【おんなの目】それではご機嫌よう

 今日はちょっと寂しい一日でした。

 長年の愛車を捨てました。私の愛車は自転車で、それを市の分け方にそって金属・小型家電製品の収集日に、指定の場所に捨てました。自転車は天馬ではなく、金属なんです。

 自転車に乗るとふらつくようになって、乗らなくなり三年。すぐに捨てられなくて別れづらくて、ベランダの隅に置いておきました。時々ハンドルを撫でて彼に乗って走った日のことを思い出したりしました。その未練の年月の間に自転車の後輪はパンクし、ペダルはギシギシと悲しい音を立てるようになりました。

 暑い夏が過ぎ、一気に押し寄せた冬が、私にこう言ったのです。「自転車を楽にさせてやりなさい、もう十分に彼は働いたではないですか、ここに置かれて時を過ごすことは彼には苦痛なのです。慢身創痍じゃないですか。埋葬してやらねばなりません。自分勝手な未練は捨てなさい。もう蜜月は去ったのです」。

 今日、動かない自転車を抱えて収集場所まで虚ろ覚えの般若心経を唱えながら持っていきました。そこには前輪がなく、ハンドルも曲がった銀色のママチャリがいました。陽気に鳩ぽっぽを歌っていました。私の愛車は頭を下げ、先客に挨拶をして静かに横に並びました。

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