<レスリング>【2023年西日本学生秋季リーグ戦・特集】二部優勝の副賞は“往復キップ”、帰りのキップ廃棄が目標…帝塚山大

2023年西日本学生秋季リーグ戦の二部リーグは、今年春季まで3季連続2位だった帝塚山大が6戦全勝で優勝。壁を破り、来年春季は2020年秋季以来、6シーズンぶりに一部の舞台で闘うことになった。

石山直樹監督は、真っ先に「選手とコーチの踏ん張りだけでなく、選手の家族、大学、その他の多くの方々の協力がなければ、ありえなかったことです。あらためてお礼を言いたい」と、支えてくれた人への感謝の言葉を口にした。

▲6季ぶりの一部昇格を決め、応援席にあいさつする帝塚山大選手

どのチームも同じ条件だが、コロナ禍が最もひどかった2020年のブランクを経ての栄光だけに、喜びもひとしお。コロナで満足に練習できない期間中も、選手とコンタクトをしっかり取ることを念頭に置き、成長を見守っている気持ちを伝えることに主眼に置いたという。

コロナが収束したあとは、リーグ戦や全日本大学選手権のレギュラー選手に選ばれなかった選手へのケアに重点を置き、「今はこちら(応援席)にいるけど、いずれはマットに上がってもらいたい。そのために努力してほしい」と言い続けた。どんな選手にも成長を期待する気持ちを伝え、チーム一丸での闘いを心がけたと言う。

春季は福岡大に3-4で惜敗、一歩ずつ差を縮めた

3季連続2位とはいえ、昨年は春季が関大に1-6、秋季が中京学院大に1-6と、優勝チームとの差は大きかった。今年春季は福岡大に3-4の接戦を展開。やっと優勝が見えてきた状況。西日本学生新人戦(升田康太=1年)や西日本学生選手権(吉田奨健=3年)でのチャンピオン輩出、全日本大学選手権での2位躍進(吉田)と好調を維持し、今回の栄光につながった。

▲1年生にして西日本学生新人選手権両スタイル優勝、同学生選手権3位の升田康太(京都・海洋高卒)。チームを支えた

同監督の気持ちを受けて選手に接している鈴木貫太郎コーチも「選手の家族や周囲の人の支えがあっての優勝です」と第一声。前回優勝(2019年秋季)のあとの2020年から指導しているが、「まず二部優勝を目標にしてきたので、とにかくうれしいです」と、自身にとっては初の優勝に感慨深い様子。

長いこと高校(京都・廣学館高)で指導してきた。大学生が相手だと、親元から離れて自由な生活になる分、大変な面も出てくる。高校生相手にはなかった「授業はきちんと出なさいよ」といった指導もしなければないとか。しかし、「信用と信頼の気持ち」を持って選手に接してきた。私生活をしっかりさせることで選手に自覚が芽生え、競技力の向上にもつながったと言う。

全勝対決となった関大との7回戦は、相手の125kg級が不在で有利な状況だった。それでも、一部リーグを経験しているチームは「基本もできているし、風格も違う」そうで、気持ちで負けないことを念頭に置いて臨んだ。第1試合で沼田将吾(2年)が先制し、最後は振り切ってくれて「流れが作れた。よくやってくれた」と振り返った。

▲チームを牽引した石山直樹監督(左)と鈴木貫太郎コーチ

3度目の一部昇格、今度は定着を目指す!

西日本リーグは東日本と違い、一部の最下位になると自動的に二部降格となるシステム。一部に昇格しても、1季で二部リーグにUターンするのは珍しいことではなく、帝塚山大の過去2度の一部昇格は、いずれも即Uターンだった。二部優勝の“ご褒美”は、一部への「往復キップ」みたいなものだ。

鈴木コーチは「4年生が抜けるし、また強化していかないと」と気を引き締める。優勝した選手が、よく「喜びに浸るのは今日一日だけ。明日からは…」と口にするが、「今日一日も、浸ってられないですよ」と苦笑いし、厳しくなる前途を見つめた。

ただ、石山監督は「過去2回に比べると一部リーグの選手とも対等に闘える選手が増えたという実感がある」と言う。一般社会では、行きのキップだけ使って帰りのキップを捨てるのは「もったいない」ことだが、このリーグでは「使わない方がいいキップ」。今度は、使わずに価値ある廃棄処分にしたいところだ。

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