高齢化が進む中、誰もが直面する可能性のある介護の問題。要介護者だけではなく、その家族にも寄り添おうと地域で活動する女性を取材しました。
てとりんハウス
春日井市内にあるカフェ「てとりんハウス」。朝からモーニングを求めて、地元の人たちが集まっています。実はここ、介護をしている家族が悩みを相談できるカフェなんです。
家族の介護をきっかけにカフェを開く
岩月万季代さん
相談を受けるのは、元看護師で代表の岩月万季代さん。岩月さんがこのカフェを開いたきっかけも、「家族の介護」でした。15年ほど前、母親が糖尿病で両足を失って要介護状態に。入浴や食事など、身の回りの世話をすることとなりましたが、介護生活は想像以上に心をすり減らしたといいます。
母の言葉に心を悩ましたと話す
岩月さん:
「早く死にたい、消えたい(と母がいう)。なんでこんな一生懸命周りはやっているのに、『そんなこと言うんだ』って、つらくなる。精神的な(負担の)問題のほうが大きかった」
相談は年に500件以上
介護者同士がコミュニケーションをとれる場所に
そんな中、転機となったのは同じく介護で悩む近隣住民との会話でした。つらさを打ち明けあう中で、互いに共感したり、相談に乗ったり。少しずつ前向きな気持ちになれたといいます。
こうした介護者同士がコミュニケーションをとれる場所を身近に作ろうと、岩月さんは約10年前、このカフェを開きました。営業は週6日、休みは月曜日のみ。岩月さんを頼った相談は年に500件以上寄せられます。
カフェの客:
「家で看取りたいから相談している。知識が豊富ですごく助かる」
「精神的に主人が落ちると、私も引きずられる」
岩月さんに相談
11月中旬、1人の女性が「てとりんハウス」を訪れました。春日井市内に住む、佐藤さんです。1年半ほど前に夫が脳出血で倒れ、その後右半身にまひが残りました。介護の傍ら、夫がリハビリや職業訓練を受けられる事業所を探しています。
佐藤さん(仮名):
「まだ受けられるサービスはあります?受けられるものは受けたいけど、この世界がわからなさすぎて……」
岩月さんは話を聞きながら条件に合う事業所を提案。しかし、悩みは解決とはいきません。佐藤さんがぽつりぽつりと話し始めたのは、介護を行う中での、夫との関係でした。
佐藤さん:
「主人も生きがいを見出せないので、主人が落ちると、私も引きずられる」
岩月さん:
「落ちるっていうのは?」
佐藤さん:
「精神的に。生きている意味がないとか、言っちゃうので」
岩月さん:
「主人にとって最適かどうかは一生、ずっと悩み続けていて、たまに、主人が『なんでお前が俺の人生を決めるんだ』っていうと……。どうしていいか分からなくなっちゃう」
悩む佐藤さんを、岩月さんは”とある人に会ってほしい”と外に連れ出しました。向かったのは、岩月さんが経営するデイサービスです。佐藤さんの夫と同様に体にまひが残り、苦しんだ女性でした。
まひの残った女性
まひの残った女性:
「なんでこんな病気になったんだろう、わたしが……と思います。『悔しい』って思う。でも、私が負けないで頑張ればみんなが元気になると思ったの」
佐藤さん:
「(立ち直るのに)長い時間かかった?」
岩月さん:
「しばらくかかったね…(入所して)1年、2年」
女性:
「頑張りすぎると、またひどくなるから、ほどほどに。すべてほどほどに」
佐藤さん:
「すごく良い考え方!」
女性との会話を経て、何か感じ取ったものはあったのでしょうか。帰り際、話をききました。
てとりんハウスは「お守り」
肩の力を抜いて、様子を見ながら動く
佐藤さん:
「どんどんいい方向へと思って動いていたけど、急ぎすぎていた。肩の力を抜いて、主人の様子を見ながら動くことを心がけた方がいいかなと思う。家族に寄り添ってくれるケアはほかで見つけられなかったので私にとってはプラス」
仲間に出会えて落ち着ける場所
てとりんハウス代表・岩月万季代さん:
「家族介護は自分と要介護者との2者関係の中で煮詰まっていく。ちょっとした頼りにしてもらえる場所になったらいいし、家族の都合、介護者の都合で行って相談ができる。仲間に会える、ホッとできる場所というのは『お守り』みたいな感じ」
介護が必要な高齢者の数
厚生労働省によりますと、介護の必要な高齢者の数は、2022年度末時点で約700万人。2040年には872万人に上るとの推計もあります。社会保障費も増加することから、今政府が審議しているのが、「介護サービスの自己負担額の見直し」です。年内にも方針を固めるとしています。
ただ、実施されれば負担額が倍になる利用者が増えること、サービスの利用控えから家族の負担が増えることなど、介護を取り巻く環境の行く末には懸念も広がっています。