長崎和牛、危機直面 子牛価格低迷、餌代高止まり…肉用牛農家「支援を」

牛舎で牛の様子を見る石井取締役=平戸市田平町、石井牧場

 長崎県の肉用牛畜産は産出額265億円(2021年)で、農業産出額部門別1位を誇る基幹品目だが、餌代の高止まりと子牛競り価格の下落で、繁殖農家は苦境に立つ。物価高騰による牛肉消費の低迷も重なり、肥育農家も含めて、本県肉用牛農家はかつてない危機に直面している。
 平戸市田平町の石井牧場は毎月約10頭の子牛を競り市に出す。石井慶彦取締役(38)は「販売額は全盛期の約4割減。赤字の子牛を出荷している」と語る。餌の牧草を自給に転換するなど費用を抑えて対応するが「悪循環が続くとどうしようもない」と肩を落とす。
 子牛価格の低迷は全国的な現象ではあるが、特に本県は下落幅が大きい。県によると、「繁殖牛が多いことが影響している」。繁殖農家は子牛を育成して市場へ出す。その子牛を肥育農家が仕入れ、育てて出荷するが、牛肉の消費量が減ると枝肉価格が下がり、肥育農家の収入が減る。仕入れ値を抑えるために子牛の購入費を下げ、繁殖農家にしわ寄せが来る。本県は繁殖牛が肥育牛の約1.35倍(昨年度)と多く、「下がり出すと一気に下がる」という。
 生産者の減収を補塡(ほてん)する国の「和子牛生産者臨時経営支援事業」にも波及する。補塡額は九州・沖縄ブロックの平均額を基準に計算されるが、鹿児島や宮崎など他県と比べて、下落幅が大きい本県は減額分に届かないという。生産者は基準の見直しを国に働きかけるよう、県や国会議員に要請してきた。
 解決策の一つが消費量アップ。JA全農は11月下旬、和牛応援団長に芸人「なかやまきんに君」を起用し、全国的に和牛消費喚起キャンペーンを実施。県やJAなどでつくる長崎和牛銘柄推進協議会も抽選で長崎和牛が当たる「長崎和牛を食べて応援キャンペーン」(17日まで)、割安価格で食べられる「長崎和牛パスポートデジタルクーポン」(来年3月31日まで)などを展開中。同協議会は「家庭や外食の消費を増やして生産者の支援につなげたい」としている。

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