陸上10000m日本記録保持者に「3つの共通点」 26分の壁突破は塩尻和也か佐藤圭汰か、それとも……

塩尻和也(富士通)の日本新記録樹立(27分09秒80)で幕を閉じた第107回日本選手権10000m。

同選手をはじめ、太田智樹(トヨタ自動車)、相澤晃(旭化成)の計3選手が日本記録を破るハイレベルな戦いに希望の光が差し込んだが、パリ五輪の参加標準記録となる27分00秒00の突破はならず。走りやすい12月の気候に加え、オープン参加のシトニック・キプロノ(黒崎播磨)がペースメーカを務めたこと、電子ペーサー(ウェーブライト)の使用とお膳立ては完璧だったが、26分台突入はお預けとなった。

◆【実際の画像】陸上界のプリンス「お塩さま」のまぶしすぎる笑顔、指差す先には「日本新」の赤い文字が……

はたして、日本人初の26分台は誰が達成するのか?

過去の日本記録保持者の共通点を踏まえて予想していきたい。

10000m日本記録保持者に3つの共通点

「厚底以前」の偉業 村山紘太

大学時代は城西大学のエースとして2区を走った村山紘太。2015年11月28日、八王子ロングディスタンス・10000mで27分29秒69をマークし、高岡寿成の持っていた日本記録を14年ぶりに更新した。今年のニューイヤー駅伝では1区区間賞と、現役バリバリのスピードランナーだ。

学生最強から日本最強へ 相澤晃

3大駅伝(出雲駅伝、全日本大学駅伝、箱根駅伝)すべて区間新記録と学生時代は敵なしだった相澤晃。卒業後も勢いはとどまることを知らず、東京五輪の選考を兼ねた第104回日本選手権10000mで27分18秒75の日本新記録を樹立。先日行われた第107回日本選手権10000mでも自己ベストを更新と、故障のブランクを感じさせない走りを披露した。

3000m障害のプリンスが平地を制覇 塩尻和也

順天堂大学時代に3000m障害でリオデジャネイロ五輪に出場した「学生オリンピアン」塩尻和也。今シーズンは5000~1000mのレースに照準を絞っていたが、先に記したように第107回日本選手権10000mで3年ぶりとなる日本新記録を樹立。現役最速ランナーの称号を掴んだ。どことなく掴みどころのないキャラクターから一部ファンの間で「お塩さま」と呼ばれる塩尻。現在、もっとも26分台に近い存在と言えるだろう。

これら3名の共通点を考えたとき、浮上するのが「全日本駅伝区間2位以内」「学生時代に世界大会を経験」「身長170㎝以上」の3項目。10km前後の距離区間が多い全日本大学駅伝は将来の10000m適性を測るうえで絶好の物差しとなり、早い時期に世界大会を経験することで大舞台への対応力を磨く。そして「身長」は一概に決めつけられるものではないが、かつてスピードランナーとして鳴らした高岡寿成は身長186cm。10000mの日本人学生保持者である田澤廉も180cmの長身で、長い手足を活かした走法が10000mという舞台に高い適性を発揮するのかもしれない。

以上の共通項を判断材料としつつ、今回は出場しなかった選手から日本人初の10000mで26分台突入が期待できる3選手を挙げていこう。

佐藤圭汰(駒澤大学)

初の10000m記録会となった今年11月の八王子ロングディスタンスで27分28秒50のU-20日本新記録を樹立。今年の全日本大学駅伝では区間賞を獲得し、アジア大会にも出場したランナーだ。実績もさることながら、日本人離れした体格と身長184cmは魅力。社会人を含めたライバルたちとしのぎを削るのは来年以降になりそうだが、ポテンシャルを加味すればいきなり26分台突入があっても驚けない。

篠原倖太朗(駒澤大学)

駒澤大学入学後、メキメキと頭角を現したランナー。今年の3月12日に開催された日本学生ハーフマラソン選手権で優勝し、ワールドユニバーシティゲームズ日本代表として出場(個人6位)。昨年、今年と出場した全日本大学駅伝ではいずれも区間2位の好走をみせた。身長175cm、10000mの自己ベストは27分38秒66。さらなる記録更新が期待される。

前田和摩(東京農業大学)

学生長距離界に彗星のごとく現れたニュースター。今年6月に行われた全日本大学駅伝関東学連推薦選考会、10000mに出場した前田和摩は先団を形成する外国人留学生に対して真っ向勝負を挑み、U20日本歴代2位(当時)の28分03秒51を叩き出した。箱根駅伝予選会激走の疲労も心配されたなかで出場した全日本大学駅伝では、区間3位の好走。177cmの身長に加えてまだ大学1年生と、今後の伸びしろを考えると期待は膨らむ。

もちろん、156㎝の小柄な体をまったく感じさせないダイナミックな走りを見せる羽生拓矢(トヨタ紡織、10000mの自己ベスト27分27秒49)のように、学生時代に戦績を残せなかったランナーが覚醒することもある。過去の結果から捉えた傾向のひとつとして捉えていただければ幸いだ。これまで「不可能に近い」とされてきた10000m26分台。その背中は確実に見えている。

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◆【日本選手権2023/男子10000m】箱根スター集結で挑むパリへの道 田沢廉・相澤晃・伊藤達彦ら「日本記録・27分切り」狙う

(M.Tahara)

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