[社説]安倍派4閣僚更迭 予算編成後に総辞職を

 自民党の政治資金パーティー裏金問題を巡り、岸田文雄首相は14日、4人の閣僚を事実上更迭した。2024年度の予算編成が大詰めを迎える年末の閣僚交代は異例であり、前代未聞だ。

 更迭されたのは、安倍派の松野博一官房長官、西村康稔経済産業相、鈴木淳司総務相、宮下一郎農相。さらに副大臣5人と政務官1人も交代した。

 裏金疑惑が広がる安倍派外しの人事だが、臭い物にふたをして幕引きを図ろうとするやり方は到底認められない。

 問題が表面化した後の岸田首相の対応も、理解に苦しむことばかりだった。

 12日の衆院本会議で、松野氏の不信任決議案を自民、公明両党の反対多数で否決しながら、その2日後に更迭とはあまりに矛盾した対応だ。

 否決後、岸田首相は「(松野氏に)職務に当たってもらう」と語り、松野氏も「与えられた職務を果たす」と述べていた。国会を都合良く利用した茶番劇に見える。

 閣僚の更迭理由も明白ではない。党内で何が行われ、金の流れがどうなっているのかを明らかにせず、首をすげ替えるだけの人事は、政権トップとしての責任回避ではないか。

 更迭された閣僚らも、たとえ辞任したとしても政治家としての説明責任は残る。

 「捜査中」などを理由に明確な説明を避けている首相にも同様の責任が突き付けられている。任命責任についても、厳しく問われるべきだ。

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 安倍派は、政治資金収支報告書に収入を過少記載し、5年間で数十人に約5億円をキックバック(還流)させた疑いが持たれている。

 先月末、安倍派の塩谷立座長はキックバックについて「あったと思う」と発言。数時間後に急きょ、記者を集めて撤回し、疑惑を否定した。

 今月13日には同派の宮沢博行防衛副大臣が、キックバックを巡り派閥側から「記載しなくてよい」と指示があったと証言。派閥主導ともいえる常態化した裏金づくりを明らかにした。宮沢氏は3年間で140万円の還流分を記載せず、派閥から「しゃべるな」と口止めされたことも明かした。

 指示されて「そうですか」と金を受け取ったことは、正当化できない。一方で、それぞれが説明責任を果たし、うみを出す必要がある。

 疑惑は二階派などにも広がっている。

 東京地検特捜部は、安倍派側の強制捜査に乗り出し、還流を受けた所属議員を聴取する方針だという。

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 国民は賃金が上がらず、物価高にあえぎながらやりくりする毎日だ。巨額の裏金づくりという「政治とカネ」の問題に怒っている。

 岸田首相は臨時国会閉会後の記者会見で「信頼回復のため、火の玉となって取り組む」と述べたが、具体的な内容はなく覚悟は感じられない。

 嵐が過ぎ去るのを待つだけの政権を、国民は必要としていない。岸田政権は正当性を失い、国民からも見放された。来年度の予算編成後に責任を取って総辞職すべきだ。

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