【台湾食べ歩きの旅 #11】関山のめちゃウマ朝ごはんと、まさかの“朝飲み”が楽しすぎた

【台湾食べ歩きの旅 #11】 夜市の定番メニューの割包は、カロリーが高いので朝食べたほうがヘルシーかも。豆乳との相性もいい

東海岸沿いを列車で南下しながら、昨夜初めて訪れた町、関山(グアンシャン)で土砂降りの雨に見舞われた。

【フォトギャラリー】関山(グアンシャン)の絶品朝グルメ

激しい雨音を気にしながらベッドに横になり、明日は晴れますように、せめて雨が止みますようにと祈りながら眠りにつく。

民宿のレンタル自転車に乗って朝ごはん屋さん探し

翌朝、5時過ぎに目を覚ますと、どんよりと曇ってはいるが、雨は止んでいた。身支度を整えて部屋を出ると、民宿のロビーにママチャリが3台ほど置いてあるのに気づく。

前カゴに大きく民宿の名前が書いてあるので、客が使ってもいいのだろう。

台湾はじつは列車だけでなく、自転車でも一周できる。サイクリングが趣味の台湾人の友人は、列車で台湾を一周する私に、「今は自転車で一周するのが流行りだ」と笑っていた。

この民宿のように自転車を無料で貸し出すホテルは珍しくない。主要都市以外ではタクシーも拾いにくいので自転車は強い味方だ。さっそく1台拝借して、雨上がりの町を走り出した。

自転車で走ってみると、関山という町は思っていたよりもずっと小さいことがわかった。

駅を中心に南北に幹線道路がのびていて、それと交差するように格子状に道路が何本か走っているのだが、中心部の幹線道路は1キロほどしかない。つまり、自転車で5分も走れば、町の北から南までを抜けられるのだ。

豚角煮バーガーと豆乳の朝ごはん

【台湾食べ歩きの旅 #11】関山駅から歩いて数分のところにある朝食店「永和豆漿」。内装は新しいが、店は古く、地元の常連さんたちで賑わっている

宿から出て角を曲がると、人だかりのしている朝食店があった。この町の規模では店の選択肢は多くはなさそうだ。私は自転車を停めて店内の席を確保した。

シンプルな赤い立て看板に「永和豆漿」という白い文字がくっきりと浮かんでいる以外は、装飾も何もなく、店内は殺風景だ。

けれど、ひっきりなしに客が出入りし、店の前にもたくさんの人が待っている。界隈に朝食店が少ないからだろうか?

いや、それだけではなさそうだ。昨夜は気づかなかったが、すぐそばにはちょっとおしゃれなカフェもあり、若者がサンドイッチとコーヒーで静かな朝のひとときを過ごしている。

この永和豆漿に客があふれているのは、どうやらその品数の豊富さに理由がありそうだ。

マントウ、蛋餅(卵巻き)、油條(揚げパン)、豆乳などの定番メニューはもちろん、大根餅、サンドイッチ、焼きそばなど、ジャンルをまたぐ品を扱っている。

目を引いたのは大きな豚の角煮が入った寸胴鍋。通常なら夜市のメニューである割包(豚の角煮バーガー)だ。

【台湾食べ歩きの旅 #11】朝食店には珍しい、「永和豆漿」の割包(豚角煮バーガー)。ボリュームのある皮にシンプルでおいしい角煮をたっぷり挟む

豆乳と割包は悪くない組み合わせだ。手作り感満載の割包で、ふっくらとして弾力がある皮に、ほどよく油の乗った濃厚な豚の角煮が包まれている。

朝から脂っこいけれど、さわやかな豆乳でバランスがとれそうだ。

先住民の女子会に飛び入り参加

割包を食べているうちに、また雨が道路を打ち始めた。せっかく早起きして田園の写真を撮りに行こうと思ったのに。

食べかけの割包をビニール袋ごとカバンに入れて、自転車にまたがった。10分も走れば町はずれの田園にたどり着ける。

ママチャリを力強くこいだが、雨脚がどんどん強くなってきた。叩きつけるように落ちてくる雨。田園にたどり着いた頃にはずぶ濡れである。

のどかな田園風景はあきらめて、駅方面に戻ることにした。強くなったり、弱くなったりする雨の中、幹線道路脇でえっちらおっちら自転車を走らせていると、時折が水しぶきを上げクルマが通過する。

車をよけながら立ち止まると、そこに廟の門があることに気づいた。

【台湾食べ歩きの旅 #11】駅から北へ自転車を走らせると見えてくる関山天后宮。小さな廟だが、これでも歴史は100年以上

道路から奥まったところに、それほど大きくはないが、古い赤茶けた門がある。こぢんまりとした関山という町にふさわしい天后宮だ。

その脇には食堂があるのだろうか、数人の女性たちが座って話している。

雨に打たれて凹んでいたのだが、ここでも捨てる神あれば拾う神あり。丸テーブルを囲むようにしておしゃべりをしている4人の女性は、私よりも少し年上らしい。

でも、テーブルが置いてあるだけで、食堂という雰囲気でもない。ちょっと遠巻きに観察していると、女性の1人が私に気づき、にっこり笑ってきた。渡りに舟だ。

「朝ごはん中ですか?」と聞くと「そう、これからよ。あなたも座る?」と言う。

しかも、丸テーブルの上には保力達(パオリータ)の茶色い瓶が置いてあるではないか。養命酒を濃くしたような味で、アルコールが10パーセントもある。

【台湾食べ歩きの旅 #11】廟脇の朝市の一角に円卓が置かれ、卵焼きと保力達(パオリータ)が並んでいる。養命酒をもっと甘く濃くしたような栄養ドリンク

肉体労働者に愛されている栄養ドリンクの一種で、台湾東部ではこれにビールや米酒(焼酎)を加えて飲む人がいる。

日本から来たと伝えると、4人とも顔をほころばせて乾杯の始まりだ。

【台湾食べ歩きの旅 #11】阿美族の女性たちの宴に飛び入り参加させてもらう筆者(左から2番目)。なじみのない阿美族の言葉が耳に新鮮だ

彼女たちは先住民で、みな近くの町から関山にお嫁に来たらしい。関山に嫁いだ女性の同期は10人ほどいて、ときどきこうして朝食会を開くのだとか。

会話を聞いていると、北京語(台湾華語)が2割ほど、あとは阿美(アミ)族の言葉で話している。

台湾には先住民の部族は20近くあり、それぞれに言葉も違うのだが、ひとつだけ私が聞き取れる単語があった。「マラサン」とう単語だ。

以前観た台湾映画で「マラサン」というブランド名の粟の酒が出てきた。先住民の彼女たちいわく、「マラサン」は「酔っ払う」という阿美族の言葉なのだそうだ。

「女はマラサンになるほど飲んではダメ」と言って、ほどほどに乾杯するという意味の「メナン」という言葉を教えてもらった。

それでも、メナン、メナンと少しずつ飲んでほろ酔い気分。「阿美族の嫁の会」に飛び入り参加した私に、彼女たちは卵焼きと魚のスープもごちそうしてくれた。

お酒が入り、料理が胃袋に収まるにつれて、みな饒舌になり、まるで女子高校生のようにケラケラと笑いながらおしゃべりに花を咲かせる。

「夏には阿美族の豊年祭があるからまたいらっしゃい。阿美族の衣装を着させてあげる」と、魅力的なオファーもいただいた。

小雨になった空の下、宿まで自転車を押しながら歩く。

田園風景は見られなかったが、素敵な女子会の余韻にひたり、私は上機嫌だった。

(うまいめし/ 光瀬 憲子)

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