指導者が起こることは禁止! の「ファンジャンプ! バスケットボール2023カイエントカップ」が終了

指導者が子どもたちを怒ったり、試合中にベンチから指示を出すことを禁じる特別ルールで話題の「ファンジャンプバスケットボール2023カイエントカップ」が、12月9日・10日の両日、千葉ポートアリーナで開催された。昨年に続く2回目の開催となった今回は、東北(福島県)から東海(静岡県)までの幅広い地域で活動する男女各24チームずつが出場。初日の女子部門では有秋西MBC(千葉県)が決勝で北郷成美ミニバススポーツ少年団(静岡県)を破って優勝し、翌日の男子部門では、千葉県勢同士の対決となった決勝戦で若宮白幡MBCがHEARTSを倒して王座に就いた。

女子優勝 有秋西MBC(千葉県)

Photo by Hitromasa Ito / Gekkan Basketball

女子準優勝 北郷成美ミニバススポーツ少年団(静岡県)

Photo by Hiromasa Ito / Gekkan Basketball

女子決勝 有秋西MBC 33-22 北郷成美ミニバススポーツ少年団
☆ボーナスポイント: 有秋西MBCが前後半とも4人ずつ得点して8点獲得/北郷成美ミニバススポーツ少年団は後半3人ゴールを決めて1点獲得

男子優勝 若宮白幡MBC(千葉県)

Photo by Hiromasa Ito / Gekkan Basketball

男子準優勝 HEARTS(千葉県)

Photo by Hiromasa Ito / Gekkan Basketball

男子決勝 若宮白幡MBC 30-24 HEARTS
☆ボーナスポイント: 若宮白幡MBCは前半4人の得点で4点、後半3人の得点で1点の計4点獲得/HEARTSは前後半とも3人ずつの得点で計2点獲得
個の力ではなくチーム力を後押しする特別ルール
カイエントカップは、昨年12月の第1回大会でも、子どもたちの自主性を引き出すために「指導者が怒ってはいけない」というコンセプトを掲げ全国的な注目を集めた。特定の一人だけがほとんどの得点を記録するような偏った試合展開やチーム構成を是正する目的で、登録メンバー内の幅広い得点分布を達成したチームにボーナスポイントが与えられる特別ルールを採用したことで、大人の怒鳴り声が消え、子どもたちの歓声が響く大会となっていた。

今年の大会はそのコンセプトをさらに練り上げ、前回以上にチームとしての力量とコーチ陣の指導力を問われる大会に発展していた。最大の特徴であるボーナスポイント制は、チームで3人目が得点を記録したら1点加算、人目がゴールを決めたらさらに3点加算、5人が得点したらまたさらに5点加算。これが5分ずつの前後半(決勝のみ前後半6分)両方に適用され、さらに1試合を通じて10人が得点できたらその上に5点が加算される。仮に試算してみると、一方のチームが二人で10本のフィールドゴールを決めれば20得点だが、もう一方が同じ10本を10人で決めると43得点になる。

このルールを活用するにはチームプレーが欠かせない。そこで非常に重要なのがコミュニケーションだが、女子決勝ではプレーヤーたちの声が仲間同士の激励だけではなく、連絡として機能する情報交換が頻繁に行われていた。今大会のスペシャルアンバサダーを務める伊藤俊亮(元千葉ジェッツ他)は、「相手のファウルが5個になったよという声がベンチからコート上の選手に向けて出ていて、本当にいいことだと思いました」と評価。同じくスペシャルアンバサダーとして来場していた岡田麻央(元トヨタ紡織サンシャインラビッツ、現株式会社サクラカゴ代表、Tokyo BB所属3x3プレーヤー)も、「普段から声の出し方をわかっているんだろうなと感じました。自分たちで日々考えるバスケをしているチームだからこそ、そういう声も自然と出てくるんだと思います」と感心していた。

女子決勝での有秋西MBCの選手たち。笑顔で激励し合いながら、コート上でもコートとベンチ間でも盛んなコミュニケーションがとられていた( Photo by Hiromasa Ito / Gekkan Basketball)

とはいえ、1試合が前後半合わせて10分の今大会で、10人が得点を記録するのは簡単ではない。それでも実際に10人得点を実現し、1試合で60得点以上の大量得点を奪ったチームも現れた。

男子でベスト8に入ったレッドサンズ(千葉県)はその一つで、みごとに10人得点を達成した最初のチームとなった。チームを率いる河合良孝HCは「もともと全体で獲ることを目指しているチームではあるんですけど、自分たちの強みがルールに適していたので、誰が何点獲ったか、誰が決めていないかを把握してしゃべるように徹底していました」と話す。実際にレッドサンズは同じプレーヤーが連続得点する場面は少なく、次は誰で攻めようという意識がポゼッションごとに強く感じられた。速攻では様々なプレーヤーが積極的にフロントランナーを務め、ハーフコートゲームでは良い位置に良いタイミングで得点を獲りたい・獲らせたいプレーヤーがカッティングしてくるのだ。

子どもたちの個性が最高の形で表現された男子決勝
もちろんチームという捉え方だけではなく、男女とも各チームに素晴らしい個性やスキルを輝かせるプレーヤーがいた。男子決勝戦ではそのような個の輝き出場チームすべてに広がるような、心に残る瞬間を生み出している。

それは若宮白幡MBCの松浦煌明キャプテンが、決勝戦開始前のメンバー紹介で最初に名前を呼ばれてベンチで立ち上がったところから始まった。立ち上がって自らの名前を大声で叫んだ松浦選手は、この一戦を間近で見ようとベンチ向かいのサイドライン際に集まっていた出場全チームの子どもたちのところに向かって駆けだし、一日を一緒に楽しく過ごしてきた仲間たちとハイファイブをかわしたのだ。若松白幡MBCの全員が、名前を呼ばれるたびに次々と同じことを繰り返し、負けじと対戦相手のHEARTSもこれに続いた。

男子決勝戦での松浦煌明選手(Photo by Hiromasa Ito / Gekkan Basketball)

サイドライン際の子どもたちは大喜び。後列の子どもたちまで総立ちとなって、傍らを駆け抜ける両チームの選手たちに大声援を贈り手を振って激励した。しかも、試合が始まってからもこの大声援が途切れないのだ。感動にも様々な形があるが、この数分間の出来事は、トッププロ同士の対戦や代表戦でさえなかなか味わうことのできない心の動きを届けてくれた。

試合後、若松白幡MBCの泉山靖治監督に話を聞くと、「いつもは自分たちの保護者席だけなんですけど、彼がコート全長を走ったことで一気にウォー! と盛り上がりましたね。あれで流れを作ったなと私も思います。いいムードを作ってくれて感謝しています」と笑顔で松浦選手を称えていた。そうするように指示をしたわけではなかったそうだ。

松浦選手自身も「今日はサービス精神でコートサイドの全員のところに走っていきました!」と元気いっぱい。優勝という目標をかなえて、自身とチームのプレーぶりにも手応えを感じていた様子だった。プレーぶりに関しては泉山監督も、「本当に子どもたちがみんなでやろうという気持ちで、いい結果が出ました。ディフェンスもすごくて、こんなにできるんだ! というぐらい頑張っていましたね」と振り返りながら、全員の奮闘に目を丸くしていた。

大会を主催したカイエント株式会社の足達伊智郎代表の声掛けとともに、子どもたちから保護者と指導者に向けた感謝の拍手が鳴り響いて終了したファンジャンプ! バスケットボール2023カイエントカップ。謳い文句のとおり「日本一夢のある小学生バスケ大会」の姿を、非常に高いレベルで体現した大会だった。

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