京アニ事件の青葉被告「頭のどこかにあった」同年代の殺人者 「氷河期でろくなことなかった」

青葉被告が無差別殺人を計画したJR大宮駅西口(10月29日、さいたま市大宮区)

 埼玉県内で最も多い利用者が行き交うJR大宮駅。駅前のデッキを会社員や学生が足早に通り過ぎていく。

 2019年6月18日、梅雨の蒸し暑さが漂う中、青葉真司被告(45)はこうした雑踏を眺めていた。

 この日の朝、ホームセンターで包丁6本を購入していた。作家になる夢が断たれ、小説という自らを支えた「つっかえ棒」さえも捨て、絶望感に支配された被告が向かった先が大宮駅だった。

 「無差別殺傷事件を起こそうとした」(初公判、検察側冒頭陳述)

 駅西口の人通りを観察した青葉被告。人の密集が少なく、刺したとしても驚かれて逃げられると判断し、その場を離れた。

 この7年前にも、思い通りにならない人生に自暴自棄になった。12年6月、ネット掲示板で中傷されたことをきっかけに感情をコントロールできなくなり、部屋を破壊。直後にコンビニ強盗を起こす。

 当時、青葉被告が暮らしていた茨城県常総市の集合住宅を訪ねた。70代の管理人男性が当時のことを覚えていた。

 被告の印象は「静かな人」だったという。だが、部屋に入ると、ガラスは割れ、壁には大きな穴が二つ開いていた。破れたふすまの近くにはハンマーも転がっていた。「部屋からは怒りといらだちを感じた。他人のことを考えられない、自分本位の人間だと思った」

 「力でねじ伏せてだまらせる『底辺の論理』があって、自分自身も染まらざるを得なかった」(第6回公判、被告の言葉)

 青葉被告は非正規雇用で働いていた時、社会の理不尽を痛感した。店長や同僚のことを、仕事もせず無責任だと感じた。被告が「底辺の世界」と呼んだコンビニや派遣の職場では、行動で示さないと分かってもらえないとの認識を持った。

 被告は法廷で、自らと同じ「底辺」を生きたと考えた4歳下の男の名前を何度も口にする。

 「秋葉原事件の加藤被告のことが頭のどこかにあった」(第6回公判、被告の言葉)

 08年6月、東京の秋葉原で7人を殺害、10人に重軽傷を負わせ、昨年7月に刑が執行された加藤智大元死刑囚だ。

 2人の共通項は、親からの虐待や派遣労働者として働いた過去。

 青葉被告は精神鑑定をした医師に「加藤智大も同じ氷河期世代。一部以外は正社員になれなかった。派遣を切られてみると分かる。ある種、被害者。ろくなことがなかったことが似ている」と語っている。加藤元死刑囚が秋葉原事件前に購入したナイフは6本。青葉被告が大宮駅、そして京都に持っていった包丁も6本だった。

 加藤元死刑囚は著作「解+」で「(事件を)『やる理由』があるとしても、それ以上に『やらない理由』があればいい」と書いた。それが「最後の最後で踏みとどまる命綱になる」とも。

 「むしろ何もないから、こうなる。何かあったら、もっと頑張れるが、まるでない」(第13回公判、精神鑑定での被告の言葉)

 大宮駅での「未遂」から1カ月後、青葉被告は怒りをため込んだまま、京都アニメーション第1スタジオの前に立った。良心の呵責(かしゃく)を振り切り、ガソリンの入ったバケツを手に、入り口へと向かった。

 

© 株式会社京都新聞社