ドラマ「たとえあなたを忘れても」放映、神戸の「廃墟の女王」再注目 旧摩耶観光ホテル、普段立ち入れないエリアでロケ「記録として貴重」

ABC系ドラマ「たとえあなたを忘れても」のロケのために置かれたグランドピアノ。重量を軽くするため中身は取り除かれ、音が出ない仕様になっているという=神戸市灘区畑原、旧摩耶観光ホテル(ABC朝日放送提供)

 端正な雰囲気とたたずまいから「廃墟の女王」と呼ばれる旧摩耶観光ホテル(神戸市灘区)。ここでロケが行われたドラマが放映され、普段立ち入ることができないエリアの映像がSNSで話題を呼んでいる。数々の映像作品で撮影場所になってきたが、老朽化は深刻。保存活動に携わる「摩耶山再生の会」の慈憲一さんは「映像は貴重な記録。歴史を振り返る上で資料価値がある」と話す。(津田和納)

 現在、ABC系で放映中のドラマ「たとえあなたを忘れても」(日曜午後10時)。運命的に巡り会う男女を描き、同ホテルは2人が物語を紡ぐ重要な場所になっている。

 1930年、摩耶鋼索鉄道(現在の摩耶ケーブル線)の福利厚生施設として建設された。戦後売却され、「摩耶観光ホテル」として再出発したが、67年に営業を停止。学生の合宿所として利用された時期もあったが、90年に建物が閉鎖された後は廃虚と化した。現在は立ち入り禁止で、警備会社が厳重に監視している。

 廃墟ファンの間ではモダニズム建築の美しさで有名で、「マヤカン」の愛称で通る。見学ツアーは募集すればすぐ定員に。ヨーロッパでホテルの映像が放映され影響で、最近は外国人観光客からの問い合わせも多いという。

 ロケ地としての歴史は意外と古い。85年、吉川晃司主演の映画「ユー☆ガッタ☆チャンス」、89年には田村正和主演のドラマ「過ぎし日のセレナーデ」(フジテレビ系)で使われた。これら作品の映像からは、床のタイルの色合いや木造のドアの風合いがまだ確認できる。

 「廃墟と化してからの劣化はすさまじかった」と慈さん。今回のドラマの撮影は34年ぶりで、コンクリート片が落下する可能性のある場所や古い照明器具の下は立ち入り禁止に、スタッフはヘルメット着用必須。俳優も撮影以外はかぶっていたそう。「ハラハラドキドキだった」

 撮影は、ツアーでも立ち入ることのできない3階の食堂にグラウンドピアノを運び込んで行われた。摩耶ロープウェーしか移動手段がないため、朝7時半から運行し、スタッフらが何度も往復して機材を搬入するなど、大規模なロケとなった。

 その映像が放送されると、X(旧ツイッター)で「どうやってピアノ持ってきたの」「マヤカンはまだまだ健在」と廃墟ファンたちがざわついた。実は「過ぎし日の-」でも同じ場所にピアノを置いて撮影が行われており、慈さんは「当時の映像と比較して、窓枠や照明器具の劣化の進み具合が見て取れた」と話す。「マヤカンでのシーンがCGだと思っている人もいるみたい」と言うが、「あの雰囲気はCGやセットでは出せない。それほど、カメラマンや美術、照明の方がこだわってくれた。高画質で撮影してもらい、今のマヤカンを映像に残すことができた」と喜ぶ。

 今回、持ち込んだピアノはそのまま食堂に置き、「マヤカン」と共に朽ちていくという。慈さんは「そのうち葉っぱが生えて、またマヤカンの歴史の一つになっていく。廃墟の運命です」と楽しみにしている。

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 神戸フィルムオフィスが、各ロケ地の説明や撮影時のエピソードを盛り込み作った「たとえあなたを忘れても」のロケ地マップが、JR三ノ宮駅南「神戸市総合インフォメーションセンター」や灘、東灘区役所などで配布されている。同オフィスのホームページからダウンロードもできる。

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