「島忠」以来の3年ぶり“争奪戦”再来か、第一生命HDがベネフィット・ワンに対抗TOB

第一生命ホールディングスの本社(東京・有楽町)

2023年のTOB(株式公開買い付け)戦線が終盤を迎え、突如、波乱含みの展開となった。医療情報サイト運営のエムスリーによるTOBが進行している福利厚生代行のベネフィット・ワンに対し、第一生命ホールディングス(HD)が対抗TOBの予定を発表したからだ。ベネフィット・ワンへのエムスリーのTOB期間は12月13日まで。第一生命HDの参戦表明で情勢が一転、TOBの成立に赤信号が灯った。

対象会社が賛同したうえで行われている友好的TOBに対抗して、第三者が新たな買収者として名乗りを上げるのはアクティビスト(物言う株主)によるケースを除けば、3年ぶりとなる。家具・ホームセンターの島忠をめぐり、ホームセンター大手のDCMホールディングスと家具大手のニトリホールディングスが繰り広げた「争奪戦」の再来となるのか。

ベネワン株、ストップ高

第一生命HDがベネフィット・ワンへのTOB実施を発表したのは12月7日。翌8日のベネフィット・ワン株は急反発し、400円高の1912円とストップ高で取引を終えた。買付価格引き上げへの思惑が株価上昇を大きく誘った形だ。

エムスリーは11月中旬からベネフィット・ワンに対して1株1600円でTOBを行っており、買付代金は最大約13967億円。

これに対し、第一生命HDはベネフィット・ワンの企業価値を踏まえ、1株1800円以上の買付価格を提示し、来年1月中旬からTOBを始める予定だ。人口減少などを背景に国内生保市場が縮小に向かう中、収益源の多様化を推し進め、非生保事業を拡大するのが狙い。

ベネフィット・ワンは第一生命HDのTOBについて、エムスリー、パソナグループのほか、第一生命HDとも誠実に協議を行い、速やかに見解を表明するとしている。

ベネフィット・ワンはパソナグループの社内ベンチャー第1号として1996年に「ビジネス・コープ」として設立。会員制で企業向けに各種の福利厚生サービスを提供している。現在、東証プライム市場に上場する。

親会社のパソナはどう判断?

ベネフィット・ワンへのエムスリーのTOBは12月13日に期限を迎える。ベネフィット・ワンの株価が買付価格を上回る高値圏であれば、多くの株主にとっては市場で売却した方が儲かるため、TOBの成立が難しくなる。TOB成立を期すのであれば、買付期間の延長や買付価格の引き上げが避けられない。

ただ、エムスリーの今回のTOBは通常のパターンと様相を異にする。ベネフィット・ワンの親会社であるパソナグループが保有する全株式51.16%を取得し、子会社化すること目的としているためだ(取得割合は一般株主からの応募を含めて最大55%)。このため、パソナグループがTOBに応じれば、成立で決着するが、第一生命HDが好条件を提示する意向を示していることから、すんなりと事が運ぶとは考えにくい。

エムスリーのTOBに保有株式全てを応募する契約を締結しているパソナグループは、「当該契約の規定も考慮の上、対応を検討中」としている。

パソナグループの本社(東京・南青山)

一方、第一生命HDはベネフィット・ワンの完全子会社化を目指している。TOBでは親会社のパソナグループの保有分を除く48.84%について取得する。パソナグループの保有分はTOB成立後に、ベネフィット・ワンが自己株式取得を行う。買収総額は約2900億円。

ベネフィット・ワンをめぐってエムスリーとの争奪戦に発展する可能性があるが、第一生命HDはあくまでベネフィット・ワンの同意を前提としており、敵対的TOBは避ける意向だ。

「島忠」争奪戦、ニトリが制す

今回と似たケースで思い出されるのは2020年秋から年末にかけての島忠の争奪戦だ。まず、DCMホールディングスが島忠にTOBによる子会社化を発表した。TOB開始後、ニトリが島忠へのTOB検討中を表明したうえで、その後、実施を正式発表し、参戦。続いて島忠がDCMのTOBへの賛同を撤回。島忠の賛同を得たニトリが総額1600億円超の大型買収に勝利した。

文:M&A Online

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