食道に詰まらない、おいしいごはんを探す旅 42歳グルメブロガー、がんになる。 毎日ビール.jp ユッキー(6)

 先日の外来で、主治医から「術後半年がたちましたね」と声をかけられました。あっという間で全く意識しておらず、もうそんなに経過したんだなぁ、というのが率直な感想です。この間、点滴の抗がん剤を2種類試しましたが、想定以上に副作用が出てしまい…。体調変化に戸惑いながらも、副作用の合間にわたしが楽しみにしていたもの、それはおいしいごはんです。食べる楽しみは忘れたくありませんね!

 今回の記事では、胃の全摘手術から半年を迎えた現在のわたしが食道に詰まりにくく、食べやすい、そして何よりおいしいと感じているごはん屋さんについて、触れてみようと思います。

◆副作用の合間の楽しみ「おいしいごはん」

 わたしの場合、副作用期間中は起き上がることはもちろん、食べることも難しくなります。日常生活がままならない状態で、朦朧(もうろう)とする頭で「回復したらアレを食べよう」「この店でランチするんだ」とぼんやり考えながら、具合の悪さに耐えていました。おかげでインスタの保存数が数えきれないほどたまっています。

 もともと食べることが大好きなわたしは、胃全摘の術後4日目から食べ始めた流動食(重湯)もしっかり完食していました。その後も三分粥・五分粥・全粥とステップアップする際も完食し、退院間際の普通食もほぼ完食で食べ終わっていました。この当時から主治医には「割と食べられる患者さんですね」と言われていました。

術後7日目の夕食。うめびしおの酸味が嬉しかった

 退院後も「カフェのタコライスを完食した」だとか「オムライスも大丈夫だった」などと食事面の報告をし、主治医から「えーっ! もうそんな量を食べられるの!?」と驚きが返ってくることもしばしば。これまで多くの患者を診てきた主治医との対話で、わたしはやはり食事を食べられる側の胃全摘者だろうなぁと思います。

 とはいえ、胃があってもなくてもそうであるように、食べられる・食べられないは個人差が大きいです。この文章を読んで、胃全摘をした皆さんが食べられないことに焦る必要はないですし、胃全摘患者の周りの方が「もっと食べなさい」とすすめることがあってはいけないとも思います。どうかさまざまな情報に流されることなく、マイペースに無理ない範囲で、食べる練習を続けましょう。

外来帰りに「島cuisine あーすん(那覇市金城)」に立ち寄り、食べたおしゃんタコライス

 もちろん、比較的食べられる側のわたしも、まだまだ訓練中です。手術でつないだ食道と腸のつなぎ目付近に、食事が詰まることがあります。食事のたびに早期・後期のダンピング症候群のような症状も起こり、急に調子が悪くなります。ですが、食べることが生きるモチベーションのわたしですから、おなかと相談をしながら、無理のない範囲でおいしい食事を楽しみたいのです。

 【ことば】ダンピング症候群 胃を切除したことにより、食べ物が消化不十分なまま腸へ落ちてしまうことで起きる腹痛や下痢、めまい、頭痛、手指のふるえなどの不快な症状。食事中や直後に現れる「早期」と、食後数時間で現れる「後期」がある。

 そんなわたしが食道に詰まらず、食べやすいと思った食事を紹介してみます。ここで紹介する食事がすべての胃全摘者に当てはまるわけではありませんから、n=1の事例としてご覧ください。

◆とろみが食べやすい「スパイスカレー」

 退院後、自宅で炊飯したごはんが食道に詰まり、苦しんだことがありました。どう食べればよいのかなと考えていたところ、ある日、カレーなら食べやすいと気がつきました。そこからカレー率が上がった気がします。

 もちろんカレーの他にもハヤシライスやシチュー、ドリアなども、とろみがあって食べやすそうです。ですが、わたしの趣向的にカレー率が圧倒的に高いです。唯一のデメリットは、咀嚼(そしゃく)回数を忘れて早めに飲み込んでしまうこと。しっかり噛んで食べないと、食後30分ほどでお腹が下る不調に襲われ、トイレに駆け込むことになります。そうならないよう気をつけながら食べに向かいました。(スパイスは刺激物なので、不調につながることがあります。お気をつけください)

 胃を全摘してから真っ先に向かったのは、スパイスカレー店の「ゴカルナ」(那覇市楚辺)です。店主さんには病気を心配されていたし、もともと仲良くしてもらっていることもあって、万一何か起きても頼れるだろうと訪問しました。ライス量を減らしてもらい、辛さを以前の半分以下に抑えたためか、調子が悪くなることもなく食べられました。

「ゴカルナ(那覇市楚辺)」では量を控えめにしてもらい、かなりゆっくり食べた

 ゴカルナがイケるなら、「ヤマナカリー別邸」(那覇市安里)も大丈夫だろうと思い、絶品のチキンカレーをいただきました。この日の限定カレーも副菜もおいしかったー! ヤマナは全体のバランスがよく、いつ行ってもおいしいんですよねぇ。ごはんの量を控えめにしつつ、盛り盛りの副菜トッピングにしたため、おなかがいっぱいになりました。

「ヤマナカリー別邸(那覇市安里)」は、いつ、何を食べても安定のおいしさ

 首里に住む友達に誘われてランチに伺ったのは、今年オープンしたばかりの「咖喱遊戯」(那覇市鳥堀町)。固定メニューはなく、隔週ペースでカレーが変わるお店です。これがなんとも食べる楽しみに通ずる気がして。店主のカレー遊びを見て、わたし自身もスパイスカレー作りにチャレンジしたくなりました。

ミニサイズでもおなかパンパンの「咖喱遊戯(那覇市鳥堀町)」

◆意外と詰まりにくい「ハード系パン」

 胃全摘直後、病院の管理栄養士からすすめられた食事内容を見て「離乳食か介護食のようだなぁ」と感じていました。そんな背景から、幼児が食べるものなら、わたしも大丈夫だろうと蒸しパンを口にしたことがあります。これが失敗で、食べてすぐに食道を詰まらせてしまい… 当時はまだ、もちもち・むちむちの食べ物が、詰まりやすいと分かっていなかったのです。

 それからしばらく「パンが怖い!」と躊躇(ちゅうちょ)していましたが、食べる練習をして、トライアンドエラーを繰り返しました。すると、蒸しパンのようなもっちもちの食感は詰まりやすいけれど、逆に、パリパリ・パサパサなタイプなら食べやすいと分かってきました。もともとハード系パンが好きだったので、口にしてみたところ、バリバリ食感が意外と食べやすかったのです。

 そのまま食べるより、唾液で飲み込みやすくなるよう、味が濃くなるチーズを添える工夫も欠かせません。自宅ではチーズトーストやピザトースト、ホットサンドで食べることもあります。バターをたっぷりのせたり、ちょっといいオリーブ油をつけるのも食べやすい気がします。油分多めで高カロリーにするのも、エネルギー摂取につながるのでよいかもしれません。

 なお、ハード系パンも炭水化物なので、早期・後期ダンピング症候群のような症状が生じる可能性があります。わたしもハード系パンを食べすぎてお腹の調子が狂いました。「おいしいから」「食べやすいから」といっても、食べすぎない工夫が必要ですね。

 病気になる前からずっと通っている、「ル・キュイップ」(那覇市天久)。ハード系パンの種類が豊富で、コンパクトな店内にズラッと並んだパンを前に、今日はどれにしようかなと楽しくなります。最近はドライフルーツが混ぜ込まれたパンに、バターをたっぷりのせて食べたり、シンプルかつ良質な具材のバゲットサンドイッチをチビチビ食べてることが多いかも。

ずーっと大好きな「ル・キュイップ(那覇市天久)」のハード系パンが食べやすい

 オープン時間からお客さんが詰めかける「ステイゴールド」(那覇市真嘉比)もおいしいですね。デニッシュ生地のリッチなお総菜パン・デザート系パンが店頭に並んでいますが、ハード系パンもいい。中でもわたしのお気に入りは、気まぐれリュスティック。パリッ!とした食感と小麦の味わいに、クリームチーズとクルミ、ベリーの組み合わせが絶品です。

一人一つ食べたい「ステイゴールド(那覇市真嘉比)」のリュスティック

◆肉より食べやすい「生魚」

 術後3カ月まではがまんと言われていた生魚。術後に、お刺身やお寿司などの生ものを口にしてよいと主治医に言われてから、少しずつ試しました。もともと海の幸が大好きなので、3カ月もがまんした後のお寿司は、最高においしかった〜!

 ただ、生ものを口にする際、気をつけなければいけないことがあります。胃を全摘すると、胃酸による殺菌機能を失います。そのため生食によって感染性下痢を起こしやすくなってしまうんですよね。主治医からは「みんなと同じものを食べても、胃酸で消毒できないあなただけ食中毒になる可能性がある」と聞いています。

 下痢や食中毒を避けるには生食をしない選択もありますが、それはお刺身やお寿司が好きなわたしには難しく…。そのため鮮度を見分ける自分の五感と経験を頼りに、少しずつトライしています。

 那覇市泊にある「いなり屋ゴン」の2号店が松尾にできました。久茂地の人気居酒屋「まさら」の系列でもあるので、刺身やおつまみがおいしいはずとワクワクして訪れました。この日のお刺身盛り合わせには沖縄のミーバイやセーイカ、島ダコなどが入って大歓喜! ただ、消化の悪いイカ・タコは同席のお友達に食べてもらいました。胃がないので、消化の良しあしも気にしなければなりません。

「いなり屋ゴン 松尾店(那覇市松尾)」の刺身盛り合わせ。おいしかった

 ちょっと背伸びしたランチで向かったのは「ゆんたくDINING ひとつぼし」(那覇市天久)。海鮮好きなお友達からのオススメ店です。日替わりの海鮮ばらちらしには、マグロ・サーモン・白身などが散りばめられ、どこをすくってもおいしかった〜! プチプチと弾けては広がる、イクラのねっとり濃厚なうまみも、久しぶりすぎて期待以上の感動がありました。

器にも注目したい「ゆんたくDINING ひとつぼし(那覇市天久)」の海鮮ばらちらし

◆やっぱりおいしいものを食べて生きたい

 グルメブログ運営10年目に、胃の全摘を経験しました。半年前に病気を告知された時は、正直なところ「グルメブロガーとして終わった\(^o^)/」と思いました。でも、胃がなくてもごはんをおいしく食べられている今があります。主治医に「丈夫な体に産んでもらって、ご両親に感謝ですね」と言われるほど、食べることに関してはツイているなぁと思います。

 この半年、わたしと同じように胃を全摘したがんサバイバーたちと、SNS上で交流してみました。彼ら彼女らは「胃全摘から数年たつけれど、まだ食べられないものがある」「術後1年で、やっと一人前を完食できた」などと教えてくれました。もちろん常に調子が完璧なはずなどなく、その日の調子や食事内容によって体調不良に苦しんだり、食事が詰まって大変な思いをされています。わたしもダンピング傾向が強く出る日があったりなかったりで、自分の体のハンドリングができていません。

 この胃無しという共通点を持つ同志たちとの交流で、ナマの情報が蓄積してきました。また、同志たちが前向きに生きようとしている姿に「わたしも頑張ろう」と何度も励まされました。情報交流をもとに、たとえば低GIな食材を使って簡単なパンを作ってみたり、後期ダンピングで急に眠くなったら無理せず横になるなど、生活の見直しをして体調維持を意識するようになりました。

低GIな全粒粉で作ってみたフォカッチャ。家族ウケはそこまで良くない

 生きるためには、胃全摘者も食べねばなりません。胃無しの同志たちが食事と向き合う様子をSNS上で眺め、食べ方の工夫やダンピング対策などの情報を得ながら、自分の生活をより良くする方法を模索しています。そしてわたしも、誰かのために情報を発信していかねばとも思っています。

 わたしには食べものを貯蔵する胃がありません。なので、在りし日の波布食堂のような大盛り定食だとか、キロ弁だとかには、もう挑戦できそうにありません。本当に好きなもの・おいしいものを可能な範囲で無理なく食べつつ、ダンピング症候群や食道の詰まりともうまく付き合い、さらにはウーマクーな息子を追いかけられる体力を取り戻したい。これが最近の目標です。実現するためにも、カーチャンはしっかり食べて栄養補給せねばならんのです。

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