種苗市場に関する調査を実施(2023年)~​2022年度の国内総種苗市場規模は前年度比99.7%の2,289億円、新技術が実用化、ゲノム編集食品は商品化フェーズに移行~

株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越孝)は、国内の種苗市場を調査し、各作物種類別の動向、参入企業の動向、将来展望を明らかにした。

1.市場概況

2022年度の国内総種苗市場規模は、生産者(メーカー)国内出荷金額ベースで前年度比99.7% の2,289億円と推計した。
内訳をみると種子市場は前年度比99.6%の1,187億円となった。日本の農業は就農者の高齢化及び後継者不足などにより、就農人口及び作付面積の減少と休耕地が増加し、種子市場は微減傾向で推移している。
一方、省力化の流れの中で種子から苗への転換は継続しているものの、果樹や芝類の苗需要の落ち込みで苗市場も前年度比99.8%の1,102億円と前年割れとなった。但し、野菜類、花卉類等の農業園芸分野では省力化、機械播種化が進んでおり、接ぎ木苗(※1)、セル苗(※2)、メリクロン苗(※3)等の増加が引き続き目立っている。

※1 接ぎ木苗とは、地下部の根の台木と地上部の茎葉の穂木を接ぎ合わせした苗のこと。双方の性質の長所を持ち合わせ、連作障害や病害虫に強く、生産性に優れた、育てやすい苗ができる特徴がある。
※2 セル苗とは、小さいくさび形のポットが連結して並んでいる育苗パネルを用いて生産した苗のこと(セル成型苗ともいう)。現在野菜や花卉の移植栽培の多くの場面でセルトレイが活用されており、セルトレイから苗を抜き取って植付けるまでの作業を自動的に行うことができ、野菜生産における省力化に貢献している。
※3 メリクロン苗とは、新しい芽の中から1ミリくらいの生長点を取り出し、無菌の培養基の中で増やす方法で生産された苗のこと。無菌的に培養・増殖された苗を意味しており、この技術によって、品質差のない同質の苗を大量に生産することができる。

2.注目トピック~新技術が普及し、育種開発を大幅に効率化~

種苗市場においては、植物の遺伝子配列を書き換えるゲノム編集や環境制御、接木等を用いた育種の新技術普及が進展している。一般に、植物の育種には最大50年に及ぶ膨大な時間を要するが、これらの新技術がその期間を数年に短縮している。また、異なる品目・品種同士を接合できる特許技術を用いることで、ゲノム編集の対象が拡大している。
政府はこうした技術の安全性に一定の理解を示し、その普及を後押ししている。2019年10月に開始した「ゲノム編集食品の届け出制度」は、別の遺伝子を組み入れたものでなければ、安全性の審査を経ずに技術の詳細等の届出のみで販売できる制度となっている。2020年12月には健康機能性を高めた高GABAトマト、2023年3月には食感を高めた高アミロペクチントウモロコシの2件が商品化されている。この内、高GABAトマトについては、一般消費者への出荷も開始している。

2023年11月時点、育種の研究事例は約7年間で上記の2品種を含め10件に達し、1年間に1件以上のペースで増加している。前述の高GABAトマト、高アミロペクチントウモロコシ以外では、収量を高めたコメ、毒素を含まないジャガイモ、受粉無しに実がなるトマト、白いアサガオ等が研究対象に含まれる。このように、穀物・野菜類・果樹類・花卉類といった様々な品目に新技術の採用が拡大している。

3.将来展望

国内で成長を続ける外食・中食需要は日本の種苗メーカーが事業を拡大させる上で欠かせないターゲットの一つであるが、少子高齢化を背景に国内の消費が萎む中で、アジア諸国の人口は増加を続ける見通しであり、種苗メーカーにとって、海外市場は魅力あるマーケットとなっている。
ただ、海外事業展開には、気候風土や食文化、栽培方法等異なることから、現地の販売店に輸出するだけでは事足りず、栽培環境や食文化に合わせた育種ほか、栽培指導等を行うコンサルティングも必要となる。種苗メーカーの海外市場開拓には、地域の栽培環境や食習慣を踏まえた地域密着型のマーケティングが必須になると考える。

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