石川県金沢市で2022年9月、小学4年生(当時)の女子生徒が登校中に車にはねられ、現在も意識不明になっている事故の裁判で、金沢地裁は10月25日、スマートフォンで脇見運転をしたとして「過失運転致傷罪」の罪に問われていた会社員の男性(34)に対し、禁錮2年6か月・執行猶予4年(求刑禁錮2年6か月)の有罪判決を言い渡した。
交通事故の加害者に対し“執行猶予付き”判決が出るのは珍しいことではない。
しかし、未来ある小学生が被害に遭い、その後1年以上も意識が戻っていない状況もあり、この判決に対してインターネット上では、「死なない程度に轢いても許される前例ができた」「マジで司法糞」など異議が多く上がった。
司法の場では「意識が戻っていない」など、被害者の「現在の状態」は判決に考慮されないのだろうか。
「交通事故で実刑判決が出るハードルは高い」
交通事故に詳しい伊藤雄亮弁護士は、「事故直後は意識不明でも大幅に回復される方は珍しくないので、むしろ裁判でも『現在の体調』は重視されていると思います」と話す。
さらに「怪我の程度が重いほど、量刑にも反映される傾向があることは間違いありません」と続ける。
ではなぜ、1年以上も意識不明状態が続いている今回のケースで「執行猶予付き」判決がでたのだろうか…。
これについて伊藤弁護士は「私も個人的には疑問がありますが」としつつ、「前科がなければ、“死亡事故”であっても執行猶予がつくケースが多い」と説明する。
「事故態様の悪質さが交通事故全体の中でも際立っているケースでなければ、なかなか実刑にならないのが実情です。たとえば、わき見運転でひき逃げまでして被害者を死亡させたのに、執行猶予付き判決だったケースもあります」(伊藤弁護士)
さらに、実刑がついた事例を見ても、伊藤弁護士は疑問を感じることがあるという。
「居眠り運転で、2名が被害に遭って(うち1名が死亡、もう1名が重傷)、実刑がついたケースがありますが、それでも禁錮2年8か月でした。少しでも事故の程度が軽ければ実刑が危うくなって、執行猶予に“落ちる”だろうという風に考えると、このような刑の重さで本当に良いのだろうかと、率直な感想として思います。
これらのことから、交通事故で実刑判決が出るハードルは高いと言わざるを得ず、悪質な運転に対する抑止力になっているのか疑問に感じるケースも多いのが現状です」(同上)
わき見運転は「車を暴走させている」タイプの違反
運転中のスマートフォン操作が原因で、起きてしまった悲しい事故。
政府広報オンラインによれば、運転手がスマホ等を使用していた場合、使用していない場合と比較して死亡事故になる割合が約1.9倍となったという(令和3年調査)。
また、各種研究結果では、ドライバーは2秒以上スマホの画像を見ると危険を感じることもわかっている。一般道の法定速度(60km)で走行する自動車は、1秒間に約17m、2秒間では約33m進む。まさに「あっ」という間に景色が変わっているのだ。
こうした「ながらスマホ」等よる脇見運転が原因の事故が増加したことを受け、2019年12月には道路交通法が改正され、罰則の大幅な強化が施行された。
現在、運転中にスマホ等を使用し事故等を起こした場合には、「人身事故」はもちろん「物損事故」だったとしても刑事処分による罰則が科せられる可能性がある。
前出の伊藤弁護士は、脇見運転について「いわば“車を暴走させるタイプ”の違反運転であり、それだけ被害結果も重大(死亡、重度後遺障害)になることが多い」とドライバーに向け、注意を呼び掛ける。
「わき見運転は、法律上はもちろん『不注意による過失』という扱いにはなりますが、一方で常識的な感覚としては、純粋な“不注意”というより“意図的”に脇見をした結果発生するもので、予防は極めて容易なはずです。わが国では脇見運転による悲惨な事故が後を絶たず、はっきり言って日本人の運転モラルは決して高くないことを示しています。そのことを一人一人が肝に銘じるべきだと思います」