不可解な謝罪
11月30日公開の記事『川勝知事のヤバすぎる「不適切発言」が止まらない』で、12月静岡県議会は、川勝平太知事の「不適切発言」をきっかけに、自民党県議団が本気で知事辞職を求めるのかどうかが焦点となると伝えた。
1日開会された12月県議会冒頭で、川勝知事は「今回の発言は、東アジア文化都市のレガシー創出に向けた思いを語ったのであり、現時点で何も決まっていない」と述べた上で、「不適切発言を訂正しない」と断言した。
川勝知事のあまりにも傲慢な姿勢に、6日の県議会代表質問が始まる前に、中沢公彦議長が「『知事は、三島を拠点とした東アジア文化著都市の発展的継承センター』、『詰めの段階』との発言を速やかに訂正するとともに、知事としての発言の重みを十分に意識し、今後は決して、軽率、不用意な発言をしないよう改めて求める」などとする決議案を読み上げた。
議長による異例の決議案の音読に、反対者はひとりもなく、全会一致で決議された。
県議会決議は、「不適切発言」を認めた上で、訂正して反省することを求めたのである。
これに対して、江間治人県議(自民党)の代表質問に対する答弁の中で、川勝知事は「県議会が決議に至った状況を大変重く受け止めている。心よりお詫びする」などと謝罪した。
思いも寄らぬ知事の謝罪に県議会に驚きの声が上がった。
あくまでも「不適切発言」の訂正は拒否している。
つまり、頭を下げるが、「不適切発言」の訂正はしないし、反省もしないというわけだ。単に、県議会が決議したことに謝罪したに過ぎない。
これでは県民には何なのか全く理解できない。常人にはあまりにも不可解な謝罪だった。
「リニアを応援をしている」!?
その上で、今回の端緒となった「東アジア文化著都市の発展的継承センター」事業すべてを撤回してしまった。
県議会に謝罪して、「不適切発言」の端緒となった事業を白紙にしたのだから、問題はすべてなくなったと言いたいのだろう。またこれ以上の追及はしてくれるなという思いがはっきりと見えた。ほとんどの県議はこれで納得してしまったのかもしれない。
しかし、自民党県議団の強硬派がこのまま黙って、川勝知事の姑息な謝罪を受け入れるのかどうかはわからない。
現在、国政では、安倍派などの裏金疑惑への厳しい追及が連日続き、自民党への逆風が吹き荒れる。これも知事辞職を求める政局にするのかどうか、大きな影響を与えるだろう。
6月県議会では最終日に政局となり、知事不信任決議案を提出する事態となり、深夜を過ぎて翌日未明までもめた。9月県議会も最終日に、今回の「不適切発言」で大騒ぎとなり、12月県議会に先送りしたのだ。
自民党県議団が知事に対して、何らかのアクションを起こすのは、12月21日の県議会最終日となるはずだが、それまで不透明な状況が続くのだろう。
また江間県議は代表質問で、この「不適切発言」とともに、反リニアに徹する知事発言を取り上げた。
江間県議は「リニア建設期成同盟会に加入、本来、諸問題の解決に向けて積極的に関与する立場なのに、解決策を提示しないどころか、知事はマイナス発言を繰り返している。
他県からは静岡県の知事はおかしいと県民までが揶揄されている。誰に聞いても、いまの知事は、リニア建設反対派である、と言われる。なぜ、それほどリニアを通したくないのか、リニア建設を止める理由はいったい何なのか」などとただした。
これに対して、川勝知事は「決してリニアに反対しているわけではない。南アルプストンネル工事の問題がまだ解決されていないことを申し上げているだけだ。この工事、あるいは計画に対して、一度も足を引っ張ることをしたことはない。
むしろ、私の考えを申し上げて、応援をしているというのが私の態度である。私がリニアに反対しているかのごときに言われる方は、明らかに誤解されている」などと答弁した。
まあこれだけ白々しい発言ができるのが、川勝知事の真骨頂なのだろう。
川勝知事の自然保護パフォーマンス
「不適切発言」を訂正しないで、何ともわかりにくい謝罪でごまかそうとするのと同じで、あらゆるごまかしと虚偽を並べ立てて、リニア妨害に徹している。ただ、反論するのさえやっかいである。
最近の事例でわかりやすいのは、生態系への影響を議論した国の有識者会議への対応である。
1年以上にわたって議論した有識者会議が7日、報告書をまとめ、国交省に提出した。川勝知事は5日に環境省を突然、訪問して、今回の報告書提出に言い掛かりをつけた。
報告書発表前に、機先を制することで、静岡県のマイナス評価を高めてくれたわけだ。
同報告書では、自然環境の大幅な変化などで当初の予測と異なる状況が生じることを踏まえ、JR東海が工事をすすめながら、生態系への影響を価値判断して、対策を見直していく管理手法を認めている。
非常に合理的な手法なのだが、県は有識者会議が行われるたびに「事前の生物調査や影響予測が不十分だ」などとする意見書を国に送った。
その集大成が川勝知事の環境省訪問である。
南アルプスの自然生態系は、この10年で大きく変化している。県はJR東海への調査不足を言い立てているが、現状さえちゃんと把握していない。
県生物多様性専門部会の議論は、もともとは固有種のヤマトイワナに限定されていたが、いつのまにか、普通種などを含めて、いったいどんな生物を守りたいのか全くわからなくなってしまった。
川勝知事は「南アルプスの生態系を保全するのは国際的な責務である。なぜなら、ユネスコエコパークに登録されているからだ」などと理念的な発言を繰り返すだけで、南アルプスの自然環境をどのように守っていくのか具体的な方策を何ら示すことさえできない。
環境省への電撃的な訪問など政治的なパフォーマンスを繰り返し、関係者を驚かすことはできても、南アルプスの生態系保全にはつながらない。
川勝知事が、南アルプス国立公園の管理を任せられる県の環境行政の役割と責任を理解していないからだ。だから、リニア反対派と言われるのだ。
このまま川勝知事に任せていてもリニア問題は何ひとつ解決しないだろう。
となると、自民党県議団の対決姿勢に期待するしかない。県議会最終日の21日に“奇跡”が起きることを祈るだけである。