:気候変動対策を話し合う国連の会議COP28の首脳級会合が2日間の日程を終えました。再生可能エネルギーの拡大に向けた協議が進む一方、2050年までに原発の発電容量を世界で3倍に増やすという宣言が纏められました。宣言には日本を含め、およそ20カ国の有志が賛同。気候変動対策に原子力は重要な役割を果たすなどと明記され、原子力発電を増やすため各国に協力を呼び掛けています。原発は発電時には温室効果ガスの排出をしないものの事故を起こした際のリスクが極めて高いことは我々よく知っています。環境NGOなど一斉に反発が出ています。

現在の日本の発電部門で温室効果ガスの削減が進まない元凶は、東日本大震災後に原発をフル稼働できないことに尽きます。

震災後、ヒステリックな反原発キャンペーンを展開して国民世論を操作した急先鋒が、電力の需給システムに関する基礎知識を持ちあわせていない素人の集まりである『サンデーモーニング』でした。コメンテーターの発言例をいくつか紹介します。

◆2012/8/26
涌井雅之氏:目標は明確でなければいけない。私の主張は原発ゼロがスタートだ。
田中優子氏:私は直ちにゼロという立場だ。

◆2012/9/9
田中優子氏:すぐに廃炉にしなければいけない。

◆2012/10/7
岸井成格氏:再稼働はもう単に安全性の問題ではなくエネルギー政策の根幹だ。高度な政治判断が必要だ。それを規制委員会に丸投げすることは政治の責任放棄だ。やってはいけない。

◆2012/11/11
岸井成格氏:3・11を地震学会で予測できなかった。何が起きるかわからない地震国だ。関電の活断層ではないという主張が崩れてきている※。大飯原発を再稼働したこと自体が間違いだ。
(※4日後に規制委員会によって活断層ではないと断定される)。

◆2012/12/16
中西哲生氏:日本は地震が多い国で将来不安はぬぐい切れない。原発事故が起きた後に専門家が短絡的な利益や利権ということで本当のことを言っているのか不安を持つ。将来的に止める方向に行くべきだ。

◆2012/12/30
田中優子氏:私たちの原子力に対する姿勢である脱原発・卒原発をもっともっと発言しなければならない。以前よりも一層発言しなければとんでもないことになる。
岸井成格氏:基本的に脱原発という決断を決める時期だ。政府は脱原発という方向をきちんと守ってもらいたい。

◆2013/2/3
関口宏氏:原子力ムラの中でなぁなぁをまだやっている。
岸井成格氏:簡単に再起動はできない。新安全基準を厳格に適用することを我々も監視することが必要だ。

◆2013/6/13
河野洋平氏:一番の問題は、政府が再稼働に舵を切ったことだ。
涌井雅之氏:唯一の被爆国で、福島で複数のシビア・アクシデントを起こして、いまだに10万人くらいの人がこの問題で苦しんでいることを忘れて、なぜ技術的な安全基準が優先されるのか。社会学的に倫理学的に原発問題をどう受け止めるかの視点が全く欠落している。

◆2013/7/7
岸井成格氏:誰が考えてもそう遠くない時期に脱原発で行かざるを得なくなる」

理不尽な無駄遣いを終わらせる

客観的な論理ではなく主観的な倫理で原発を悪魔化した反原発主義者による無責任な世論形成の結果、日本の全原発は長期間にわたって稼働停止に追い込まれました。この稼働停止によって、日本のベースロード電源が供給する電力(kW)は、24時間にわたって一律大幅に低下しました。

これを代替したのが、ミドルロード電源の石油火力発電とLNG火力発電といった化石エネルギーです。この電源構成の変化によって、削減が進んでいたCO2排出量は一気に増加し、震災前のレベルに戻るまでに約10年の年月を要しました。

『サンデーモーニング』が強く問題視する石炭火力発電を止められないのもベースロード電源の原子力発電をフル稼働できないためです。

引用:日本経済新聞「火力発電 脱炭素化探る」2022/12/25

火力発電 脱炭素化探る - 日本経済新聞

原発の稼働停止は日本経済にも深刻な影響を与えました。日本は火力発電の燃料代として毎年3兆円にも及ぶ追加費用を産油国に対して恒常的に支払うことになったのです。

富が国外に流出するということは、乗数効果がキャンセルされることを意味し、GDPは金額以上に落ち込む羽目に陥ったと言えます。さらに生産コストの上昇に伴う製造業の海外移転による産業の空洞化は日本の存亡に関わる深刻な問題になりました。

この理不尽な無駄遣いを終わらせる意味でも、岸田政権の原発政策の大転換は極めて重要な意味をもつのです。

なお、『サンデーモーニング』を含めた日本のマスメディアが推進した太陽光・風力などの変動性再生可能エネルギーの急拡大によって発電量の調整や予備力の確保が必要となり、電力需給が逼迫するに至っています。また、

①プロファイルコスト(変動性再生可能エネルギーの発電量が上下することに伴う、既存火力等の運用変更と発電効率低下に伴うコスト)
②バランシングコスト(変動性再生可能エネルギーの発電量が予測不可能なことに伴う、既存火力等の発電量の調整や予備力の確保に伴うコスト)
③系統・接続コスト(変動性再生可能エネルギーの適地と需要地が一致しないことに伴う基幹系統整備費用や基幹送電網につなぐコスト)

が必要となり、『サンデーモーニング』が推進した電力自由化に伴う石油火力発電所の淘汰もあり、電力料金は著しく高騰するに至りました。

これに加えて、高額の再エネ賦課金も電気料金に加算されています。さらには、メガソーラーの乱開発によって日本の美しい自然や景観が侵されています。

まさに、反原発主義は、温室効果ガスの削減を阻害しているだけでなく、国民生活を苦しめ、日本の国土を破壊しているのです。

非論理的な反原発主義と空想的平和主義が織りなす反核原理主義

元村有希子氏:COPの会議でも脱炭素が最上の目標なので、それに向けて原発に注目が集まっていることは事実だ。日本の反応は、経団連の会長が「原発を増やしていくのは人類の英知」だとコメントをしていたが、12年前の事故をお忘れですかと聞きたい。

環境に優しい持続可能なエネルギー源をもたらす安全な原発を増やしていくことは人類の英知に他なりません。事故に対するセキュリティが格段に向上した現在の原発を12年前の事故を根拠に否定するのは蓋然性の濫用です。

元村有希子氏:もう一つは脱炭素に繋がるのかというところだ。もちろん運転を始めたらCO2は出さないが、運転するまでに20年間くらい設計とか建設にかかる。20年後に運転開始したとしても、その頃に温暖化が進んでしまうと脱炭素にならない。そのタイムラグを考慮しないで感情的に賛成と言っているところがある。

まったく意味不明なコメントです。20年後に運転開始したとすれば、たとえ温暖化が進んでしまっていても、脱炭素になります。20年後の温暖化対策を否定するなら、22世紀に至るまでの温暖化の長期予測はまったく必要ないことになります。温暖化の不可逆性を勘違いしている発言と考えられます。

青木理氏:人類史上最悪クラスの事故を福島で起こした日本が原発を3倍にするとか、あるいは唯一の被爆国であり広島長崎を抱えている日本が核兵器禁止条約に参加をしない。そういう日本が世界からどう思われているのか、あるいはそういう立場の日本がメッセージを発することの人類への意味を我々本当に真剣に考えなければいけない。

これは、原子核反応という共通点を根拠にして「原子力発電」を「核兵器」と同一視して悪魔化するという日本の左翼勢力がよく使う論点歪曲です。このような非論理的な反原発主義と空想的平和主義が織りなす反核原理主義こそ、世界からどう思われているのか本当に真剣に考えた方がよいと思います。

再定義の誤謬|メディアリテラシー

空想的平和主義は非人道的理念

さて、この日の放送では、核兵器禁止条約をめぐっても反核原理主義を爆発させた『サンデーモーニング』です。

「風をよむ」核兵器禁止条約
アナ:核兵器禁止条約の会議は核の廃絶を訴える宣言を採択して終了しました。しかし、会議には今回も被爆国の日本の姿はなかったのです。

「核禁条約」会議閉幕… 日米の核を巡る意識のギャップとは―? 【風をよむ】サンデーモーニング | TBS NEWS DIG

現実世界で中・露・北という国境を接する【ならず者国家 rogue state】と対峙する日本の政府が、戦争を誘発する【空想的平和主義 utopian pacifism】と一線を画するのは当然と言える責任ある態度です。

菅義偉政権は、①核兵器禁止条約が掲げる核兵器廃絶という目標を共有していること、②厳しい安全保障環境の下で我が国として安全保障に万全を期するためには、核を含む米国の抑止力に依存することが必要であることを宣言しています。

②を否定することは、国民の生存権を運に任せる愚策に他なりません。

衆議院議員今井雅人君提出核兵器禁止条約への日本の参加に関する質問に対する答弁書

関口宏氏:日本と米国には同盟関係があります。でもこのことに関しては遠慮する必要がないんじゃないか。どうも忖度している気がしてしまいます。

日本政府は、米国に忖度しているのではなく、国民の生存権を現実的に守る核抑止を主権国家として主体的に肯定していると言えます。空想的平和主義で国民の命を守れないことはウクライナやガザで実証済みです。公共の電波を使った日本国民に対する時代錯誤の洗脳はもういい加減にして欲しいところです。

元村有希子氏:核禁条約に参加しない理由として岸田氏は核抑止力を認めているわけだ。この抑止力の正体って何だっていうことを考えたが、「俺は持っているぞ」「何かしたら使うぞ」という脅しを皆で掛け合うということだ。見せびらかすだけでなく、相手が使うことを前提にしたものは、いつか使われる。そういうことは。でもそれが根本的に間違った思想であることを強調したい。

【抑止理論 deterrence theory】をまったく理解していないと、元村氏のような間違った思想に陥ることになります。日本が国境を接する中露北等のならず者国家が宣言する【力ずくの暴力 brute force】による【脅し thread】に対峙するには、【強制力 coercion】による【威嚇 intimidation】が必要なのです。

核という【最終兵器 doomsday device】は、所有するが使わないことに意義があります。現実世界において抑止理論は実際に機能し、武力衝突を回避しています。人類が核を廃棄できるのは、核攻撃を無力化する科学技術が開発された時です。

空想的平和主義はゼロ・セキュリティとゼロ・セーフティを罪のない人たちに強いる極めて過激な非人道的理念なのです。

【今週のサンモニ】平和の手段「抑止」を悪魔化する『サンモニ』|藤原かずえ | Hanadaプラス

日本政府は発信しているのに……

元村有希子氏:オッペンハイマー氏はトリニティで実験成功した時に「周囲、誰も喜んでいなかった」、「インドの教典の『われは死なり、世界の破壊者なり』という言葉を思い出していた」と振り返っていた。創った側がその非人道性をわかっているようなものはない方がいいに決まっている。広島平和資料館の一番大きい写真に写っている少女の息子さんが「核の非人道性はまだ世界の隅々まで知られていない」と言っている。では日本が言わずに誰が言うのか。

三輪記子氏:戦争がいかに愚かなことか、私たちは現在進行形で見ている。過去日本も愚かな行為をした。事実に向き合うことは絶対必要だ。私たちは愚かな人間だ。しかし、米国も愚かなことをした。その愚かなことに向き合わせるためには、日本しか声を上げる人はいない。その声を上げる時に市民の一人一人の小さな力に任せているような政府ではいけない。政府が一丸となって被爆の悲惨さ・愚かさを伝えることをやらなければいけないのに今まったくそれがされていないことが凄くショックだ。しかし、被害者の声が届いた時には世界が変わる。それを願って声を上げ続けなければいけない。

青木理氏:オバマ政権が核の先制不使用宣言を検討した時に最も反対をしたのが日本だ。むしろ核抑止に異常なほど肯定しているのは日本の方だ。広島・長崎の二度の被爆だけでなく、第五福竜丸もあった。それから福島もあった。核とか原子力と広く捉えると、日本という国は運命的なほど、原子力の被害を、世界でこんな国はないというくらい味わってきたことを考えれば、我々何ができるのかを本当に考えなければいけない。

彼らの大きな勘違いは、日本政府が被爆の悲惨さ・愚かさを米国や世界に向けて発信していないと勝手に思い込んでいることです。しかしながら実態は違います。

例えば、安倍晋三首相は、国連やサミットの発言の場で、核廃絶に向けた取り組みを何度も宣言し、2016年にはオバマ米大統領の広島訪問を実現しました。

衆議院議員逢坂誠二君提出オバマ大統領が検討していた核兵器の先制不使用宣言構想に対する安倍首相の発言に関する質問に対する答弁書

約5年にわたる安倍政権の外務大臣時代から「核兵器のない世界」を世界で訴えてきた岸田文雄首相は、G7サミットを広島で開催し、各国首脳と被爆地で献花しました。

G7首脳、初めてそろって原爆死没者慰霊碑に献花 - BBCニュース

そんな世界に向けたインパクトの高い発信も都合よく忘れて、日本政府が何も発信していないかのようにひたすら非難するのは不公正な認知操作です。

彼らが日本のみを非難するのも本末転倒です。

なぜ核抑止が必要かと言えば、罪のない国を核で脅す中露北といった専制支配のならず者国家が存在しているからです。その存在を棚に上げて、核の悲惨さを国際社会に発信している被爆国の政府に対して、核の悲惨さをまったく発信していないなどと非難するのは正気の沙汰とは思えません。

いずれにしても、【集団極性化 group polarization】した画一的な集団が、意見の異なる相手を束になって一方的に人格攻撃するのは、ネットのエコーチャンバーと同じです。

藤原かずえ | Hanadaプラス

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