ネスレが持続可能なコーヒー栽培に向け新たな取り組み――インドネシアで気候保険を提供

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世界で、コーヒー農家が気候変動に翻弄されるケースが拡大している。ネスレは新たな取り組みの一環として、インドネシアの800以上の小規模コーヒー農家に対し、試験的に気候保険プログラムを提供することを発表した。またリジェネラティブ農業への移行を促進するため、枠組みやガイドブックの作成にも尽力している。(翻訳・編集=茂木澄花)

小規模コーヒー農家を経済的に保護する

気候変動によって、一次産品の生産地域は脅威にさらされる。すでに、世界中で多くの小規模コーヒー農家が、収穫物に影響を与えるほどの異常気象に翻弄されている。

主要なコーヒーブランドは対策に乗り出している。例えばスターバックスは2023年9月、品種改良によって、気候変動の影響の一部に耐性のある6種類のコーヒーノキを開発したと発表した。

またネスレは10月、気候保険プログラムを試験導入することを発表した。対象は、同社のブランド「ネスカフェ」にコーヒーを供給しているインドネシアの800以上の小規模コーヒー農家だ。同社はこのプログラムを、気候保険の専門企業「Blue Marble」と共同で立ち上げた。作物に打撃を与える予測不能な天候(大雨や干ばつなど)に対処できるよう、農家を経済的に保護する。

「この気候保険は、インドネシアの小規模コーヒー農家に対する支援の仕組みを確立することにつながります」。ネスレのグリーンコーヒー開発部門の責任者を務めるマルセロ・ビュリティ氏はこう話す。「農家が異常気象の際に農園を復旧するための財源を得ることを可能にし、コーヒー農園の回復力を育むことになります」

この保険では、衛星による気候データを使って、栽培サイクルの重要な段階における過剰または不十分な雨量がコーヒーの収量に影響したことを判別する。影響を受けた登録コーヒー農家には、天候の厳しさに応じて自動的に支払いが行われる。

「インドネシアの小規模コーヒー農家は気候リスクに弱く、異常気象に備えた保険を必要としています」。こう語るのは、Blue MarbleのCEO、ハイメ・ドゥ・ピニエス氏だ。「小規模コーヒー農家とその家族が気候に適応できるよう支援する革新的な手法を開発するために、ネスレ社およびそのブランドのネスカフェと連携できることを光栄に思います」

この取り組みは、ネスカフェのビジョンである「ネスカフェ プラン2030」の進展につながる。このビジョンは、長期的なコーヒーのサステナビリティと農家の生活改善を支援するものだ。ネスレは今回の試験導入の結果を基に、ネスカフェに原料を供給する世界中の他の地域にもこの取り組みを拡大するかどうか判断する。

知識を共有することで、リジェネラティブ農業への移行を加速する

リジェネラティブ農業に移行することで、農家は土壌の健康を回復させ、失われた生物多様性を取り戻し、生態系を強化し、営農による温室効果ガスの排出量を減らせる。このことを認識する食品・飲料メーカーは日々増えている。しかし農業のやり方を変えるには、知識を得る機会と、学び実行するための時間が必要だ。

ネスレは主要な原材料の調達について、2025年までに20%、2030年までに50%をリジェネラティブな方法で行うと宣言している。そして、すでに小麦やココアなど、農産物のサプライチェーンの一部についてはリジェネラティブ農法への移行を開始している。ネスレは、先般発表された、持続可能な農業を目指す非営利ネットワーク「SAIプラットフォーム」のリジェネラティブ農業フレームワークの作成に参加した。これは、国際的に足並みをそろえてリジェネラティブ農業を定義した待望の枠組みで、30の農業協同組合と170社の企業が関わって作成された。

またネスレは「バイオバーシティ・インターナショナル」と「国際熱帯農業センター(CIAT)」によるガイドブック「低炭素でレジリエントなコーヒー栽培のためのリジェネラティブ農業」の作成にも協力した。ネスレはこのガイドブックを、自社の「リジェネラティブ農業フレームワーク」を補完するものとして捉えているという。同ガイドブックは、コーヒー農家と共に取り組む現場の農業研究者や指導者、専門家に、さまざまな状況での農業に応用できるベストプラクティスを示す。そして農家のリジェネラティブ農法への移行を支援するものだ。具体的には、アグロフォレストリー(森林農業)、間作、土壌保全と被覆作物、一貫した雑草・害虫管理、一貫した栄養管理、効率的な水利用、廃棄物の価値化、ランドスケープアプローチ、コーヒーノキの再活性化と適応性の高い品種などを取り上げている。

ネスレのサステナブル農業開発部門のグローバル責任者を務めるパスカル・チャポット氏は次のように語る。「このガイドブックは、コーヒー農家に、明日から実践できる現場での取り組みを提示するものです。農家が気候変動に柔軟に対応し、収入源を多様化するのに役立ちます。カギとなるのは知識です。このガイドブックによって、農家がリジェネラティブ農法に参入しやすくなり、リジェネラティブ農法への移行が促されることを願っています。これが、今後の気候変動問題に立ち向かうために極めて重要なのです」

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