「そばで世界を健康に」地元日本酒とのマッチングで挑む神戸の〝職人〟の挑戦

国際的に健康志向が高まり続ける昨今にあって、日本の伝統食・そばで世界に健康を広めようと活動を続けているのが、東京と神戸で5店舗のそば店を経営する後藤雄一氏だ。今年8月には、東京駅・大手町駅に隣接する大型商業ビル「iiyo‼」内に「スタンド JAPA SOBA HANAKO 丸の内店」をオープン。早くも人気店として話題となっている。

数ある日本食の中でも、そばは特に健康効果が高いことで知られている。とりわけ、特有のポリフェノール「ルチン」は、毛細血管の働きを整えて血行を促進し、高血圧の抑制などに効果があるとされている。さらにタンパク質や、疲労回復効果が高いビタミンB1、B2も、米や小麦粉といった他の主食の2~3倍含まれている。

そば粉は100㌘あたり糖質が約75㌘と、米や小麦粉よりも糖質量は多い。だが、糖の吸収度合いを表すGI(グリセミック・インデックス)値は54~55。ブドウ糖を100として食パン95、白米90、うどん85といった他の主食に比べて圧倒的に数値が低く、吸収が穏やかなため太りにくいとされている。

こうした健康効果に着目した後藤氏は、「そばで世界を健康に、幸せにしたい」という思いから、世界に蕎麦を広めるには、世界の流行の発信地である米ニューヨークで挑戦したいと視察に渡ったが、スケールの違いに、戸惑った。その矢先に東京五輪の開催が決まり、世界の人々が東京に来るなら、まずは東京で外国人に受け入れられるそばを食べてもらいたいと考え、恵比寿に「EBISU FRY BAR」をオープン。若者を中心に絶大な支持を集めた。

後藤氏は特に、グルテンフリーの十割そばに強いこだわりを持つ。現在は青森と秋田の県境にある十和田湖周辺で収穫されたそばを使用。つなぎを用いない十割そばは麺の状態をコントロールすることが難しいが、料理研究家・土井勝氏の長男に「十割そばを職人なしで作れる機械がある」と紹介された機械で課題を克服。安定した供給を可能にした。

さらにこだわりの一つが、自身の地元・兵庫が生んだ日本酒「灘五郷の酒」とのコラボレーションだ。「恥ずかしながら、神戸とか芦屋に住んでおきながら、灘五郷については詳しく知らなかった」という後藤氏。東京に出店後、老舗蕎麦店の関係者と交流する中で、江戸時代の飲み屋は基本的にそば店であり、そこには灘五郷の酒を置くのが標準だったと教わったことで、自店でのコラボを強く意識したという。

「スタンド JAPA SOBA HANAKO 丸の内店」には、菊正宗、剣菱、白鷹、福寿など、灘五郷の銘酒が数多くそろう。日本酒も海外での評価が高まる一方なだけに、そばとの〝同時輸出〟の効果にも期待しているという。

同店内には、江戸時代に関西から江戸へ酒を運んだ「樽廻船」の絵が飾られている。日本の居酒屋文化の礎となった樽廻船を、約300年の時を経た令和の現代に、海外への架け橋としてよみがえらせるのが、後藤氏の大きな夢だ。その第一歩として、世界各国への玄関口である東京の中心・丸の内に店舗を構えた。

かつての伝統を受け継ぎつつ、変革もいとわない。海外での需要を鑑み、サラダ仕立ての「そばボウル」の開発にも積極的に取り組んだ。「オリーブオイルとかドレッシングで食べるような形で、外国の方にまず食べてもらって、『日本のそばって、かっこいいよね』って言ってもらえれば、また逆に日本の若者にも入って来やすいと思うんです。寿司もそうで、『カリフォルニアロール』がまず世界に広がるきっかけになった。そばの世界でのかけそば、もりそばが握り寿司にあたるとすれば、僕らが挑戦してるのは、〝そば界のカリフォルニアロール〟なのかもしれませんね」と笑った。

(よろず~ニュース編集部)

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