対戦相手を吟味できるのがこんなに幸せだったとは…/原ゆみこのマドリッド

[写真:©Atlético de Madrid]

「でもやっぱり2月は寒いよね」そんな風に私が考え込んでいたのは木曜日、来年のCL決勝トーナメント16強対決抽選でアトレティコが当たる可能性のあるチームのリストを眺めていた時のことでした。いやあ、ご存知の通り、昨季の彼らは11月のW杯カタール大会開催前に終わったグループリーグの5節で早くもCL敗退が決定。勝てば、3位でELに転戦できた最終節でもポルトに負けたため、シメオネ監督体制となって以来、初めてとなるヨーロッパの大会早期完全撤退をすることに。

おかげで今年は私もまったく、アトレティコのアウェイ戦追っかけ旅行をしていなかったため、まだグループ突破の決まっていなかった今季5節のフェイエノールト戦でチームがロッテルダムへ移動する前など、顔馴染みのTVE(スペイン国営放送)のアトレティコ番レポーターに、「決勝トーナメントに進めたら、私もアウェイまで見に行くから」と自分の願望をつい告白。すると、水曜夜のメトロポリターノのミックゾーンで早速、「16強対決はどこに行きたい?」と聞かれてしまったため、いえ、もちろん最優先は「Me gustaría enfrentarme al equipo que nos permita pasar/メ・グスタリア・エンフレンタールメ・アル・エキポ・ケ・ノス・ペルミタ・パサール(ウチを突破させてくれるチームと当たりたい)」(シメオネ監督)なんですけどね。

2017年以来となる首位突破を果たしたアトレティコ、そしてお隣さん、レアル・ソシエダ、バルサが当たる2位突破組では、うーん、ラツィオ戦の終盤にはオンダ・マドリッド(ローカルラジオ局)の実況、コメンテーター陣、スタジオアナまでが揃って、コペンハーゲンを連呼していましたが、同グループ2位のラツィオを除く、7チーム中、デンマークは最北の国。ドイツ北部のライプツィヒも極寒そうですし、それ以外、PSV(ロッテルダム)、ナポリ、インテル(ミラノ)、PSG(パリ)と、1stレグのある2月13、14or20,21日なんて、どこに行ったって寒そうで、こうなると、TVEのレポーターが「ポルトしかないわ」と比較的、暖かそうな気がする隣国のチーム一択だったのも納得ですが、いやいや。

どちらかと言えば、もう少し気候のよくなる4月の準々決勝で追っかけ旅行をしたいものですが、ええ、スペイン勢以外の1位突破チームではバイエルン、ドルトムントのドイツ勢、アーセナル、マンチェスター・シティのイングランド勢が2チームずつとあって、クジ運次第では、またアトレティコ、レアル・マドリーのアウェイ梯子観戦もできるかもしれませんしね。まあ、そうやって日和っているうちに、アトレティコが16強対決で敗退してしまうケースもなかった訳ではありませんが、とりあえず、今は月曜の抽選会を楽しみに待つことにしましょうか。

え、そんな先走りする前にCL最終節のマドリッド勢の試合がどうだったか知りたいって?そうですね、火曜に一足早くユニオン・ベルリン戦に挑んだマドリーは何せ、すでに彼らは前節に1位突破まで確定させていましたからね。最下位ながら、勝てばスポルティング・ブラガを抜いて、3位でEL転戦の可能性があった相手はともかく、正直、アンチェロッティ監督のチームのこの試合に対する関心は低かったんですが、ローテーションすると言っても、負傷欠場者7人の現状ではそうそう、スタメンをいじる余地もなし。クロース、リュディガーがベンチスタートになったぐらいだったんですが、キックオフから1分もしないうちに、ベーレンスのエリア内からの強烈シュートをようやく先発に復帰したGKケパがparadon(パラドン/スーパーセーブ)で防いで、ヒヤリとさせられたなんてことも。

ただその後は大したピンチも訪れず、前半は両者無得点で終わるかと思われたんですが、43分にはセバージョスのクロスをエリア内でレイチが腕でクリアしてしまい、ハンドでマドリーがPKをゲット。先制点のチャンスを迎えたところ、まさかモドリッチが横っ飛びしたGKレノウの残した脚に弾かれてしまうとは!それどころか、そのリプレー映像が流れている間にユニオン・ベルリンがゴールキック。エリア前でのアラバのクリアミスから、フォラントに先制ゴールを決められていたったって、それこそ狐に化かされたような気分になりましたが、いやあ。もしやこの失点のおかげで、マドリーのremontada(レモンターダ/逆転劇)精神に火がついた?

ええ、後半頭から、バルベルデをクロースに代えたのはプレー時間の分配の意味もあったんですが、「En la segunda parte hemos llegado más por fuera para centrar porque tenemos un jugador muy bueno de cabeza/エン・ラ・セグンダ・パルテ・エモス・ジェガードー・マス・ポル・フエラ・パラ・セントラル・ポルケ・テネモス・ウン・フガドール・ムイ・ブエノ・デ・カベッサ(後半、ウチはクロスを入れるため、より多くサイドから近づいた。ヘッドがとても上手い選手がいるからね)」とアンチェロッティ監督も言っていたように、マドリーは戦略も変更。おかげで16分にはロドリゴがエリア内右奥から上げたボールをホセルがゴール前での空中戦に勝って叩き込み、見事な同点ゴールを挙げてくれたんですが、彼は27分にもフラン・ガルシアのクロスを、うーん、こちらは低い軌道のボールを屈んでヘッドしたため、ジャンプ力は関係かったんですけどね。

頭が強い選手のdoblete(ドブレテ/1試合2得点のこと)であっさり逆転しているんですから、さすが十八番の大会だけありますが、40分にはエリア前からクラルが蹴ったシュートにケパが破られて、ユニオン・ベルリンが2-2の同点に追いついたから、意表を突かれたの何のって。折しも他会場ではブラガがナポリに2-0で負けていたため、そのまま勢いに乗って、あと1点取れば、ビエリカ監督のチームが来年、ELでプレーできたはずですが、相手はレモンターダの鬼、マドリーですからね。44分にはセバージョスが勝ち越しゴールを決め、最後は2-3の逆転勝利をもぎ取って、6試合全勝でグループリーグを締めることになりましたっけ。

ちなみにこのグループリーグ完全制覇は、前人未踏のCL優勝14回を誇るマドリーも過去2度しか達成しておらず、2011年のモウリーニョ監督(現ローマ)、2014年のアンチェロッティ監督だけなんですが、その両方のシーズンは優勝していませんからね。必ずしも来年の6月2日、全面改装工事が終了したサンティアゴ・ベルナベウでDecimoquinto(デシモキント/15回目のCL優勝)を祝える保証にはならないんですが、ちょっと気になるのは、今季のマドリーはPK失敗が多いこと。ええ、プレシーズンのクラシコ(伝統の一戦、バルサ戦のこと)のビニシウスに始まって、リーガ開幕以降もロドリゴ、ホセルと続き、とうとうモドリッチまで止められてしまいましたからね。

試合後記者会見で、「Entrenar no es sencillo/エントレナール・ノー・エス・センシージョ(練習するのは簡単ではない)」と認めていたアンチェロッティ監督によると、まだ蹴っていないキッカー候補はベリンガムだけのようですが、何より一番なのはPKなんてもらえずとも、普通にゴールが入ることかと。これでCLも片付き、年内はこの日曜午後9時(日本時間翌午前5時)にビジャレアルを迎えるホームゲームと来週木曜のアラベス戦だけになったマドリーですが、前者は今週木曜にEL最終節のスタッド・レンヌ戦で2-3と競り勝ち、グループ首位突破を決定。士気は上がっているはずですが、体力的には消耗しているはずなので、前節のベティスとの引き分けで、勝ち点差2をつけられた首位ジローナにプレッシャーをかけるためにも、マドリーとしては絶対、落とせない試合になりそうです。

そして翌水曜、すでにグループ突破は決まっていたものの、1位の座を争うラツィオをメトロポリターノに迎えたアトレティコはどうだったかというと。いやあ、これが19連勝中のホームの底力というか、ツキがあるというか、何かをする前、もう6分には先制点が決まっちゃってねえ。そう、サムエル・リノがPKマーク付近に送ったラストパスをグリーズマンが蹴り込んで、故ルイス・アラゴネス監督のクラブ最多記録173得点まであと2本に迫ったんですが、残念ながら、38分にモリーナのクロスから、エルモーソがvolea(ボレア/ボレーシュート)で決めたゴールは、リノがオフサイドの位置でGKプロベデルに影響したとして、スコアに挙がらず。

何せ、リーガではバルサに負けた試合に続き、前節の最下位アルメリアとの試合でも2点リードした後、ダメダメ状態が発現してしまったアトレティコですからね。リードは1点だけだったにも関わらず、ハーフタイムにはグリーズマンがメンフィス・デパイと代わっていたのにもちょっと驚かされましたが、どうやらこれは、「Me llamó el Cholo a su despacho y pensaba que había hecho algo mal/メ・ジャモ・エル・チョロ・ア・ス・デスパチョ・イ・ペンサバ・ケ・アビア・エッチョー・アルゴ・マル(シメオネ監督にオフィスに呼ばれたから、何かやらかしたかと思ったんだけど)、そうじゃなくて、45分だけプレーする話だった」と当人も後で言っていたように、ローテーション政策の一環だったよう。

そう、頼りのグリーズマンはピッチにおらず、リードはたったの1点。それが逆に選手たちの緊張感を持続させたんでしょうか。アトレティコは後半6分にも、今度はコレアがchilena(チレナ/オーバーヘッド)で送ったパスをリノが頭でデパイに送り、いえ、この時はボールが敵DFにクリアされて、リノのところに戻って来ちゃったんですけどね。リケルメと左のカリレーロ(長い距離をカバーするSB)の激しいポジショ争いをしているブラジル人MFが最後はシュートを決めて、2点目が入ったとなれば、シメオネ監督だってもう、大手を振ってローテーションに舵を切れるというものですって。

というか、「アトレティコは12月13日から23日の間に4試合プレーする。選手と最初に話すのは健康についてだ」というシメオネ監督はスタメンからモラタとコケを外し、その2人を後半半ばにコレアとビッツェルと代えただけですけどね。続いてサビッチもアスピリクエタと交代し、完全に温存されたのはマルコス・ジョレンテとリケルメだけになりましたが、幸いこの日は2位突破でラツィオも満足していたのか、アルメリアのようにアトレティコを守備崩壊に追い詰めるまでの必死さは示さず。ええ、後半18分にピッチに入った鎌田大地選手も目立った働きを見せることはなく、試合はそのまま2-0で無事に終了です。

おかげでとうとうホーム20連勝となり、来週火曜のヘタフェとの兄弟分ダービーと延期されていた4節のセビージャ戦の土曜開催で、年内に22連勝まで伸びる可能性が出てきたんですけどね。ボルダラス監督のチームはアトレティコに1度も勝ったことがないのと、まるで昨季の誰かさんを見るように最終節でランスにも負けて、ELにすら行けず、CL最下位敗退したばかりのセビージャの尾羽打ち枯らした状態を考えると、意外と簡単に達成できるんじゃないかとも思いますが、その前最大のチャレンンジとなるのはこの土曜午後4時15分(日本時間翌午前0時15分)から、サン・マメスでアスレティックと顔を合わせる一戦。

ええ、前節はバルサがジローナに負けてくれたおかげで、同じ勝ち点ながら、再び3位に戻れたとはいえ、アトレティコがその天下の首位チームと勝ち点7差もあるのは、アウェイで3勝1分け3敗と星を落としているせいですからね。今年最後となる遠征で汚名返上することができれば、年明け3日、モンテリビに乗り込む直接対決にも期待が持てるんですが…現在、勝ち点5差で5位につけるバルベルデ監督のチームには今季もヨーロッパの大会がなく、休養十分なのはちょっとハンデになるかもしれませんね。

そして同様に今週はミッドウィークに試合がなく、週末リーガの準備がじっくりできた弟分チームたちは金曜にラージョがオサスナと、ヘタフェは土曜にセビージャとアウェイで対戦となるんですが、丁度、今週は火曜の抽選会でコパ・デル・レイ32強対決の組み合わせも決定。こちらはまたレジェス・マゴス(東方の三賢人)の祝日と重なる週末開催となって、マドリッド1部4チームは揃って1月6日(土)にプレーすることに。

10日にはサウジアラビアでのスペイン・スーパーカップ準決勝で顔を合わす兄貴分たちはこのラウンドがコパ初参加となり、RFEF2部(実質4部)の生き残り、2回戦ではプール状態のピッチでカディスを1-0と破ったアランディーナがマドリーと、RFEF1部(同3部)のルーゴがアトレティコとご褒美対戦。弟分たちはヘタフェがエスパニョール、ラージョがウエスカと、レベルがより近い2部チームと顔を合わせるため、少々、手こずりそうですが、唯一の1部チーム対戦カードとなったアラベスとベティスよりはマシだった?ここを越えて16強対決に進めば、いよいよコパでホームゲームをプレーできるかもしれませんしね。幸い今季は両チーム共、降格圏を気にする必要のない位置にいるため、スペインの3強以外にもタイトルへの道が開かれているコパに少しばかり、気合を入れてもバチは当たらないんじゃないでしょうか。


【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

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