高齢施設での面会、徐々に緩和 新型コロナ5類移行後 専門家「感染防止と面会ニーズの両立を」

特別養護老人ホームの利用者(右)と面会する家族=水戸市内

新型コロナウイルス感染症の5類移行後、高齢者施設でも面会の制限緩和が徐々に進む。ただ、感染の恐れが解消されたわけではなく、今季は茨城県内全域でインフルエンザも警報レベルに達するなど感染そのものや重症化の懸念は消えない。感染防止策と、高齢者や家族のニーズの両立が求められる。

■もどかしさ

「何か不便なことはないかい」「大丈夫。孫はどうしたろう」

11月下旬、水戸市開江の特別養護老人ホーム「双葉陽だまり館」(木村哲之施設長)の玄関近くのロビーで、施設を利用する高齢女性と、その夫や長男ら家族が顔を合わせて会話を楽しんでいた。

面会は予約が必要で、場所はロビーに限定、15分という制限がある。コロナ禍前は利用者の個室で、予約は不要、時間の制限もなかった。コロナ禍で一時は面会を許されなかった。感染者数の減少に伴い、建物内外での窓越し、室内でのアクリル板越しと徐々に緩和され、現在は直接の対面も可能になった。

対面できなかった当時について、長男は「仕方ないと頭では理解しても、もどかしさがあった」と振り返り、「今は表情がよく見える」とうれしそうに話す。

元通りの面会スタイルを望むものの、コロナ感染の恐れが解消されたわけではない。「こらえて乗り切るしかない」と一定の制限もやむを得ないとする。

■一定の制限

新型コロナが5月、5類に移行して以降、高齢施設での一定の制限緩和は、県老人福祉施設協議会の調査でも示された。昨年9月と今年10月、加盟する約300施設を対象に調査。約4割に当たる119施設から回答が寄せられた(複数回答可)。

調査によると、居室以外の屋内で面会している施設は、昨年9月は11%だったが、今年10月は5倍超の58%に増加。居室での面会も2%から24%まで戻った。一方、オンラインによる面会は61%から半分以下の28%に減少。窓越しも55%から28%に半減した。

面会時間の制限は「10~15分以内」が依然多く、77%から72%と大きな変化は見られなかった。

外出のほか、ボランティアの人を施設に招く行事などの緩和も見られた。「イベントを自粛している」と答えた施設は87%から46%まで減少した。

同協議会の菊池義会長は「感染防止徹底の緊張感は維持しつつ、利用者や家族の尊厳を守るためにも制限を緩和している」と説明する。ただ、感染症がなくなったわけではなく、「完全に元の状態に戻すのは現時点で難しい」と話す。

■気持ちの安定

コロナ禍での高齢者施設の制限について、茨城キリスト教大の富樫ひとみ教授(福祉心理学)は「当初は致死率や重症化率が高いとされ、命を守る適切な対応だった」と評価する。

利用者への影響については「体力低下や孤独感、尊厳の傷つき、自己喪失感などを高め、生きる楽しさが減った可能性がある」と分析。職員についても、施設内の感染防止、自身や家族の健康管理に神経を使う日が続き「大きなストレスになった」とみる。

緩和の流れを歓迎しながらも、感染力の高さや合併症・後遺症のリスクを踏まえ、「命と健康を守ることと、利用者や家族のニーズの両立を考えていく姿勢が大事」と指摘する。

施設を利用する高齢者の多くは、オンライン面会でも気持ちの安定が得られていたとして、日常的なICT(専門技術)やAI(人工知能)の利活用にも期待を寄せる。

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