歌舞伎町“立ちんぼ”4割がホストへの「ツケ」が理由 「取り締まり強化」「売掛金の規制」でも“イタチごっこ”が終わらない裏事情

大久保公園に面する「都立大久保病院」に立つ女性たち(撮影:渋井哲也)

某日夜の新宿区歌舞伎町の大久保公園周辺。女性たちが片隅に立って並んでいる。座っている人もいれば、外国人女性の姿もある。

そのうち一人の女性に男性が声をかける。

男性 「何をしているんですか?」
女性 「立っているんです」
男性 「条件は?」

女性が数字を言うと、そのまま2人は夜の街へ消えていった。

1か月間で“立ちんぼ”35人が逮捕

大久保公園に多くの女性たちが立つようになったのは、近年ではコロナ禍が始まった頃だったが、もともとこの付近では、90年代頃から、女子高生や外国人女性が立っていた。取り締まりがその都度あり、女性が立っていない時期もあったが、実はそうした時期でさえ、交渉役の男性に話をつける、いわゆる「援デリ」が行われていたと言われている。

そんな大久保公園付近で、寒空に立っている女性たちに使い捨てカイロやティッシュを配る人たちがいる。風俗や水商売、売春をしている女性たちのアウトリーチ活動をしているNPO法人「レスキュー・ハブ」の坂本新さんやボランティアスタッフだ。

坂本さんは、最近の大久保公園付近について、「夜の早い時間に立っている日本人女性は少ない」という。

「摘発があったため、警察がパトロールすると思われる早い時間を避けているのではないでしょうか」(坂本さん)

NPO法人「レスキュー・ハブ」の坂本新さん(撮影:渋井哲也)

ここで言う「摘発」は、警視庁の取り締まり強化を指す。大久保公園周辺では、売春防止法違反(勧誘等)の疑いで今年1〜9月までに80人が逮捕され、9~10月までの約1か月間でも35人が逮捕された。9月だけで昨年の年間逮捕者数を上回っている状況だ。

摘発後、大久保公園に面する都立大久保病院の北側には女性たちが立てないように柵も設置された。これは援助交際が話題になっていた90年代に、同病院に隣接する「東京都健康プラザ・ハイジア」横に立っていた女子高生を排除した作戦と同じだ。しかし、今回は効果があるとはいいがたいようだ。

「警察のパトロールを警戒し、私服警察官がいなくなる23時すぎに立つ女性が多くなったようです。大久保公園付近で立つのをやめて、出会いカフェに行ったり、クラブで声をかけられるのを待ったり…という話も聞きます。あとは、常連のお客さんだけに連絡をするという人もいるようです」(坂本さん)

売春防止法では、売春自体には罰則はないが、なぜ、女性たちが逮捕されているのだろうか。歌舞伎町の事情にも詳しい若林翔弁護士はこう説明する。

「売春防止法では、公共の場所で売春の “客待ち”や “勧誘行為”について罰則を定めています。立ちんぼが、逮捕されるのはそのためです」

「売掛金」は担当に会いに行く口実?

大久保公園周辺に座りこみ客を待つ女性(撮影:渋井哲也)

大久保公園に数年間立っているという20代後半のアヤカ(仮名)は今年、一度、警察に逮捕された。

「男性に声をかけられて、値段を交渉し、ホテルに入ろうとしたときに周りを囲まれて、警察手帳を見せられました。もしかすると、あの男性が警察官で、おとり捜査だったのかな…」

アヤカは今でも週に数回、大久保公園周辺で立っている。なんのために立つのか尋ねると、こう答えた。

「最初は家にいたくないというのもありました。今では、担当(のホスト)に会いに行くための資金稼ぎです。1日で数十万を使うし、『売掛金』を返すことを口実に、店に会いに行けるので…」

警視庁が9月までに逮捕した女性のうち4割は、ホストクラブへの支払いを目的に売春していた。アヤカもその1人だった。

「ホストの『売掛金』とは、他の飲食店でもみられる『ツケ』と同様、飲食代金を後払いする合意です。ホストクラブの場合には、その飲食代金について、担当ホストが店に立て替え払いをして、ホストが客にその分を請求することも多いです。

現行法でホストの売掛金を直接規制する法律はありませんが、売り掛けをする際に脅迫や詐欺があれば、民法等の法律で取り消すことが可能です。また、売り掛けになる際の状況やその金額が高すぎる場合などには、公序良俗に反するとして無効になる可能性もあります」(若林弁護士)

ホストクラブの「売掛金」は国会でも取り上げられ(11月9日、参議院内閣委員会)、警察庁は11月16日、各道府県警察本部長あてに「ホストクラブ等の売掛金等に起因する各種事件捜査等の推進について」という通知を出した。

「売掛金等の支払いのために女性客が売春させられたり、各種性風俗店に紹介される」として、違法行為の取り締まりなど適正化を図る、としている。30日には、立憲民主党が「悪質ホストクラブ被害対策推進法案」を衆議院へ提出。12月5日には、歌舞伎町にホストクラブを持つ経営者らも区との会合で、来年4月から売掛金を廃止すると表明した。

支援者「売掛金規制しても終わりではない」

「レスキュー・ハブ」にも、売掛金の返済をめぐる相談が寄せられることがあるという。

「2~3回ホストに行った女性が、どんなに高くても数十万のはずなのに200万円を請求されたということがありました。本人も1回ボトルは入れたけど、それ以外には長くいるわけではないし、そんなに使った記憶はないと。ホスト側も、『多分、この子はわかっていないから、払うだろう』と思ってるんじゃないでしょうか。その時は、伝票の詳細を請求させました」(坂本さん)

売掛金の返済のために、ホストが女性に風俗で働くことや立ちんぼをすることをすすめた場合、法的な問題にもなり得る。しかし、坂本さんは「なぜ女性がホストクラブに足を運ぶのか? という問題から始まっている」と話す。

「国会で話し合われている『売掛金の規制』は一つの抑止になるとは思いますが、もうちょっと掘り下げていかないと、法律を作って規制したとしても終わりではないと思います」(坂本さん)

買う男性たちが罪に問われないワケ

ちなみに、立ちんぼの女性を「買った」男性は逮捕されない。

「(売買春の)客については、原則として逮捕されません。売春防止法は、単純な売買春について罰則を設けていないからです。ただし、女性が18歳未満の場合は、児童買春として逮捕される可能性があります。女性が18歳未満であることを知らなかった場合でも、過失があれば、児童買春の罪を免れないことになります」(若林弁護士)

17歳のナオ(仮名)は、新宿・歌舞伎町の「TOHOシネマズ」横にある「シネシティ広場」周辺、通称、トー横に数年前に家出をしてきた。当初は、トー横で知り合った人たちとビジネスホテルに泊まることが多かったが、家出生活も長くなり、生活費を稼ぐため、そしてホストへの支払いのために、今は大久保公園周辺に立っている。

ナオと売買春をした男性は、児童買春として罰せられる。そのことを客に悟られないために、「19歳」と言うことにしている。

「(取材日の)今日は、8人の相手をしました。それで15万くらいです。これから5万ほど(売掛金の一部を)返しに担当に会ってきます」

ナオはホストクラブへ向かってトー横の人並みに消えていった…。

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