【解説】サラ・ヴォーン&オスカー・ピーターソン・ビッグ4 『ハウ・ロング・ハズ・ディス・ビーン・ゴーイング・オン?』

【連載】ジャズ百貨店 Vocal編ご紹介 第2回:サラ・ヴォーン&オスカー・ピーターソン・ビッグ4 『ハウ・ロング・ハズ・ディス・ビーン・ゴーイング・オン?』

2016年の発売スタート以来、シリーズ累計出荷が90万枚を超えるユニバーサル・ジャズの定番シリーズ「ジャズ百貨店」に新たにVOCAL編が50作品加わりました。その中から注目の5作品をピックアップし、ご紹介していきます。

サラ・ヴォーン&オスカー・ピーターソン・ビッグ4 『ハウ・ロング・ハズ・ディス・ビーン・ゴーイング・オン?』

“ミス・ディヴァイン”。サラ・ヴォーンの呼称は幾つかあるけれど、「神の」とか「神のような」という意味を持つこの言葉が、彼女のヴォーカルに一番ふさわしいように思う。豊かな声量、美しいヴィブラート、エモーショナルな表現力、低音から高音までコントロールする巧みさ、楽器奏者のようなスキャットなど、どこを取っても非の打ち所がないのだから。若き日のマイルス・デイヴィスが、当時のオールスター・バンドで20歳そこそこのサラと遭遇した時の感想が興味深い。「たいした女だ。サラが歌うとディズやバード(当時ジャズ界の中心人物だったディジー・ガレスピーとチャーリー・パーカーのこと)がもう一人いるみたいだった」(『マイルス・デイヴィス自伝』シンコーミュージックより)。

完璧なシンガーは、キャリアの全期を通して進化し続けた。1978年、50代のサラは、ノーマン・グランツ率いるパブロ・レーベルから『ハウ・ロング・ハズ・ディス・ビーン・ゴーイング・オン?』を発表する。コンサート興業主、レコード・プロデューサーとして著名なグランツは、レジェンド級のミュージシャンを次々と契約したが、サラもそのひとりとなった。パブロといえば、巨匠たちのゴージャスな組合わせがセールス・ポイント。このアルバムのサポート・メンバーも、オスカー・ピーターソン、ジョー・パス、レイ・ブラウン、ルイ・ベルソンと贅沢だ。内容は全曲文句なく素晴らしい。おなじみのスタンダードばかりなのも嬉しい。サラが過去に録音している曲もあるけれど、アプローチが異なっているのも凄い。

<YouTube:How Long Has This Been Going On?

タイトル曲は、アイラ&ジョージ・ガーシュウィン兄弟が書いたもの。多くの歌手はこの曲をバラードで歌うが、サラはゆったりとヴァースから入って、ボサ気味のミドル・テンポにチェンジする。“2回キスして…そしてもう1度、3回になったら4回にして”と繰り返す歌詞が情熱的。鍵盤の皇帝ピーターソンが歌伴なのに弾きまくっている。巧手サラが相手だと燃えるのかな(笑)。「ミッドナイト・サン」「ユーアー・ブラーゼ」など情感たっぷりのスロー・ナンバーも奥が深くて沁みる。

<YouTube:When Your Lover Has Gone

後半に用意されている各楽器とのデュオ・ナンバーも聴きどころ。なかでも「ホエン・ユア・ラヴァー・ハズ・ゴーン」はスリリング。ブルー・バラードの名曲を、ベルソンのドラムのみを相手にスキャットで渡り合い、緩急自在の快唱を聴かせている。

Written By 津下佳子
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【リリース情報】

サラ・ヴォーン&オスカー・ピーターソン・ビッグ4
『ハウ・ロング・ハズ・ディス・ビーン・ゴーイング・オン?』
UCCO-5627
https://store.universal-music.co.jp/product/ucco5627/

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