【ベトナム】半導体関連の優遇税制を維持[経済] 首相、日本企業に投資求める

会合に先立ち日本の半導体企業首脳と握手を交わすファム・ミン・チン首相=右(ベトナム政府公式サイトから)

ベトナムのファム・ミン・チン首相は16日、東京都内で日本の半導体関連企業の幹部との会合に出席し、半導体分野におけるベトナムへの大型投資を要請した。関連企業に対する税制、土地利用における優遇策を継続すると表明し、半導体を政府の産業政策の中心に位置付け、振興を図っていく方針を示した。

チン首相との会合に参加したのは、ルネサスエレクトロニクス、デンソー、ラピダス、東京エレクトロン、SBIホールディングスなど半導体のメーカーや投資会社などの首脳。会合はベトナム計画投資省と在日ベトナム大使館が主催した。

首相は日本企業の首脳に対して、ベトナムは半導体業界の発展をグローバル・サプライチェーン(供給網)に参画していく突破口にしたいと説明。「この分野における日本の大企業には、ベトナムで半導体のエコシステム(生態系)を構築するため、投資の拡大をお願いしたい」と述べ、(1)設計(2)半導体チップ製造(3)パッケージングとテスト工程——の製造・開発拠点の設置を要請した。ベトナムと日本が先月末に合意した両国の外交関係格上げを「半導体分野で促進・具体化し、実のある中身にしましょう」と呼びかけ、半導体をてこにした日越協力の具体化に強いこだわりを見せた。

日本の半導体業界は1990年代以降、韓国や台湾メーカーが相次ぎ投資を拡大する中で逆に事業を縮小し、両国のファウンドリー(受託製造)企業や、開発・設計を得意とする米国のファブレスメーカーなどに対して技術面で10年以上遅れたとされている。人工知能(AI)や電気自動車(EV)の普及で半導体の戦略的な重要性は一層高まっており、経済産業省の後押しで業界の再強化が進められている。

チン氏はこの分野における税制、土地などの優遇政策は維持していくと説明し、国際最低税率課税(グローバルミニマム課税)制度を導入する2024年以降も同分野は標準税率(法人税率20%)の例外とする方針を明言。さらに「ベトナムは平和で安定した事業環境を今後も維持し、独立、主権、領土の一体性や政治・経済の安定性を守っていく」と述べた。半導体業界の中には、戦略物資の開発・製造拠点を米国と対立する中国やその友好国に置くことを不安視する声があることを意識し、安心させる発言とみられる。

日本の半導体業界では、日立製作所、NEC、三菱電機の3社が半導体事業を切り離して設立したルネサスエレクトロニクスが南部ホーチミン市に開発・設計拠点を置いている。最近では、米半導体大手のエヌビディアがベトナムで開発拠点の設置に意欲をみせるなど、米半導体業界に対ベトナム投資を活発化させる動きがある。

■推進14事業にブロックBガス田開発など

チン首相の今回の訪日は日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)の関係構築50周年の首脳会合出席が主な目的だったが、チン氏は岸田文雄首相と約20分間、個別に会談したほか、ベトナム事業を拡大する日本の経済界などとの会合に積極的に出席し、ベトナム経済の発展に協力を呼びかけた。

岸田氏との会談で、チン氏はベトナムが計画中の南北高速鉄道や、都市鉄道などの交通インフラ、工業団地、エネルギー転換、デジタル化、医療・衛生分野に対する次世代型政府開発援助(ODA)の供与を再度要請。ベトナム企業が自動車製造、電子、医療機器、繊維などの分野における日本企業のグローバルサプライチェーンに加われるよう支援を求めた。ベトナム人入国者に対するビザ(査証)発給条件の緩和やビザ免除についても重ねて要請した。

岸田氏は、日本は今後もベトナムの工業化・現代化と自立した経済を確立するための支援を続けていくと強調。日本が経済成長と脱炭素の両立などを目指して設立した「アジア・ゼロエミッション共同体」(AZEC)を通じて、ベトナムのエネルギー転換と温室効果ガスの排出削減に協力していくと表明した。

会談では、ベトナムのボー・バン・トゥオン国家主席と岸田首相の間で合意した両国関係の「包括的戦略パートナーシップ」への格上げを踏まえ、関係をさらに深めるため「交通・運輸」「持続可能なエネルギー開発」などの分野の14事業を促進すべき取り組みと明記した。

14事業の中には、出光興産などが出資するニソン製油所(北中部タインホア省)事業や、三井物産の子会社三井石油開発などが参画するブロックBガス田(南部キエンザン省沖)と丸紅などが参加するオモン火力発電事業(南部カントー市)などが含まれた。

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