体験支出に2.7倍の差…経済格差が生み出す「こどもの体験格差」解消のカギはふるさと納税?

厚生労働省が2023年7月に公表した「国民生活基礎調査」によると、現在の日本では「18歳未満の相対的貧困率」は、2021年に11.5%。3年前の調査結果である14%に比べ改善を見せていますが、未だに約9人に1人のこどもが貧困状態にあります。また、ひとり親世帯では、半数近い44.5%のこどもが貧困状態であることが分かっています。


体験活動にかける年間支出に大きな差

経済格差の中でも、体験(文化鑑賞やスポーツ、習い事等こどもの心を豊かにする経験、旅行やお出かけ等の非日常的な体験)の機会は、家庭の経済的状況によって大きな差があることが明らかになっています。公益社団法人チャンス・フォー・チルドレンの「子どもの『体験格差』実態調査」(2023)では、世帯年収300万円未満の家庭のこどもの約3人に1人が、1年を通じて学校外の体験活動の機会がなく、またその割合は世帯年収600万円以上の家庭と比較して2.6倍高いという結果が出ました。

こどもの学校外の体験活動にかける年間支出について見てみると、世帯年収300万円未満の家庭では平均3万8363円。一方、世帯年収600万円以上の家庭では平均10万6674円となり、世帯年収300万円未満の家庭と比較すると2.7倍の差が生じていることが明らかになりました。

「自分だけできない」は自己肯定感を下げる

旅行に行ったことがない、海を見たことがない、家族で映画館に行ったことがない、など、体験の機会を持てないこどもたちは、「自分だけできない」という諦めを重ねてしまうことになります。その状態が続くと、「努力が報われる」という発想を持ちにくくなり、自己肯定感がだんだんと下がっていってしまいます。さらに、「どうせ自分なんて」という自己肯定感の低下は、学力の低下にもつながるという統計もあります。それが就学の差、所得の差を生み出し、貧困の連鎖や格差の拡大に繋がる可能性が指摘されています。このように、体験格差は、こどもたちの成長や、ひいては社会にも大きな影響を及ぼしうる社会課題なのです。

フローレンスの挑戦:こどもの体験格差をなくそう

「こどもの体験格差」という新たな社会課題の解決に向けて、様々な団体が取り組みを開始しています。

例えば、公益社団法人 チャンス・フォー・チルドレンでは、子どもの体験奨学金事業「ハロカル」で、寄付を原資に全国の経済的に厳しい家庭の小学生に、スポーツや音楽・芸術活動などの体験活動で利用できる電子クーポンを提供しています。

また、リディラバ代表の安部敏樹氏らが発起人となって立ち上げた「子どもの体験格差解消プロジェクト」では、経済的困窮や、不登校などの社会的に孤立しやすい状況にあるこどもたちを無償で招待する宿泊型体験プログラムを開催するなどの取り組みを行っています。

わたしたち認定NPO法人フローレンスも、2023年夏、こどもの体験格差を解消するために「#夏休み格差をなくそう プロジェクト」を実施し、全国約3,000世帯のご家庭にレジャー施設やプログラミング教室などでの体験を届けました。

「#夏休み格差をなくそう プロジェクト」によるプログラミング教室の体験の様子

体験を届けたご家庭から届いた声をご紹介します。(プライバシーに配慮し、いただいた感想を一部加工して掲載しています)

●一度行ってみたいと言っていた回転寿司。こどもが目をキラキラさせて「来れて嬉しい!しあわせ!」というのを見て、思わずその場で泣いてしまいました。家に帰ってからも、お寿司の話ばかり。私とこどもの夏休みの最高の思い出になりました!

●プログラミングは8歳の子には難しいのでは…というイメージがあったのですが、とても分かりやすく教えてくださったおかげで楽しく参加することができました。帰宅後もずっと、「楽しかった」「良い一日だった」と喜んでいました。また新たな興味を引き出していただけたと思っております。素晴らしい体験をありがとうございました。

また、体験格差は経済的な事情だけでなく、障害を持つ障害児・医療的ケア児や、そのきょうだい児も同様の問題を抱える当事者です。2014年より障害児家庭支援にも取り組んできたフローレンスは、重度障害児・者のe-sports大会や、医療的ケア児のおやこ映画会などを企画し、障害のあるお子さんやそのきょうだい児も含めたご家族にも体験の機会を提供してきました。

「医ケア児おやこ映画会」の様子。障害のあるお子さんやそのきょうだい児、ご家族などが集まり映画を楽しんだ

こうした取り組みを行う中でフローレンスには、経済的に厳しい状況に置かれた当事者のご家庭や障害児・医ケア児家庭からの悲痛な叫びと、こどもたちに学びや体験の機会をもっと与えたいという切実な思いも多く寄せられました。こどもたちが体験を必要としているのは、夏休みや特別な日だけではないということ。こどもの『体験』は人生を彩り、心を育む上で重要なものです。こどもたちの心を豊かに成長させるために、もっと恒常的に様々な体験をする機会を必要としているということがわかったのです。

「こどもの体験格差」を解消する新プラットフォーム

そこでフローレンスは、日本のこどもたちの「体験格差」を解消するため、こどもたちに「体験機会」を提供する、新しい仕組みを立ち上げることにしました。それが、「こどもの体験格差解消プラットフォーム」です。

このプラットフォームで「体験を届けるしくみ」を作ることで、体験にかかる手間やお金などのコストをできるだけ減らし、より多くのこどもたちに体験を届けることができるようになります。また、体験プログラムの申し込みをきっかけにご家庭とつながることで、困りごとを抱えたときに必要な支援につなぐアウトリーチの仕組みをつくることを目指したいと考えています。

このフローレンスの「こどもの体験格差解消プラットフォーム」構想には、日本の経済三団体のひとつである公益社団法人 経済同友会がプロジェクト推進などで協力することが発表されました。なぜ、経営者団体である経済同友会がこのプロジェクトに協力するのでしょうか。

経済同友会は、企業とソーシャルセクターが協力し、資源を有効に活用して社会課題を解決することを目指す「共助資本主義」を提唱しています。これは、伝統的な資本主義の中で、企業が利益を追求するだけでなく、社会に対して持続可能な影響を与えることも考慮すべきだとする考え方に基づいています。共助資本主義の考え方では、企業と社会が協力して持続可能な社会を築くために活動を展開することも期待されています。企業とNPO法人が協力することで、より大きな社会的影響を生む仕組みを築いていこうとしているのです。

経済同友会は、会員企業にこの体験格差プラットフォーム事業への参加を広く呼びかけることで、経済界からも「こどもの体験格差」という社会課題の解消に協力していくとしています。

また、この「こどもの体験格差解消プラットフォーム」の仕組みづくりの構築には、サントリーホールディングス株式会社が新規事業のパートナーとして協働することも決定しました。

「#こどもの体験格差をなくそう」のメッセージを掲げ、経済同友会、サントリーホールディングス株式会社、フローレンスが協働して始まる新プロジェクト。経済格差が生み出す新たな社会課題に対峙し、共助の精神で未来の世代に希望を提供する新たな取り組みが動き出します。

「こどもの体験格差」解消にふるさと納税で参画できる

経済界からも注目が集まるこのプロジェクトのもう一つ特徴的な点は、ふるさと納税を通じて、多くの方に「こどもの体験格差解消プラットフォーム」立ち上げに関わっていただくチャンスがあることです。2023年11月1日から12月31日までの期間中、渋谷区のふるさと納税を通じて、「こどもの体験格差解消プラットフォーム」構築にむけたふるさと納税型クラウドファンディングを行っています。一般の方々や企業からの寄付を募り、2024年夏にサービスが開始される予定です。

これまでのふるさと納税は、地域社会への応援や特産品を目的とした寄付が一般的でしたが、これはこどもたちの体験格差という社会課題をふるさと納税で解消するための新たな挑戦です。寄付を通じて、経済的に厳しいご家庭や医療的ケア児・障害児家庭にも体験の機会を提供することで、こどもたちの可能性を広げ豊かな心を育むことに繋がります。多くの方に参画していただくことで未来の社会をより豊かなものに変えていけます。

「自分だけできない」そんな辛い気持ちから生まれるあきらめの感情に、こどもたちの未来が左右されないように、家庭環境によって「体験格差」が生まれてしまう今の日本を変えていこうと、経済界からも個人からも力を結集していくプロジェクトです。

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