「まさかこの場所で」豪雨災害の地にメガソーラー 規制の限界、計画撤回には至らず

木津川市山城町神童子のメガソーラー計画地。奥に見える山から東側一帯を開発するという

 大規模太陽光発電所(メガソーラー)が京都府南部の山間部で稼働したり、立地計画が持ち上がったりしている。メガソーラーは再生可能エネルギーの普及に期待される一方、1953(昭和28)年8月の南山城水害の豪雨で大規模な土砂災害が発生した地域だけに、防災面から不安を訴える住民が少なくない。条例などの規制に不備はないのか。

 「まさかこの場所で」―。メガソーラーの建設計画が木津川市山城町神童子(じんどうじ)で浮上したのは2018年。民間業者が約48ヘクタールの山地を造成し、太陽光パネルを設置するという。区長だった一庵義彦さん(76)の頭をよぎったのは南山城水害だ。

 一帯の山地は花こう岩地質で、風化するともろくなる。計画地そばの鳴子川に土石流が流れ込み、堤防が決壊、犠牲者を出した。

 メガソーラーができれば山の保水力は落ち、地滑りや陥没が起こりかねない。下流域の南平尾、北河原地区も含む住民が中心となり反対運動を展開した。「災害を繰り返してはならない。地域全体の問題だ」と南平尾区の西嶋美奇穂区長(76)は話す。

 業者側は計画をいったん、白紙撤回した。さらに住民の意向に沿う形で、市は20年、計画地を含む同町東部の山地など「抑制区域」では太陽光発電設備の設置に同意しない規制条例の制定に至った。

 だがその後、別の事業者が同じ場所で同様の計画を表明した。

協定は努力義務

 なぜ規制できないのか。森林を開発して太陽光発電設備を設置する場合、0.5ヘクタールを超える場合は森林法に基づく知事の許可が必要で、府は住民と開発業者の合意形成を目的とした条例を定めている。説明会開催や住民の意見書に対する見解書の提出といった手続きを業者に義務付ける。

 ただ、地元や自治体の理解を得るため指導はするが、自治会などとの協定締結は努力義務にとどまる。開発では雨水をためる調整池を設ける必要があり、府は高い基準を設けているが、一庵さんは「府の規制はぬるい。異常気象が言われる中、『これで完全』というものはない」と危惧(きぐ)する。

 北河原の元区長小西康雄さん(76)は、70年前の水害で同級生を亡くした。「被災体験者がいなくなれば、危険な計画を止める者がいなくなる」。悲劇の風化を懸念し、抜本的な規制を求める。

 開発の歯止めになると想定されるのが市条例。だが、事業者側は、条例の制定前に国の事業認定を受けており、条例の適用外だ、と主張してきた。事業者の「合同会社京都木津川」(東京)の代表は取材に、「計画は止まっている段階」としながら、撤回には至っていないと述べた。

自然エネ活用のため

 同じく70年前の水害で大きな被害が出た南山城村で今春、三重県伊賀市にまたがるメガソーラーが稼働した。敷地は約80ヘクタールに及ぶ。一部住民から反対の声もあったが、計画地周辺の4地区が事業者と安全協定を締結した上、立地に至った。

 「人の手が入らず、荒れ放題だった土地。放置する方が環境破壊につながる面もある」。近くに住み、元村幹部として計画の経過を知る山村幸裕さん(66)は実情を語る。住民を納得させるだけの行程が必要、と断った上で「原子力発電に代わる自然エネルギーの活用も大切だ」と理解を示す。

 世界的な「脱炭素」の流れもあり、国は再生可能エネルギーの普及を進める。府南部の事例は、地方の山間部が好適地として開発の波にさらされる現状を浮き彫りにしている。

 環境エネルギー政策研究所(東京)の山下紀明主任研究員は、地域とのトラブルでは自然災害への懸念によるものが多いとし、「山林でのプロジェクトは禁止としていいのではないか」とする。その上で抑制区域と促進区域のゾーニングに自治体が取り組む重要性を挙げ、「過去の災害の歴史や文脈など、地域に応じた規制と促進の制度が両輪で必要だ」と指摘した。

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