[社説]政府の少子化対策 負担の議論に向き合え

 岸田文雄首相が掲げる「異次元の少子化対策」に向けて、政府が政策や財源を具体化した「こども未来戦略」の素案を公表した。

 低所得のひとり親世帯は児童扶養手当を拡充する。満額支給となる年収の上限の目安を160万円から190万円に引き上げ、手当の減少を心配して仕事を抑制しないようにする。子育て世帯の児童手当についても拡充し、第3子への加算期間を第1子が22歳になる年度末まで延長する。

 親の就労の有無に関係なく保育を利用できる「こども誰でも通園制度」も、全国で展開するなど、幅広くメニューを盛り込んだ。

 一方で、少子化対策にどの程度の効果があるか見通せない項目もある。

 3人以上の子どもを養う多子世帯の子ども全員を対象に、大学の授業料などの高等教育費を「無償化」する。対象となる世帯が限られることに加え、教育費の負担が重いのは2人以下世帯でも同じという疑問が残る。

 卒業後も長期にわたり、奨学金の返済を抱え続ける若者たちの現状は社会問題になっている。大学などへの進学のために、日本学生支援機構の貸与型奨学金を利用し返還を進める人の3割以上が「結婚や出産に影響している」と答えた調査結果もある。

 専門家は、少子化対策なら1人目を出産しにくい実態に目を向けるべきだと提起する。併せて、1人を育てるのに精いっぱいといった世帯にも支援を手厚くしていき、出産への不安を取り除く必要がある。

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 「国民の実質負担はゼロ」という説明にも危うさがつきまとう。

 追加予算として示されたのは、2024年度から3年間に年およそ3兆6千億円。医療や介護など社会保障の歳出改革で1兆1千億円を見込み、企業が負担している「子ども・子育て拠出金」などの活用で1兆5千億円を見積もる。残りの1兆円は新たに創設する「支援金」だ。26年度から企業や個人の医療保険に上乗せしていき、28年度には1兆円を集めるという。

 財源の確保に当たり、政府は「国民の実質的な負担は生じず、増税は行わない」としている。ただ、政府がいう「国民負担」とは、日本全体でみた国民所得に対する社会保障負担の割合。歳出改革をしながら、賃上げで国民の所得を上げていくので、新たな「支援金」で支払いが増えても社会保障の負担率は上がらないという理屈だ。

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 「実質負担なし」について政府は当初、歳出改革で高齢化に伴う保険料の伸びを抑えれば、「支援金」の負担分を相殺できると説明していた。これに、賃上げによる国民所得の増加という要素を加え「社会保障の負担率は上がらない」と説明しだしたのは後になってからである。

 岸田首相は11日のこども未来戦略会議で「少子化は最大の危機だ」と述べた。次世代を育むために、少子化対策の負担を分かち合うのは必要なことである。政府は、財源の確保を巡る議論に真正面から向き合うべきである。

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