韓国ドラマラブストーリーの潮流~出生の秘密、記憶喪失から同性愛、宇宙人まで

2003年、「冬のソナタ」の日本初放送により韓流ブームが巻き起こって今年で早20年。今でこそジャンルも多様化し、人間ドラマやサスペンスなどでも高い評価を得ている韓国ドラマだが、その醍醐味、真髄は、やはり「愛の物語」にあるように思う。一生に一度の恋かと思われるほど、愛することに凄まじいエネルギーを注ぐ主人公たちに、どれだけときめかされてきただろう。というわけで、今回はラブストーリーに特化して、その変遷を見ていきたい。


韓ドラにおいて主人公たちを動かすものは、「愛」の前に、実は「試練」「足かせ」があったりする。「冬のソナタ」にしろ「天国の階段」にしろ、韓流ブーム初期作品で、主人公カップルの前途を阻むのは、出生の秘密、親の因縁、身分差に記憶喪失、恋のライバルに難病といったお決まりの足かせがあった。

阻まれるほど、葛藤が深まり、互いの大切さを知り、愛は強固なものになっていく。一途で切なくドラマチックな展開が、THE韓ドラの魅力なのだ。

足かせがパターン化してきた頃、これを覆すものが出てきた。それが、2004年の「バリでの出来事」であり、「ごめん、愛してる」だ。

野心か、愛か。復讐か、愛か。

“悪い女”“悪い男”の登場で、愛の本質があぶり出される衝撃作だった。この2作は、“廃人(ペイン)”と呼ばれる熱狂的ファンを生み出したほど。

「魔王」(2007年)、「赤と黒」(2010年)と、この系譜を継ぐ作品はいずれもペインを生み、韓ドラ得意のジャンルとなっていく。

一方で、重い足かせを取っ払った等身大ロマンスも支持されていく。それが、2005年の「私の名前はキム・サムスン」だ。身分差と年上女子という足かせはあったが、それ以前のドラマのようにシリアスでない。

「いつか別れがやってくるかもしれない。どんなに愛し合っていても、先に何が起こるかわからない。でも今は愛し合っている」

という最終回のメッセージは、恋愛のリアルだった。ドラマチックとは違う描き方で、韓ドララブストーリーの幅を広げる作品となった。

「ハベクの新婦」©STUDIO DRAGON CORPORATION

時代とともに、難病や出生の秘密、記憶喪失といった足かせは減っていくが、その分、予想外の切り口も出てきた。その走りが、「コーヒープリンス1号店」(2007年)だ。

「君が好きだ。君が男だろうと、宇宙人だろうと、もう気にしない」

という主人公ハンギョル(扮コン・ユ)の告白の衝撃たるや。そんじょそこらの身分差はもはや当たり前。それを上回る足かせとして提示されたのが、「同性愛」だった(実際は違うが)

「君が男」はあっても、「君が宇宙人」は想像だにしていなかったが、韓国ドラマは大胆かつ柔軟だ。この宇宙人も来てしまうのだ。「星から来たあなた」(2013年)である。

そもそも恋愛は異文化交流。そういう意味で、宇宙人と恋に落ちるこのドラマは、異文化交流の最たるもの。あまりにも突飛な設定だが、相手が「いつかここを去ってしまう」という足かせは、切なさを生み出す装置として優れものだった。

結果、宇宙人とトップ女優のロマンスにアジア中が夢中になった。そして、「星から〜」の成功は、のちの「トッケビ〜君がくれた愛しい日々〜」(2016年)や「ハベクの新婦」(2017年)につながっていく。


TEXT:高橋尚子(編集・ライター) 

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