山あいで「鯛釣り」 芋洗いや猿追いも、和歌山・古座川町の神社で独特の神事

鯛を釣り上げる総代の野口貢盟さん(5日、和歌山県古座川町小森川で)

 和歌山県古座川町小森川の神玉神社(井谷正守宮司)で5日、例祭が営まれた。「鯛(たい)釣り」や「芋洗い」「猿追い」など独特な神事があり、約50人の参拝者が集まった。

 神玉神社は12世紀後半、熊本県からご神体を移設して建てられたとされる。小森川より山奥の奥番という地域にあったが、1942年に現在の場所に移転した。

 過疎化が進み、祭りの存続が危ぶまれている。集落唯一の住民、矢倉寛之さん(41)が、キッチンカーを出店してもらったり、参拝者らに菓子や服などを持ち寄ってもらい、さまざまな物を投げる餅まきを企画したり、イベントの要素も含めながら多くの人に訪れてもらおうと工夫している。

 鯛釣り神事は、なぜこんな山奥で行われているのか明らかになっていない。小森川出身で総代を務める野口貢盟さん(61)=京都市=によると、12世紀後半、平家の敗戦に伴って熊本から移り住んだ一族が、熊本で暮らしていたころに3種類の鯛を天皇に振る舞っていたという名誉を持ち込んだとか、山の奥では海の魚が貴重なので祭りの日に神様に供えるからなど、いろいろな説があるという。

 祭りでは井谷宮司(69)が、湯立神事をして祝詞を奏上。参拝者が玉串をささげた後に「鯛釣り神事」があった。野口さんがさおを持ち、鯛の形をした板を参拝者に付けてもらった。「釣った、釣った、鯛に釣りきられた」「赤鯛が9匹、白鯛が9匹、黒鯛が9匹、三九(さんく)27匹釣りました」と言うと、参拝者全員で「大漁、大漁」と声をそろえた。

 その後、弓を引いて矢を打ち、鳥を撃つ動作をする「鳥追い」や、籠の中のイモを洗う「芋洗い」、参拝者全員で柿の種を投げる「猿追い」といった神事があった。

 野口さんは「父も祭りに参加していて、小さいときから見てきた。鯛を3匹に増やしたり、柿の種をお菓子に変えたり、形を変えながらもいろんな神事を続けていきたい。たくさんの人に来てもらえてよかった」と話した。

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