はばたけ未来を背負う若者たち 日米の草の根交流 ~インバウンドも大事だけど、されど、やはり出でよ、飛び立て日本の若者たち~

日本テレビ放送網(現日本テレビホールディングス)で放映されたアメリカ大陸横断クイズ。50歳代以上の方は記憶にあるかもしれない。日本からゴールのニューヨークまで1000問以上のクイズに正答しながらたどり着くというもので、予選ではやっと米国大陸までたどり着いたかと思いきや、上陸空港でのクイズで正答できずそのまま日本に帰国という悲喜こもごものクイズ番組は、お茶の間の日本人を夢中にさせた。番組は、海外旅行者数が300万人程度だった1977年から1992年まで続き、その後1998年に一度だけ特別番組として再度放映された。70~80年代とアメリカ旅行は憧れであり、筆者も大学2年のときに1カ月ほどバックパッカーで放浪した。1980年代半ばから90年代は米国の大学や大学院には多くの日本人が集った。ところが最近は米国の大学のアジアからの留学生は中国人と韓国人がメインで日本人は少数派になっていると聞く。

こうした中、(一社)日米協会が今年で3回目となるアメリカボウルというクイズ大会を外務省や米国大使館などの協力を得て開催し、去る10月28日に東京都港区赤坂で決勝戦が行われた。決勝戦に進んだ上位3校には、外務省KAKEHASHIプロジェクトの予算により短期米国研修旅行が贈呈される。筆者は同協会のメンバーであり日曜の午後に赤坂まで足を伸ばした。

日米協会ロゴ

日米協会は、1917年(大正6年)に創立された日米民間交流団体で、初代会長には明治憲法の起草に携わった政治家の金子堅太郎が就任。名誉副会長には徳川家達、渋沢栄一、高橋是清、高嶺譲吉など、執行委員には新渡戸稲造、団琢磨、井上準之助など、時の政財界や学界を代表する人達が名を連ね、以後歴代会長には、吉田茂、岸信介など首相経験者や駐米大使経験者などが就任している。2017年に100周年を迎え、天皇・皇后両陛下(現上皇・上皇后両陛下)が式典に参列されるほどの長い伝統と格式のある団体である。現会長は元駐米大使の藤崎一郎氏、名誉会長には駐日米国大使のラーム・エマニュエル氏が就任している。

このアメリカボウルだが、対象は日本人の高校生たちである。日本の若者がアメリカに興味を持ち、アメリカを知り、さらに日米関係の歴史について理解を深め、将来は両国間の交流の担い手となってもらうことが目的である。今年で3回目の大会には首都圏のみならず新潟、長野、愛知、岡山、高知、鹿児島など13の都道府県から40校117名が参加した。

参加各校の生徒たち

ウルトラ横断クイズと異なるのは、質問も回答も全て英語であるということ。

アメリカの歴史・文化・芸術・地理・科学・日米関係などについての知識を競う英語のクイズ大会である。参加者は3名でチームを組み、熱い戦いを繰り広げ、早稲田実業、県立千葉、栄光学園、横浜翠嵐、開成、ラ・サールの6校が決勝ラウンドに駒を進めた。

熱戦の様子

筆者は決勝ラウンドを我が事のように耳を澄まして問題に聞き入ったが、質問者からWhat is the name of the national football league championship game? と流れると高校生たちは楽勝と言わんばかりポンとSuper Bowl と回答。

問題は 「Who am I?」「省略問題」「早押し」「選択」「マッチング」「筆記」の5回戦におよんだ。テレビ番組同様に盛り上がり、観客席で決勝に進めなかったチームも固唾を飲んで見守り、歓声が上がる。檀上ではガッツポーズあり、誤答して悔しさを隠せずに天を仰いだりと、見ている方もハラハラドキドキであった。また司会者に質問の要件について事前に細かく確認を求めるところは、筆者の世代にはない、軽やかでスマートな今どきの高校生だろうか。そして筆者がこの単語のつづり何だったか? という問題にも回答をさらりとボードに書いていく。

決勝ラウンドのステージ

結果として栄光学園、県立千葉高校、開成高校の上位3校がアメリカ行きのチケットを手に入れた。3校の参加生徒は2024年3月にアメリカ研修としてワシントンD.C.にて1週間の研修を行うそうだ。現地では、在アメリカ合衆国日本国大使館、経団連米国事務所、米国議会議事堂、米国国防総省(ペンタゴン)の訪問、現地の高校生との市内見学、ワシントンD.C.日米協会元理事長宅でのイベントなどのプログラムを体験するらしい。

このアメリカボウル、高円宮妃殿下が名誉総裁を務めておられ、妃殿下は休憩時間になると会場内をくまなく回られ、出場している高校生ひとりひとりにお声を掛けられ、高校生たちもおくすることなく妃殿下を囲んでなごやかに談笑していた。

妃殿下との記念写真

表彰式での妃殿下のお言葉にもあったが、今の時代、いろいろなところで大変なことが起こっているが、人間は憎みあうより共通のものの方が多く、英語はそのツールでしかない。こうした若者たちがおくすることなく海外に飛び出し、自分と違うことが当たり前の世界を見聞きし、相手の良さも痛みも肌で感じることが、真の相互交流ではなかろうか。

観光事業者も今は、インバウンド、インバウンドと鼻息が荒いが、日本人のアウトバウンドにも一層力を入れる必要があるのではないだろうか。先日、別の会合であいさつをされたエマニュエル駐日米国大使も、日米同盟は国家間の政治・社会・経済面でのアライアンスと言う人が多いが、それだけではない、友情がそこにあると強調された。搭乗員8人が亡くなった米空軍オスプレイの墜落事故の際にも、自衛隊や海上保安庁だけでなく、地元の漁師が自ら船を出して行方不明者を懸命に捜索したことにも触れ、友情や絆があってこそだと強く訴えておられたことが印象に残った。若い高校生たちを含め、おおいに海外に飛び出し交流を育くめるようその土台を作るのも筆者を含めた事業者の責任でもある。今年3月に閣議決定された観光立国推進基本計画は紙面の多くをインバウンド関連の施策に割いているなか、アウトバンドに関するボリュームはお世辞にも肉厚とは言い難く、実にあっさりとしていて、さらりと触れてこうある。

(引用はじめ)

アウトバウンドの促進(第3項の(9))

アウトバウンドの促進は次世代を牽引する若者をはじめとする国民の国際感覚の向上の みならず、国際相互理解の増進による諸外国との友好関係の深化を図るものである(以降省略、引用終わり)。

筆者はもう一度申し上げたい。さあ出でよ、飛び出せ海外へ。

※写真提供 (一社)日米協会

寄稿者 中村慎一(なかむら・しんいち)㈱ANA総合研究所主席研究員

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