<レスリング>【2023年西日本秋季リーグ戦・特集】決勝の3敗はいずれも1点差、流れを途切れさせずに5連覇の周南公立大

西日本リーグ戦の最多記録である「12連覇」(関大)や歴代2位の「9連覇」(立命館大)を論ずるのは、まだ早いだろうが、周南公立大が万全の闘いで2023年西日本学生秋季リーグ戦を制し、2021年秋季から5季連続で西日本の頂点に立った。

決勝の相手は春季と同じ近大。スコアは春季が6-1で、今回は4-3。しかし、負けた3試合はすべて1点差の惜敗で、流れを持っていかれる内容ではなく、終わってみれば強さが目立った闘いだった。守田泰弘監督は「言い訳でしかないのですが…」と前置きして、大会直前に体調不良選手が続出し、ベストメンバーではなかったことを明かした。

▲5季連続23度目の優勝を遂げた周南公立大

出場こそできたが、発熱のあった選手などがいて、起用したメンバーでも万全の闘いはできなかった。逆に考えるなら、ところどころで二番手選手を起用しながらも勝つだけの層の厚さが作れたことでもある。

激しい練習を積めば、負傷で欠場を余儀なくされる選手が出ることもある。そこを乗り越えてこそ不動の王者の地位を続けられる。「これも(常勝チームへの)試練かな、と思います。盤石の布陣ではなくとも勝ってくれたところに、チームの成長を感じました」と振り返った。

負けても終了間際まで攻めていた1年生

決勝の7試合で、終盤にばてていた選手は皆無。70kg級の松田來大と125kg級の春風飛翼の2人の1年生は、3年生を相手に1点差の惜敗。終了間際まで攻めて勝利を目指した姿勢は、続く選手に闘志を与えたことだろう。

チームの勝敗が決まったあとだったが、57kg級の宮原健史郎(2年)も0-2から1点差に詰め寄り、さらに攻めた。チームの勝敗が決まったあとの“消化試合”であっても、手を抜くことのない姿勢がチームの活気となり、チーム力を押し上げていることは間違いない。

▲守田監督に続いて、小林啓介部長の胴上げ

守田監督は、選手がばてないことに「それだけの練習をやっています」と胸を張る。さらに、「勝ちたい、という気持ちが粘りにつながっているのだと思います」とも言う。終盤の粘りというのは、もちろん体力の裏付けが最も必要だが、精神力によるところも大きい。「勝てない」という気持ちが出てしまうと、どんなに体力があっても無用の長物となってしまう。5季連続優勝という快挙におごることなく、上を目指して強化を続けてきた成果だろう。

選手を信頼してチャレンジを出さなかった守田監督

守田監督のファインプレーは、第2試合(86kg級・森東大樹)に見られた。1-2とリードされていたラスト30秒、相手のタックルを受けてしまった森東は、場外際で必死のタックル返し。相手の肩が返ったかに見えたが(下写真)、グラウンド状態での場外と判定されてスコアは1-2のまま。森東の目は、明らかにチャレンジを要求していた。

▲微妙だったタックル返し。相手選手(青)の肩は返っていたか?

守田監督は動かなかった。チャレンジが成功すれば3-2と逆転するが、失敗すれば1―3。場外ポイントを取っても追いつかない差となる(2-2に追いつけば森東の勝利)。同監督は「試合の流れがあったから」と説明した。チャレンジを出せば、試合が1分、1分半と中断する。森東に勢いがあり、「目が死んでいなかった。この勢いを止めてはならないと思った」と、残り23秒での奮起にかけた。

監督の思惑を知ってか、知らずか、森東は必死のアタック。逃げ切りをはかる相手をラスト8秒でとらえてテークダウンを奪い、3-2の逆転勝ち。この逆転勝利で、流れは周南公立大に傾いた。

「意地を見せてくれました。あそこが勝敗の分かれ目でしたね」と守田監督は。試合の流れを見て、選手を信頼した指揮官の冷静な判断が、チームの勝利を引き寄せた。チャレンジは、出せばいいものでない。ときには、出さないことも必要だ。

西で勝つのは当たりまえ! 目標は東日本の大学

森東はそのシーンを「(相手の)肩は返っていたように思いますけど…。でも、チャレンジしても、失敗したんじゃないかな…。う~ん。どうだったのかな…」と振り返り、よく分からない様子。試合が再開されたら、「(カウンターではなく)自分で取るしかない」と割り切り、最後の猛攻を試みて逆転勝ちを引き寄せた。「ポイントはチャレンジに頼るのではなく、しっかり取らないとなりませんね」と言う。

来春の卒業で選手生活にピリオドを打つ。「相手の中原(朱里人)選手は春のリーグ戦で負けていた相手なんです。勝ててよかった。いい思い出になりました」と、満足そうに最後のリーグ戦を振り返った。

▲ラスト8秒で逆転勝ちし、優勝に貢献した森東大樹

チームの勝利を決めた小石原央義(65kg級)は新主将に任命された3年生(注=すでに幹部交代済み)。初の大役でチームの勝利を決める役目をこなした。「試合順を見たとき、自分のところが勝負になるかな、自分が決めなきゃあかんな、と思いました」と覚悟は十分だった。試合前にマットの中央で円陣を組んで気合を入れたときから「流れをつくれた試合でした」と振り返った。

連覇を続けねばならない重圧もあったと思われるが、「特になかったです」とさらり。というのも、「東の大学に勝つことが自分たちの目標です。西で勝つのは当たりまえ、という気持ちです。6連覇、7連覇を目指します」と語気を強めた。

1年生2選手を擁したチームで5連覇を達成。守田監督は来年以降、「連覇にはあまりこだわらず」と言う一方、「選手は『途切れさせてはいけない』という重みを感じると思います。それがいい方向に出てほしい」と、さらに上を目指してくれることを期待した。

▲応援団にあいさつし、来年以降の健闘を誓う選手たち

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