ブラジルも「新時代」だ。新規定導入で2025年よりSCBもSUV化『トヨタ・カローラクロス』参戦へ

 今週末の12月15~17日にサンパウロのアウトドローモ・デ・インテルラゴスで開催される最終戦『スーパーファイナルBRB』では7名のタイトル候補が45回目のチャンピオン決定戦に挑む、ブラジルを代表するハコ車選手権SCBストックカー・ブラジル“プロ・シリーズ”が、今後導入を予定する車両規定コンセプトにおける重要な変更を発表。

 革新的なデザインの車両がデビューする2025年以降、使用されるベースモデルを「セダンではなくSUVにスイッチする」とし、現在参戦しているトヨタとシボレーの2社は、それぞれ『トヨタ・カローラクロス』と『シボレー・トラッカー』を投入すると明かした。

 前戦では42歳のフェリペ・マッサ(ルブラックス・ポディウム/シボレー・クルーズ)が覚醒し、待望のストックカー初勝利をマークしたシリーズは、王者ルーベンス・バリチェロ(モービルエール・フルタイム/トヨタ・カローラ)を含め、2023年も緊迫のタイトル戦線が続いてきた。

 そんななか、この8月にはシリーズの将来を占う上で重要な規約変更もアナウンスされており、1979年創設のブラジルを代表する“ティントップ”選手権は、歴史と伝統を築いてきたV8エンジンに別れを告げ、革新的な双方向通信機能も搭載する次世代テクニカルレギュレーションを公開していた。

 そのアナウンスに際し、同国の「モータースポーツにおける新たな章が進行中」と宣言された新車両規定『Audace SNG01』は、南米大陸のモータースポーツ史で「これまでに考えられたもっとも現代的なレーシングカーを構成する」という意気込みで溢れており、車体にはクアルコム社製CPUのスナップドラゴンによる高速5G対応の通信機能が備わるほか、世界最大級の鉄鋼メーカーであるアルセロール・ミッタル社製の鋼管パイプフレームを採用した新設計シャシーに、こちらも新開発の直列4気筒2.1リッターのターボエンジンを搭載する。

「市場の動向、自動車メーカーとの対話、ファンへの調査を加えた結果、2025年に向けて我々が実行するこの動きは、ストックカーのコミュニティとモータースポーツ全体の願望を100パーセント一致させる判断になると結論付けた」と語るのは、シリーズを運営するVicarのCEOであるフェルナンド・ジュリアネッリ。

 ブラジル全国自動車製造者協会(ANFAVEA)が12月7日に発表した報告書によると、同国でもSUVは販売台数を伸ばし続けており、2023年に南米市場に投入された新車のすでに42%を占めている(セダンは12.4%)。またVicarが委託した調査でも「熱狂的、または標準的」なファンにおけるSUVへの変更は高い支持を得ており、それぞれ77%と54%の賛同が得られたという。

「多くの肯定的な点があり、このカテゴリーにおける一般の人々、ドライバー、投資家の各方面での高い受容性に非常に驚いたよ。ストックカーの健康寿命を保証するには正しい方向だと考えている」と続けたジュリアネッリCEO。

新車両規定『Audace SNG01』に適用された『トヨタ・カローラクロス』のレンダリングイメージ
新車両規定『Audace SNG01』に適用された『シボレー・トラッカー』のレンダリングイメージ
隣国アルゼンチンのTC2000では、来季2024年の実戦投入に向け小型クーペSUV『VW Nivus SUV(フォルクスワーゲン・ニーヴァス)』が走行テストを繰り返している

■拮抗しているパフォーマンスバランスへの影響は?

 すでにお隣の国アルゼンチンでは、地元法人のファクトリー支援で参戦するトヨタ、ホンダ、ルノー、シボレー、そしてフィアットらを筆頭に“SUVへのスイッチ”がひと足早く進行しており、来季2024年の実戦投入に向け小型クーペSUV『フォルクスワーゲン・ニーヴァスSUV』こと“プロトタイプ001”が走行テストを繰り返している。

「我々も、このストックカーが発表した新たな段階に興奮している。TOYOTA GAZOO Racingはチャンピオンシップに関わる競合や他ブランドの動向を問わず、つねにストックカーでの勝利を目指し、限界を超えてさらなる飛躍を目指す戦略を貫いていく」と語るのは、TGRブラジルの活動を統括するプロジェクトリーダーのダニエル・グレスパン。

「我々TGRの考え方は、ブラジルのモータースポーツを奨励し、WEC世界耐久選手権、WRC世界ラリー選手権、そしてダカールラリーなど、現チャンピオンチームであるTOYOTA GAZOO Racingの勝利のDNAを持ち込むことで、このカテゴリーとともに前進し続けることにある」

 シリーズ傘下の技術部門であるアウダーチェテック社によって車体とボディも開発されることになり、今回の発表とともにレンダリングのイメージも公開されている。

「これらは真にインスピレーションを与えるデザインだ。それを見て“ランウェイ”を想像してみて欲しい。この外観は、まさにレースの血統を持つ2台のサラブレッドカーを示唆している」と語るのは、同社のCEOであるエンツォ・ボルトレット。

「技術面での最大の課題は空気力学的イコライゼーションだが、これはすでに進行中であり、すでに非常に心強い結果を示している。我々は、わずか0.5秒の差で最大30台の車両が予選を争うストックカーの印象的なバランスを維持できると確信しており、この素晴らしい指標は今後も維持されるだろう」

 長い歴史のなかで「5つのマニュファクチャラーにより、11の車種が参戦してきた」SCBだが、前出のジュリアネッリCEOは「今日、我々が共有するニュースは、この週末にトヨタとシボレーがマニュファクチャラーズタイトルを争う2023年シーズンの最終段階を迎えるという非常に特別な時期に伝えられる」と、それぞれ勝利数11で並ぶ両社を念頭に締め括られた。

「このスコアは我々が到達したバランスを象徴しており、最終戦でも勝利を分け合えば最後にふたつのブランドが同点という壮絶な偉業を記録することになる」と続けたジュリアネッリCEO。

「新規車種と他のいくつかの分野での開発により、競争力、象徴性、そしてドライバーたちの勝負が、ブラジル国内外の何百万ものファンを魅了し、喜ばせるというこのシナリオを継続していくつもりだ」

新車両規定『Audace SNG01』では、こちらも新開発の直列4気筒2.1リッターのターボエンジンを搭載する
Qualcomm(クアルコム)社製CPUの”Snapdragon”による高速5G対応の通信機能が備わり、レース中にも360°カムなどのリアルタイム配信を目指す
2023年最終戦を前に勝利数11で並ぶ両社。「技術面での最大の課題は空気力学的イコライゼーションだが、これはすでに進行中であり、すでに非常に心強い結果を示している」と関係者も自信を示す

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