「イカゲーム」の世界的ヒットで韓国ドラマへの投資が拡大!「冬のソナタ」から20年で様変わりした韓国ドラマ業界

2003年に日本で「冬のソナタ」が放送されて以降、韓国ドラマといえば、出生の秘密や記憶喪失、貧富の差などを取り入れた純愛ドラマや、劇的な悲恋もののイメージが強かった。その後、典型的なシンデレラストーリーが影を潜めていき、様々な形の恋愛ドラマが生み出された一方で、恋愛をメインテーマとしないドラマが増加。

今回はヒューマンドラマやサスペンスといった多彩なジャンルの作品と、その制作背景について振り返ってみる。


2016年、tvNで放送された「トッケビ〜君がくれた愛しい日々〜」が空前の大ブームを巻き起こす。業界の勢力地図が大きく塗り変わってきたこの前後、新聞社系のケーブル局であるJTBCもドラマ制作を活発化。

「ミセン」と同じ2014年、不倫をテーマにした「密会」が、最初のヒットを記録。その後、2018年には「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」が人気を集め、チョン・ヘインが“国民の年下男子”として一躍スターダムに躍り出た

恋愛ドラマではあったが、ソン・イェジン扮するヒロインの職場でのセクハラの様子が描かれるなど、当時韓国で大きな盛り上がりを見せ始めていた“Me Too運動”を思わせる社会性・時代性への意識の高さは、新聞社系ならでは。

さらに、同年2018年は、過酷な受験戦争に翻弄される数組の親子を、ブラックユーモアを交えつつサスペンスタッチで描いた「SKYキャッスル〜上流階級の妻たち〜」が社会現象化する大ヒットとなった。

2020年は、夫に裏切られた妻の壮絶な復讐を描いた愛憎劇「夫婦の世界」がマクチャンテイスト満載の内容で、「SKY〜」を上回るヒットを記録した。

一方、サスペンスを得意とするOCNは、2010年からスタートした「神のクイズ」が「〜:リブート」まで5作を数える人気シリーズに。日本でリメイクもされた「ボイス〜112の奇跡〜」(2017年)はシーズン4まで作られた。

そんななか、2017年にtvNで放送された「秘密の森~深い闇の向こうに~」が、第54回百想芸術大賞のテレビ部門で大賞を受賞するという快挙を達成。今もなお、社会派ミステリーの最高傑作として語り継がれるとともに、サスペンスや捜査劇が人気ジャンルとして定着するきっかけとなった

こうしたダークなタッチのドラマ人気を受け、クライムサスペンスや、ファンタジックなミステリーが地上波でも作られるようになり、時代の変化を実感させた。

ジャンルの多様化と同時に、ダークヒーローが活躍するドラマも増えた。ナムグン・ミン演じる刑務所が舞台の復讐劇「ドクター・プリズナー」(2019年)、法では裁けない悪を倒す主人公の活躍を描いた「ヴィンチェンツォ」(2021年)や「復讐代行人~模範タクシー~」(2021年)などは、ストレスの多い毎日を送る視聴者にとって、スッキリできる“サイダー”ドラマとして人気を集めた

「イカゲーム」

現在、ジャンルの多様化はますます進み、これまで見たこともなかったようなドラマが次々に作られている。2019年にゾンビ時代劇という新鮮な題材で驚かせた「キングダム」のヒットは、その後「Sweet Home—俺と世界の絶望—」(2020年)や「今、私たちの学校は…」(2022年)など、多様なゾンビやモンスター作品を生み出すことになった。

2021年には「イカゲーム」が世界的にヒットし、韓国ドラマへの注目度がぐんとアップし投資が拡大。制作費とCGの技術が上がったことで、SFやパニックものなども新たな表現ができそうだ

巨費を投じた“韓国版アベンジャーズ”「ムービング」(2023年)のように、映画顔負けのスケールの大きなドラマを見ると、韓国ドラマもここまで来たか、と唸らされる。

映画界からも監督やスターが続々ドラマに参加して、人材面もさらに充実。また、最近では「マスクガール」(2023年)や「セレブリティ」(2023年)など、サスペンス要素はあっても、一つのジャンルに当てはめるのが難しいドラマも珍しくなくなった。

一体どういう発想からこんなドラマが!?と常に新鮮な驚きを与えてくれる韓国ドラマ。今後も期待しかない!


TEXT:小田香(ライター)

© 株式会社エスピーオー