F1から全面的なサポート受ける『F1アカデミー』。Wシリーズが抱えた課題をクリア、若手女性ドライバー支援に注力

 F1にまで至るすべてのモータースポーツは、男性と女性が直接対戦する数少ないスポーツのひとつだ。しかし1950年に世界選手権が始まって以来、少なくとも1回のグランプリに出場した経験のあるドライバーは800人近くいるが、女性はふたりだけだ。3人の女性がグランプリの予選に挑戦したが、決勝には進出できなかった。

 マリア・テレーザ・デ・フィリッピスは、F1に参戦した初めての女性となった。当時31歳だったデ・フィリッピスは、1958年に一族の財産の一部を当時最高のF1マシンだったマセラティ250Fに投資した。彼女はベルギーGPを10位でフィニッシュし、ホームトラックであるモンツァでは入賞に近づいたが、マセラティのエンジンはフィニッシュラインの直前で故障してしまった。その一方でこの年、彼女はフランスGPの参戦を認められなかった。「女性が被るべき唯一のヘルメットは、美容院のものだけだ」と言われたのだ(発言はレースディレクターのトト・ロッシュによるもの)。

 F1に参戦したもうひとりの女性ドライバーはレラ・ロンバルディだ。1974年から76年にかけて、ロンバルディはグランプリの週末に17回参戦した。ロンバルディは1975年はマーチからほぼ全戦に出場し、スペインGPでは6位につけた。

 決勝に出場することが敵わなかったのは、ディビナ・ガリカ、デジレ・ウィルソン、ジョバンナ・アマティの3人だ。イギリス出身のガリカは、アルペンスキーのダウンヒルでスポーツのキャリアを始め、1964年(インスブルック)、1968年(グルノーブル)、1972年(札幌)の冬季オリンピックに出場した後にモーターレースに参入した。ガリカはプライベーターのサーティースから1976年イギリスGPの予選に出たが決勝進出はならず、1978年にヘスケスから挑戦したアルゼンチンGPとブラジルGPの予選も通過できなかった。

 ウィルソンは南アフリカ出身で、1980年イギリスF1選手権の第2戦で優勝し、F1レースで優勝した唯一の女性となった。その年の後半、彼女はプライベーターのウイリアムズからF1イギリスGPの予選に出たが敗退した。また非選手権の1981年南アフリカGPにもティレルから参戦した。

 そしてアマティは、ブラバムで1992年シーズンをスタートしたが、最初の3戦で予選落ちに終わり、デイモン・ヒルと交代させられた。

 直近でF1の公式フリー走行セッションに参加した女性はスージー・ウォルフだ。2012年から2015年にかけて、スージーはウイリアムズの開発ドライバーを務め、2014年と15年に合計で4回FP1に参加した。2011年に、当時のウイリアムズの共同オーナーで現メルセデスF1チーム代表のトト・ウォルフと結婚したスージーは、現在女性F1ドライバーを生み出すための最も野心的な試みとなっているF1アカデミーを率いている。

2015年F1第9戦イギリスGPフリー走行1回目 スージー・ウォルフ(ウイリアムズ 開発ドライバー)

 F1はF1アカデミーを全面的にサポートしている。2024年のレースはすべてF1と併催で行われることになっており、F1の全10チームはこのシリーズのドライバーをひとり指名し、サポートしなければならない。これまでにマクラーレン(ビアンカ・ブスタマンテ/18歳)、アストンマーティン(ティナ・ハウスマン/17歳)、アルピーヌ(アビー・プリング/20歳)、ウイリアムズ(リア・ブロック/17歳)が来シーズンに向けてドライバーを指名している。

 F4マシンによるF1アカデミーは、Wシリーズに代わる女性のための国際レースシリーズだ。2019年に始まったWシリーズは、2020年にコロナ禍で中断を余儀なくされたが、2021年と2022年シーズンは開催。F3タイプのマシンを使用するこのチャンピオンシップは、数多くのF1グランプリのサポートプログラムとなっていた。イギリス出身のジェイミー・チャドウィックは、開催された3シーズンすべてでチャンピオンに輝き、現在は開発ドライバーとしてウイリアムズと関わりを持っており、来年はアンドレッティ・グローバルからインディNXTシリーズに参戦する予定だ。なおWシリーズは2022年シーズン前に破産し、負債総額は約2500万ドル(約35億4700万円)だった。

2019年、2021年、2022年Wシリーズチャンピオンのジェイミー・チャドウィック

 Wシリーズは女性F1ドライバーを輩出することができなかったが、ドライバーの年齢が高すぎるという大きな問題があった。チャドウィックは2022年にタイトルを獲得した時点で24歳であり、彼女の直近のライバルであるベイスク・フィッセール(オランダ)は27歳、アリス・パウエル(イギリス)は29歳だった。性別に関係なく、20代半ばから後半でいまだF3レベルにいるということは、F1の可能性はないということだ。

 2023年に初シーズンを終えた新たなF1アカデミーシリーズでは、平均年齢は低くなっている。より若い女性を獲得するために、F1アカデミーは比較的安価で新しいゴーカートシリーズ『Champions of the Future』と提携した。ここでF1アカデミーは最速の少女たちをサポートし、2024年のチャンピオンシップでトップ3に入ったドライバーは、アカデミーのマシンでテストを受けることになる。

マクラーレンのドライバー育成プログラムに加入したフィリピン人の女性ドライバー、ビアンカ・ブスタマンテ
故ケン・ブロックの娘リア・ブロック

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