共通点は“トイレマネジメント”だけ 伝えた「寂しいよ」/金谷拓実×中島啓太 対談(1)

賞金王レースを盛り上げた“ライバル”二人(撮影/村上航)

中島啓太が国内男子ツアーの賞金王に輝いた2023年は、金谷拓実とのライバル関係がツアーのトピックスになった。アマチュア時代、日本ゴルフ協会(JGA)のナショナルチームで仲を深めた2人はプロになって何度も優勝争いを演じた。5月「ミズノオープン」から3週連続で最終日最終組でプレーするなど接戦を繰り広げた1年を、全3回の対談で振り返る。賞金王争いを通じて、関係性はどう変わっていったのだろうか。(聞き手・構成/谷口愛純)

「しゃべりたいけど、しゃべれなくなった」

―対談に応じていただき、ありがとうございます
中島 僕は、金谷さんがやるならと思っていました。
金谷 啓太とだったら、受けたかったです。啓太とだったら、やっぱりたくさん話をしたいし、色々聞きたいし。

―シーズン中は同じ組でプレーしていても、2人で話している場面がほとんど見られませんでした
中島 予選ラウンドとか、決勝で優勝争いをしていない時は、話すことはありましたよね。「中日クラウンズ」(4/27~4/30)とか、ちょっと会話しました。
金谷 あれが今年の最初かな。「ミズノオープン」(5/25~5/28)は、まだアマチュア同士でやっていた時と同じような感覚で回っていた感じは、僕はあったけど。
中島 「ツアー選手権」(6/01~6/4)じゃないですか、全くしゃべらなくなったのは。
金谷 僕の雰囲気が怖かったから、多分しゃべれなかったよね(笑)
中島 そんな空気感がありましたよね。

どの試合も、中島と金谷のどちらかが優勝争いをしたシーズンでもあった

―ミズノオープンからツアー選手権の間に、何かきっかけが?
金谷 ミズノは母親が来ていて、どうしても勝ちたかった。でも啓太と回ると、やっぱりすごく楽しいしワクワクして、最終組で回っていても楽しさがあった。なんだか、勝負に徹し切れていなかったなって。(※乳がんのため闘病中の母・美也子さんが、ミズノオープン最終日に駆け付けた)

なかなかコースでは見られなかった2ショット(撮影/村上航)

中島 僕はプロとして初めて優勝争いをしたのがミズノオープン。しかも相手が金谷さんで、優勝争いってこんな感じなんだなというのを知れた。それでツアー選手権に入ったけど、まだ優勝争いへの覚悟が決まっていなかった。でも、金谷さんはすごい気迫でプレーをされていて、かなり気合が入りました。
金谷 ツアー選手権はどうしても勝ちたかったから、もっと自分のプレーに集中しなきゃって。たぶん、あれを境にしゃべらなくなったし、周りもそういう目で見るから、しゃべりたいけど、しゃべれなくなりました(笑)。あ、でもトイレで会うと結構しゃべるんですよ。
中島 プレー中のトイレですね、“トイレマネジメント”が同じで(笑)

最終戦の隠れた会話「寂しいよ」

クールな先輩、内側はアツい(撮影/村上航)

―なぜ、試合中のトイレ休憩のときだけ?
金谷 コースの中だと、しゃべったらこの空気感が変わるなっていうのもあったので。
中島 スタート前はルーティンが逆だから、本当に会わないんですよね。
金谷 僕はドライビングレンジからパッティング、啓太は逆だから、同じスタート時間でもティイングエリアで初めて会う。コース入りも1時間半前くらいで、同じなのにね。
中島 共通点って、何もないんじゃないですか。トイレに行くタイミングくらい(笑)。

―最終戦「日本シリーズJTカップ」のトイレタイムでは、どんな会話を?
金谷 結構しゃべったよね。
中島 金谷さんがかわいいなって思ったことがあって、2回くらい。仕切りを隔てて、金谷さんが急に「啓太、あと3日で終わっちゃうの、寂しいよ」って(笑)。次の日は、同じタイミングで「あと2日で終わっちゃうね」って。
金谷 本音です。なかなか2人だけで話すタイミングってないですしね(笑)

「2日目が終わって、“勝つだろうな”って」

―今年、一番印象に残っている試合は?
金谷 ASO飯塚チャレンジド。
中島 僕もASO。優勝が29アンダーで、その下が22でしたよね。(※通算29アンダーで並んだ2人のプレーオフ、中島がプロ初優勝を挙げた)
金谷 2人で戦っていた感じでしたからね。最終日、塚田陽亮さんと3人で回ったんですが、気を遣ってくださって、それぞれに話しかけてくださって。
中島 2人が話さないから(笑)

マイナビABCチャンピオンシップ、特に強かった(撮影/村上航)

―シーズン終盤、中島選手が優勝して、賞金ランキング1位に逆転したのが「マイナビABCチャンピオンシップ」
中島 もともと出る予定ではなかったんですが、翌週の「三井住友VISA太平洋マスターズ」(11/9~11/12)が終わった後のランキング1位は絶対に大事だった。休んでいる場合じゃないと思いました。
(※同大会終了時の賞金ランク1位の選手が12月の米ツアー最終予選会の出場資格を得られた)
金谷 「パナソニックオープン」(9/21~9/24)くらいのときに、スケジュールをどうする?っていう話はしたよね。(マイナビから)最後の5連戦はしんどいけど、賞金も高いし頑張らないといけないのかなって。
中島 トレーナーさんにも4連戦をマックスにした方がいいと言われていたんですけど、5連戦を見越して栖原(弘和)トレーナーに「お願いします」と言って、出ることを決めました。
金谷 マイナビが、やっぱりすごかったですよね。その前にオープンウィークがあって、準備をして仕上げてきたなと思った。予選ラウンドを一緒に回って、いつ8、9アンダーが出てもおかしくない内容だった。僕はプレッシャーを感じながら、いいプレーができなくなっていたし、準備が少し足りなかった。啓太はそこに向けてしっかり準備してきて、2日目が終わって「勝つだろうな」って思いました。

「どっちが勝っても負けても、気持ちのいい試合」

腕相撲 どっちが強い…?(撮影/村上航)

―賞金王争いが終わった翌週の「日本シリーズ」はどんな心境でしたか?
中島 賞金王争いはカシオで終わっちゃいましたけど、また優勝争いができることを、とにかく楽しみに頑張りました。カシオで何かが変わったという感覚はありませんでした。
金谷 僕はもう、なんか「終わったー」って思っていたかな。でも、啓太は別にビリだろうが、優勝しようがランキングは変わらないという中で、最後までパフォーマンスを出し切っているのがすごいと思った。一緒に3日間回ったけど、ドライバーがあれだけ飛んでいたのも、本当にすごかったし。10番も、あの狭いホールでめっちゃ飛んでいたよね。
中島 振ってましたね。

―お互いへの意識も、特に変わりませんでしたか?
金谷 啓太は、話さなくても分かる。ゴルフだけで勝負ができて、別にそれ以外は必要なかったので、ほかの選手とは全然違う。啓太と一緒にプレーして勝負することが特別でした。その機会がこの1年間多かったのは、すごく楽しかった。もちろん悔しいけど、JTのトイレの「終わっちゃう」っていうのは、そういう気持ちでしたね。
中島 どっちが勝っても負けても、いい試合。気持ちのいい試合というのは、ずっと変わりませんでした。金谷さんとの優勝争いは一番楽しかったです。

※対談の第2回は14日の配信予定です

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