バイク乗りが電動キックボードに乗るとどう感じるのか? ジャパンモビリティショーで試乗した新世代モビリティをレポート

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ジャパンモビリティショー2023で試乗してきた電動キックボードなどの新世代モビリティについてレポートをお届けしたい。バイクの免許を取得して30年ほど乗り続けてきたバイク乗りは、同じ2輪という共通項を持つ電動キックボードに触れてどう感じるのだろうか。

●文:ヤングマシン編集部(ヨ) ●写真:編集部

安全に運用できるなら、そりゃあ乗ってみたいわけで

ジャパンモビリティショー2023、EICMA 2023と続いたニューモデルラッシュも一段落。ここらでバイクのメインストリームではなく、周辺で取材してきたもののレポートを少しずつお届けしていこうと思う。

さて、まずはとかく目の敵にされがちな特定原付の電動キックボードを取り上げてみたい。まあ都内をバイクやクルマで走っていれば、ごく一部のユーザーであるとは思うものの、無法な自転車と同じように信号無視や逆走、信号と関係ないところでの横断、20km/hモードのまま歩道走行といった姿を、けっこう頻繁に見かけるものだ。

やはり交通ルールをまともに知らない(知る気もない)層が手軽に乗れてしまうことには問題があると言わざるを得ず、目立つことなくルールを守って走っている電動キックボードユーザーがかわいそうに思えてくる。レンタル業者は”やっています”というポーズだけでなく、運用ルールの周知徹底に引き続き努力していただきたいし、なんならお上も原付免許くらい持ってなきゃ乗れないように法規改正してしまってもいいのではと思う。

じゃあ電動キックボードそのものが悪かというと、そうとも言い切れない。バイクユーザーの立場から見れば、同じ2輪の乗り物という共通項がある電動キックボードは単純に好奇心の対象になる。安全に運用できるのであれば乗ってみたいし借りてみたい。同じように思う方も少なくないはずだ。

ちゃんと合法に作られていて安全に運用できる環境ならば、とりあえず試してみるしかないっしょ!

そんなわけで、ジャパンモビリティショーのスタートアップ企業が集まるブースに隣接した電動キックボード(を含む低速パーソナルモビリティ)の試乗会場で試乗してみた。だって、2輪乗りなら正直言ってこういうの嫌いじゃないでしょう?

せっかくなのでバイク乗り目線から、ちょっとだけガチめなインプレッションをお届けしてみたい。

左右対称に足を置けるデイトナ「DK01」

まずはバイク乗りとして馴染みのあるデイトナから。バイク関連の総合パーツメーカーとして、さまざまなカスタムパーツをリリースするデイトナだが、電動アシスト自転車や電動キックボードなど、新モビリティの導入にも積極的だ。

同社の電動キックボード「DK01」の最大の特徴は、街でよく見かけるような足を前後に置くタイプではなく、左右対称にステップボードが設けられているところ。デザインは同社の折り畳み式電動アシスト自転車「DE01」のフレーム形状をオマージュしたネオクラシックっぽい雰囲気で、バッテリーは足元のカバンのようなボックスに収まっている。

開発者もバイク乗りであり、随所にその感性が感じられた。

Daytona Mobility DK01

タイヤ外径はやや大きめで安定感があり、ステップボードは前後に幅があるので体重を乗せる位置にも自由度がある。好ましいと感じたのはブレーキのフィーリングで、初期の食いつきが抑えられていたことだ。もちろんレバーを握っていけばしっかり利かせることはできるが、極端なショートホイールベースなのでガツンと利きすぎると前転の恐れがあるし、試乗会場はコンクリート路面でグリップも弱めだったので、この特性にはかなり安心感を覚えた。

スロットルレバーを親指で押し込むと加速するわけだが、こちらもスムーズな特性で馴染みやすい。この加減速のスムーズさによって、左右ステップゆえの加減速Gへの踏ん張りの利きにくさもあまり気にならない。個人的には、2~3cmでいいので少しステップ位置を後ろに下げてみたくなった。そのほうが減速時にさらに安心感が増すんじゃないかと思う。

電動キックボードはシートもない立ち乗りモビリティゆえに、タイヤの外径と加減速の特性、そしてステップ位置がかなり影響する乗り物なんだなと認識した。そこがいい感じにハマっているDK01は、設定されたコースを1~2周も回ればすぐに安心して走れるようになる。

両足の前後位置が揃っているのがおわかりだろうか。電動キックボードとしては珍しいタイプ。

最高速度は20km/hだが、バイクと同じように基本に忠実な減速・旋回・加速を意識して走るとかなり楽しい。ショートホイールベース+リジッドサスペンションのクイックな特性と、ヘルメットを被っているとはいえ剥き身で乗っているような感覚から、実際の速度よりもスピード感があり、ちょっと雑な操作をすれば挙動が乱れるなど、試行錯誤して走るスポーツ感がきちんと備わっている。

街中を想定したような速度で走ってもコントロールする楽しみがあって、幹線道路のような周囲の速度が高い場所さえ走らなければけっこう安全に乗ることができそうだという気になった。ちなみに、フレームは相当に剛性が高い感じがあり、いつでもしっかりとしたフィードバックが返ってくる。

一方で、最高速度を6km/hに規制する歩道走行モードに切り替えると、体感的にはかなりゆっくりに感じるようになった。2輪の乗り物は速度が低くなるほどバランスが難しくなるが、DK01の場合は左右対称のステップによってバランスを取るのが比較的容易。それでも、2輪の特性に慣れていない方がハンドルでバランスを取ろうとすると少しフラフラすることもあるだろう。そこは最低限のスキルを身につけるしかない。

総じていえば、DK01はバイク乗りが開発しただけあってスポーティにも楽しめるし、さまざまな速度域で過渡特性に角がないのが好ましい。なんならクローズドコースに限ってもう少しスピードが出るようにカスタムしてみたいなぁという気にもなるような安定感だった。

スケータースタイルのYADEA「KS6 PRO」

続いては、電動キックボードとしては一般的な前後に足を置くスタイルのYADEA「KS6 PRO」だ。こちらはさらにコンパクトで、タイヤ外径も小さめ。そのままではクイック過ぎる特性になって扱いにくさが生じそうなものだが、フロントにストロークの小さなテレスコピックフォークを採用することで安定感を稼いでいる。

YADEA KS6 PRO

DK01と同じように右手の親指でスロットルレバーを押し下げることで加速する。特性はスムーズそのもので、自分の足で蹴りだしてからのスタートですぐに全開にしても不安はない。

バイクにはない前後に足を置くスタイルが加減速に対する両足(というか前後それぞれの足)の踏ん張りを容易にしていて、ややクイックなフロントブレーキの特性も気にならない。一方で、左右へのバランスは芯が細いような感覚で、より繊細な体重移動が求められる。これが実はけっこう面白いのだ。

小径タイヤならではの、ハンドルにむやみに舵角を与えない方がよさそうとか、ちょっとした段差にも注意を払ったほうがよさそうとか、そういった気を遣いながら丁寧な操作にトライする楽しみがある。意外にも、バイク乗りとして馴染みやすいフィーリングを持っていた。

ただし、この繊細なバランス感は6km/hの低速モードでやや難しさにもなる。ハンドルを切って補正するのではなく身体の重心でバランスを取る、という2輪の基本に忠実な扱い方をすれば問題ないが、2輪の経験の浅い方は思いのほか苦戦するかもしれない。

見ての通り線が細くタイヤ外径も小さいが、不安になるほどではないので試行錯誤を楽しめる。

KS6 PROは、街で見かける一般的な電動キックボードがどういう乗り物かを教えてくれた。バイク乗りが乗ると最初は前後に足を置くスタイルに違和感を覚えるかもしれないが、アクティブな加減速を行うときに利点を感じる。ただし、バイクのような安定感はないので扱いはあくまでも丁寧に。

ちなみに、普通の原付一種登録ができる兄弟車のKS5 PROもラインナップされるので、運用環境によってはそちらを選ぶのもアリかも。

電動キックボードは面白い! でも……

2機種の特定原付に属する電動キックボードに試乗して感じたのは、乗り物好きの視点から見れば単純に面白い乗り物だということ。バランスを取りながら走り、速度コントロールや走行ラインの描き方を工夫していく楽しみがあるのは、同じ2輪の乗り物であるバイクに通じるものがある。

ただし、じゃあこれを公道で乗るのも楽しいよね! と諸手を挙げて賛成できるかとなれば話は別だ。

そもそも2輪の乗り物は速度が低いほどバランスと保つのが難しくなり、“速度さえ落とせば安全”がすべての場面に当てはまるとは限らない。歩くような速度でまっすぐブレずに走るのは、実は難度が高いのだ。2輪本来の特性に慣れていれば問題ないだろうが、交通ルールを遵守しながら安全に運用していくには、それなりの知識とスキルが必要なように思う。

また、今回は滑りやすいコンクリート路面とはいえ平滑でクローズドなコースを走っただけに過ぎず、小径ホイールならではの路面の凹凸や段差に対するデリケートさも気になるところだ。

乗り物としては面白い。しかし、やはりこれを乗り回すには資格なり講習なりといった一定のハードルを設けたほうがいいのでは、というのが正直な感想だ。また、法規に適合していないような、ネット通販で無責任に売られている電動キックボード(および同様の電動アシスト自転車)は、さっさと取り締まられてほしいところだ。そうした有象無象が速やかに駆逐され、特定原付に対する過不足ない評価が定まってから、改めて運用ルールについての議論を進めていければいいのではないだろうか。

さて、ここから先は同じ試乗会場にあった電動キックボード以外の乗り物についてもダイジェスト的に触れていきたい。

普通の原付に属するヤマハ「トリタウン」は立ち乗りの3輪

ヤマハのリーニングマルチホイール=LMWで最小の乗り物となる「トリタウン」にも試乗することができた。面白いのは、車体とホイールが一緒に傾く中でフロント2輪が互い違いに上下し、両足も同じ動きをするところだ。わかりにくい表現になってしまったが、ようするに板を平行にしたスキーのように、イン側の足が上がり、アウト側の足が外側で踏ん張るような感覚だ。

トリタウンは普通の原動機付自転車=原付一種なので、法定速度は30km/h。現状ではマシン側で最高速度を25km/hにしているので、特定原付よりも少し速い。ただ、車体の安定感がかなりあるので、スピード感で言えば同じくらいか少しゆっくりに感じる。

しっかりしたつくりに3輪という構成もあって剛性感があり、車体を傾けながらハンドルを切り足していくような乗り方にも難なく応えてくれる。スロットルレバーを押し下げればスムーズに加速し、ブレーキもコントローラブルかつしっかりと制動力を引き出せる。このあたり、さすがはバイクメーカーというクオリティだ。

3輪の安心感に加えて、バイクメーカーならではの車体づくりで馴染みやすく、いろいろな操作を試していく楽しみもある。

立ち乗りのステップボードの位置関係も絶妙で、トライアルバイクでスタンディングしながら舗装路を走っているような安心感とコントロール性の高さを感じる。

端的に言って、相当に面白い。クローズドコースだからと調子に乗って走っていたらスタッフの方に「もう少し丁寧に……」と言われてしまう始末で、とにかくいろいろな乗り方を試してみたくなる。思ったように車体が動いたらちゃんと楽しいという、いかにもヤマハらしい乗り物だ。

特定原付のように気軽に乗って、降りたら畳んで運ぶ……という使い方を考えると少々大柄だが、乗ること自体や乗ったまま散策することを前提とするならベストマッチなように思えた。

バイクとは無縁だからこそ新しい操作感になったトヨタ「C+ walk」

トヨタは「”歩く”をアシストする」と謳った3輪の小型モビリティ「C+ walk(シーウォーク)」を販売中。最高速度は2~6km/hに設定可能で、扱いとしては移動用小型車になる。つまりナンバー取得は不要かつ歩道(公道)走行が可能なモビリティだ。

電動キックボードやトリタウンとは根本的に異なり、車体は全く傾かない。子供用の三輪車に立ち乗りして、上に伸びたハンドルで前輪を操舵して曲がるような乗り物と言えば伝わるだろうか。それでも最高速度が6km/hまでなので全く不都合はない。ただ、バイク乗りの習性でついつい車体を傾けたくなってしまって、最初のカーブで「おっとっと」となってしまったのは内緒である。

面白いのは操作性だ。両側に親指で押すレバーがあり、どちらを押しても加速するしなんなら両方押しても同じ反応。そしてブレーキも両側にあって、どちらを操作してもいいようになっている。バイク乗りが作ったらこんな発想にはならないと思うが、やはり開発した方はバイクとは無縁のようで、だからこそ移動用小型車に適した操作性をゼロから考えることができたのだろう。

歩くような速度でも安心の安定感。気軽かつ楽に乗れるのがいい。

ちなみに駆動輪はフロントなので、ハンドルを90度まで切ってその場で旋回することもできる。また、スロットル全開のままでも人や障害物を検知したり、ハンドルを切っていくとカーブの曲率に合わせて勝手に減速してくれたりするなど、電動の乗り物に慣れていない方が乗っても安全なようにとの配慮がうれしい。

バイク乗りが面白さを感じるような刺激はこれといってないが、ジャパンモビリティショーの広大な会場をこれで移動しながら取材できたらなぁ……と思わずにはいられなかった。

気分はフリーザ様!! ホンダの着座型ハンズフリーパーソナルモビリティ「UNI-ONE」

「私の戦闘力は53万です」と言いたくなるとかならないとか、そんなポッド風に見えなくもない(見えない)ホンダのパーソナルモビリティが「UNI-ONE(ユニワン)」だ。座ったまま体重移動するだけで前後左右どちらの方向にも移動できて両手も使える、電動車いすの一種とも言える乗り物で、2012年に登場したユニカブからの流れを汲む。

要になるのは、UNI-CUB β(2代目ユニカブ)から引き継ぐ「人協調バランス制御技術」と独自の車輪機構「Honda Omni Traction Drive System」で、搭乗者の姿勢の動きをセンサーで検知して、意図に沿った動きをするという。

着座する際には低い車いすのような感じだが、システムを起動すると人が立ち上がったくらいの高さに持ち上がり、そこから移動が可能になる。左右の動きは尻の骨に預ける体重の配分に忠実なので、とまどうのは最初の数mだけだ。

前後の動きに関しては、勢いよく加速しすぎるのを防ぐためか、思ったよりも前に体重移動しなければ前進しなかった。止まったり後退したりは比較的思った通りのイメージに動くので、着座位置自体をもう少し前にすればよかったのか……。

着座してシステムを起動すると、すっくと立ち上がる。ベルトで腰を固定する方式だ。

このユニワンに関しては、バイク乗り的な感性に響くところは特になく、新しい乗り物の操作方法を身に着けていく楽しみがそれなりにあるかな程度。体重移動に対するレスポンスなどのセッティングがスマホ経由でできたりするともっと面白くなるかもと思わなくもないが、Honda Roboticsのコンセプトのひとつである「身体機能の拡張」に基づいて開発されたユニワンは、そもそもバイク乗りのような人種が喜ぶようには作られていない。

というわけで偏った見方はいったん横に置いて試乗してみると、これはこれで……という気になってくる。やはり体重移動だけで動かすことができ、両手を空けることもできるのは便利だ。また、うっかりバランスを崩して制御が暴れてしまった場合にはフェイルセーフとしてストンと車高が下がって停止する(実際にはかなり意図的に揺する必要がある)。

……えーまあ、ある程度スピーディなものが好きとか、ちょっと面倒なくらいが面白いと考えるようなバイク乗りなので、どうしても薄めのインプレになってしまうのはご容赦いただきたい。

これらのほか、特定原付扱いの自転車なども試乗会場にはあったが、スケジュールの都合で残念ながら素通りせざるを得ず──。また機会があったらぜひトライしてみたい。

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