「In Stars and Time」のレビューをお届け――タイムループの魅力も苦痛も全て味わう傑作RPG

Armor Games Studiosより配信されているNintendo Switch版「In Stars and Time」のレビューをお届けする。

「ようやく終わった……」と、クリア時にため息をついてしまうようなゲームは、基本的に駄作と言える。こういった所感は、いちいちチュートリアルが長かったり、物語が中だるみしていたり、同じことを何度も繰り返したり……どこかにプレイヤーをうんざりさせる要素が無ければ、出てこないはずだからである。しかし、そんな辟易こそが傑作と言わしめるエッセンスとなる作品も、確かに存在する。それが「In Stars and Time」だ。

なお本稿は、核心的なものは避けるが、ある程度のネタバレ要素を含むので注意して欲しい。

主人公・シフランは、国中に呪いを放ち、呪いに触れたあらゆるものの時間を静止させてしまった悪の王の暴政を終わらせるために戦う冒険者。世話焼きな侍祭・ミラベル、仲間想いの戦士・イザボー、シニカルな研究者・オディール、そしてちびっ子のボニーと共に、最後の戦いへ挑むべく、王の館へと足を踏み入れる。しかし、館に入ったのも束の間、罠にかかって命を落としてしまう。

死を実感し、冒険はここで終わり……と思いきや、シフランは草原で目を覚ます。そこは紛れもなく、決戦の前日を過ごし、仲間たちと絆を確かめ合ったドーモントの街。昨日と同じ言葉を投げかけてくる彼らを目の当たりにして、このタイムループに自分しか気がついていないことを悟る。

原因も分からず困惑するシフランだったが、ひとまずはタイムループを有効活用し、過去の失敗をやり直すことを思いつく。街はずれにある願いの木で出会った謎の存在“ループ”の手を借りながら、王を倒し国を救う決意を新たにするのだった。

決戦前日から始まる本作で探索できるダンジョンは、王の館ただ1つ。館には罠だけでなく、鍵のかかった扉や二者択一を迫られる分かれ道など、さまざまな困難が待ち受けており、タイムループの力を上手く使ってそれらを攻略し、“答えを知っている場所”を増やしながら先へ進んでいくのが大きな魅力となっている。

タイムループが発動する条件は、死かそれに類する状況となること。戦闘でわざと負けるか、触れたものの時間を静止させてしまう“涙のしずく”を触ることで時間が巻き戻る上、ループするフロアを選び、効率的に攻略することもできる。

攻略済のフロアに、鍵を開けた状態で戻ることも可能。
セーブポイントでは、仲間のスキルと経験値を記録することも。

館の各部屋にある物を調べると、仲間たちの会話を見られることがある。本作では物語上、シフランと仲間たちの関係性が既にある程度出来上がっている状態から始まり、スタート時点でパーティメンバーに関する情報はほぼ無いため、こうした会話の内容から彼らの人となりを垣間見るつくりになっている。

この構造は、特殊な物語下における感情移入のケアだけでなく、攻略に関係の無さそうな部屋でもつい調べたくなるというモチベーションにも繋がっており、かなり丁寧に作られていると感じた。

ちなみに、既に聞いた会話はYボタンを押し続けて“うわの空になる”ことでスキップも可能。重要な変化のある会話は自動でスキップが解除されるが、細かい変化を聞き逃してしまうこともある、という曖昧さがどこかリアルでユニークな機能だ。

戦闘では、“哀し身”と呼ばれる存在と戦うことになる。アクティブタイムで進行する戦闘のベースとなるのは“じゃんけん”だ。パーティメンバーはグー・チョキ・パーの属性を持っており、通常攻撃とは別に“クラフト”と呼ばれるスキルも使用可能。ミラベルは回復系のクラフト、オディールは全属性のクラフトを扱えるなど、メンバーごとに特徴も異なる。

面白いのは、哀し身の属性を姿かたちから予測できる点。手の形などをよく観察すれば、初見の敵でも有利に戦うことができるだろう。

また、同じ属性の攻撃を繰り出し続け、同じマークを5つ揃えることで“ジャックポットスキル”が発動。強力な全体攻撃に加え、パーティメンバー全員のHPを回復するため、一発逆転も狙える。

3つの属性と相性、強力な特殊スキルと、バトルシステムは比較的オーソドックスな印象だが、自分のターンを他の仲間に渡すクラフトなど、ある程度の戦略性も確保されている。ただ、ジャックポットスキルがとてつもなく強力なので、ひたすらこれを狙っていく戦法になりがちなのは事実だ。

ジャックポットスキルは、仲間がダウンしていても発動できる上、復活効果も付いている。

タイムループを活かして順調に館を進んでいき、仲間との会話は程々に聞き流し、戦闘も卒なくこなしていくシフラン。しかしながら、ゴールの見えないループを重ねるにつれ、その心は次第に摩耗していく。

館にある物やギミックはほとんど見知ったものに、仲間との会話は聞き流すのすら苦しいノイズに、戦闘は退屈な作業に……全てがタイムループという現象に呑まれ、そして何事も無かったかのように繰り返される。全能感すら覚えていた一連の出来事は苦痛へと置き換わっていき、それが永遠に続くかもしれないと悟った時、シフランはどうなってしまうのか? 終盤では、その過程が生々しくも丁寧に描かれ、ここからが本番と言わんばかりにプレイヤーを引き込んでいく。

タイムループ系の作品はゲーム以外でも数多くあるが、本作はゲームであること、“過程”がものをいう媒体であるということを、十二分に活かしていると言える。プレイヤーはシフランとなり、繰り返すタイムループの数々をそのまま経験することになるからだ。

見知ったギミックを死んだ目で解き続け、Yボタンで既知の情報をスキップしながら、退屈な戦闘をしぶしぶこなす……プレイヤーが抱く苦痛は、いつしかシフランと完全にリンクし、感情移入を超えた繋がりを感じさせる。やや単調な戦闘やBGMも、このための布石なのではないかとすら思えてくるほどだ。

ただ、タイムループ系ゲームには欠点もある。それは“遊び”として見てしまった時、同じことを繰り返すのは単純に退屈であるという点。身も蓋もないが、ゲームである以上、避けては通れない課題だ。この欠点を解消するには、そんな視点に(少なくともプレイ中は)一時もさせないほど没入させるしかない。そして、本作はその点に関して最も優れていると言える。

キャッチ―なデザインや丁寧に作られた会話など、ゲーム全体が没入感を支えているのは言うまでもないが、大きな柱となっているのは、シフランの心理描写の細やかさだ。

仲間たちの会話にシフランが反応する場面では、多くの場合、括弧書きの心情と実際に話すセリフとが分かれている。仲間とすれ違ったほんの一瞬でさえ胸中が垣間見え、1人になる場面では抑えきれなくなった気持ちが溢れてしまう。

時に苛立ちがピークに達し、大切な仲間たちに当たってしまったり、そんなシフランの不調を感じ取り、何も知らずとも相談に乗ってくれる彼らの優しさに、どうしようもない罪悪感と悲しみを覚えたり……膨大な感情の奔流は、シフランとリンクしたプレイヤーだからこそ共感できるものであり、のめり込まずにはいられないのだ。

とりわけ終盤は、遊ぶものとして面白いかという疑念と、シフランをどうにかゴールへたどり着かせたいという想いが常にぶつかり合うが、こうした極めて繊細な心理描写によって、後者が勝る状態を保っているのだ。

そもそも繰り返しの要素をはらむゲームという媒体とタイムループは、相性自体は悪くないと言える。だが、主人公や仲間たちに少しでも無機質さを感じたら、退屈さに耐えかねてプレイをやめてしまっていただろう。

最高の仲間たちは、シフランだけでなくプレイヤーも支えてくれる存在となっていく。

本作をクリアし、「ようやく終わった……」とこぼれた一言。それは紛れもなく、同じことを何度も何度も繰り返した疲労感からこぼれた素朴な所感だ。しかしながら、それはシフランの経験そのもの。“過程”を追体験するタイムループRPGとして、傑作と言うほかない。永遠の二日間の先に待つものは、絶望か希望か。ぜひ自らの目で確かめて欲しい。

(C) Adrienne Bazir 2023


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