「自由すぎる不自由」も。夏樹陽子さん流“70代の一人暮らし”の楽しみ方

「昭和のまんまの人にはなりたくない。今の時代に迎合する必要はないけど、“のぞく”ことはすべきだと思います」と夏樹さん(撮影:加治屋誠)

人生100年時代を生きる女性にとって、70歳はまだまだ遅くない“人生の転換点”。それまで家事や仕事や子育てに追われ、夫婦関係に悩んできた人が「自分のために生きる」道を選ぶチャンスでもあります。ここでは、「ひとり暮らし」という生き方を選び、自らの人生を謳歌する夏樹陽子さんにインタビュー。その実情を教えてもらいました。

昨秋、芸能生活45周年を迎えた夏樹陽子さん(71)。2度の結婚・離婚を経験した夏樹さんのひとり暮らし歴は25年以上に。仕事で大勢の人に会うことが多いため、家ではひとりでいるほうが気楽だという。

「たとえば結婚となると、自分だけではなく、相手の人生も背負うことになりますよね。楽しいことも倍になれば、逆のことも倍になる。その覚悟やエネルギーがもうないというのが本音です。ひとり暮らしですが、友人や愛犬たちがいますし、楽しく暮らしています」

何をするにも自由であるひとりの時間を満喫しつつも、「自由すぎる不自由」を感じることも。

「私は本来、なまけものなので、自由すぎるとメリハリがなくなってしまうところがあるんです。だからどこかで自分を戒めておきたいというのがありますね。今は、4匹の犬と暮らしているので、『ご飯をあげる』『散歩に行く』という、いい意味での不自由さが、生活のメリハリになっています」

2020年にやってきた愛犬のマカロン(3歳)が、昨年春に5匹の子どもを出産。3匹は“里子”に出し、現在は残った2匹の子どもと、先住犬のドロップ(17歳)の計4匹と暮らしている。

「毎日にぎやかですよ。出産については、マカロンがあまりにもかわいくて家族を増やしたいと思ったのがきっかけですが、少しでも母親の気持ちがわかるのかな、という思いもあったかもしれません。子育ての経験がないので、今ごろ楽しんでいるような感じですね」

1日のスケジュールは、睡眠を7時間とることから逆算するが、その日によって異なるという。

「たとえばコンサートが14時開演だとすると、準備などを考えて7時には起きたい。7時間眠ろうと思ったら12時前には寝たい。じゃあ、お風呂の準備を23時くらいに、夕食は19時に……と逆算していく感じですね。休みの日は夜中の3時くらいまで韓流ドラマを16話一気に見たり、好きな映画を再視聴したり。最近はユーチューブの健康番組を見ています」

■新しい世界を開くことが認知症予防にも

女優や歌手だけでなく宝石デザイナーとしても活躍。国際C級ライセンスや美容薬学検定1級を取得するなど、活動は多岐にわたる。

2021年9月には、公式ユーチューブチャンネル「ようこそ!陽子TIME」を開設。当初は美容や健康について発信していたが、愛車のフェラーリを紹介すると再生回数が急増した。「“バズった”のでフェラーリの動画が増えました」と笑うが、新しいことに挑戦できる原動力はどこにあるのだろう。

「常に、『今の時代に生きている』ということを忘れないよう意識しています。昭和の時代に生きたからって、スマートフォンに触れない、若い人と付き合わない、街に出ない……など、頭から否定するようなことはしたくなくて。ただ、私も『完全に時代が違うな』と思うことだってあります。それでも、今の時代を知りたいと思うので、『のぞく』ことはしていきたいですね」

スマホとiPadを連携して、買い物やホテルの予約をするなど使いこなす。得意なのか尋ねると、

「本当は苦手です(笑)。でも、苦手なことに挑戦すると、ふだん使っていない頭を使うので認知症の予防にもいいと思うんですよね。新しいことを始めるには毎回、大決心がいりますが、ネットのお得な情報を知ることができるなど、新しい世界が開かれていきます」

■健康でいるためにネガティブ要素は手放す

ひとり暮らしを楽しむために心がけているのは「健康でいること」。

「そのためには、食事、睡眠、精神的に穏やかでいることが大事です。

食事については、野菜、果物、タンパク質をしっかり摂ることを意識しています。冷蔵庫に常備しているのは小松菜、にんじん、ブロッコリー、アボカド、納豆、豆腐。野菜をグリーンスムージーにしていましたが、青虫になるような気がしてきちゃって(笑)。今はフルーツスムージーに。家では和食中心の自炊でお米も食べています」

精神面を保つポイントは、付き合う人をしっかり自分で選ぶこと。

「『病いは気から』といいますし、自分もなるべくネガティブな言葉を使わず、そういうことばかり言う人とは付き合わない。自分が整っていないときにマイナスなことばかり言われたらまいってしまうでしょ。相手を肯定することも大事ですよね。何か相談したときに、『それはあなたが悪いわね』なんて言われたら、たとえそうだとしても余計に落ち込んじゃいますから。私にも、何があっても絶対に肯定してくれる友人がいます」

大切な友人もいて、ひとり暮らしではあるが、孤独ではない。

「暮らしているのはひとり。でもひとりじゃないでしょ。素の自分を出せる人が、ひとりでもふたりでもいればいいじゃないですか。連絡だって1年に1回でもいい。自分に合う人や、思い出してくれる人を大切にしていきたいですね」

(取材・文:金子弥生)

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