“道路側溝用フタ”の盗難被害多発… “空いた穴”で事故が発生した場合「自治体」の責任はどこまで【弁護士が解説】

被害に遭い、グレーチングが欠損した状態の側溝(写真/東庄町役場提供)

関東エリアで自治体の盗難被害が相次いでいる。昨年から神奈川県、茨城県、千葉県などで、断続的に発生しており、とくに道路の側溝などに設置する金属製の格子状のふた「グレーチング」が大量に盗まれる事件が多発。自治体も対応に苦慮している。

「盗難があるたびに役場職員が確認し警察と現場立会いをしているため、本来の業務に遅れが生じています」

憔悴した顔でこう打ち明けるのは、千葉県東部にある東庄町役場まちづくり課建設係主事の菅谷恭輔氏だ。

5月からこれまでに約70枚の盗難被害

盗難が最初に発覚したのは2023年5月24日で、以降12月上旬までに計19か所で盗難があり、累計の被害枚数は約70枚。被害総額は90万円を超えているという。

町は応急処置として、盗難箇所に同サイズのコンクリート蓋を設置しているが、「盗難枚数が多く、発注の手間や予算についても危惧しています」(菅谷氏)と困り果てている。

事件の背景には金属の高騰があるという(yukiotoko / PIXTA)

この状況が続くことによる最大の懸念が、道路不備による事故の発生だ。菅谷氏が表情を曇らせる。「東庄町は車が必須の地域。ですので、脱輪等の被害を危惧しています」。町にはJR成田線が走っているが、移動手段はもっぱら自動車。町の重要なインフラの不備で市民が負傷するようなことがあれば一大事だ。

盗難でも町の責任は問われるのか

菅谷氏は万一の場合は、「担当部署としての見解は、道路瑕疵として町が責任を負ってしまうと考えています」と話す。では、法的にはどのような対応が考えられるのか。交通事故での実績も豊富な宮本健太弁護士は次のように見立てる。

「具体的な事故状況によるため、『側溝のない溝にはまり事故が生じた場合の過失割合』として抽象化して回答することは困難です」としたうえで、判例とともに解説した。

「事案がやや異なりますが、東京地判平成22年10月28日自保ジ第1839号は、原告が原付自転車を運転していたところ、市道上にあるマンホール部分が盛り上がっていたことからバランスを崩し転倒したという事案において、夜間暗い場所を走行していたこと、法定速度内で走行していたこと等を考慮し、原告に前方注意義務違反の過失はなかったとして、過失相殺を認めませんでした。

他方で、晴天下、遠方からでも明らかに側溝が無いことが分かる状況下で、かつ、あえて側溝側を走行する必要性もないのに漫然と側溝側を走行して事故が生じたというのであれば、運転手の過失は取られるでしょう」

交通ルールに則り、運転手に問題がない状況で事故が発生したのであれば、やはり、自治体側の責任が問われる可能性はゼロではないようだ。原因がたとえ盗難によるものだとしても、「これを認識しながら漫然と放置し続けていたというような場合は、自治体が責任を負う可能性はあります」と宮本弁護士は補足した。

盗難した犯人に何らかの責任を問えないのか。その点については、「ケースバイケースですが、一般論として、側溝を取り外せばそこにはまってしまう人が出てくることは当然に想定されますので、側溝にはまったことで損害が生じたのであれば、側溝を盗んだ人に対して、その行為と生じた損害との間に因果関係があるとして、賠償を請求できる可能性はあります」と余地があるとした。

警察との連携強化で対策も手掛かりなし

町としては現状、限られた予算の中で、「盗難を発見するたびに警察署へ被害届の提出をしています。また、近隣市町村でも盗難が確認されているようで、警察でもパトロールを強化していただいています」(菅谷氏)と被害阻止に最善を尽くしており、「不審な車両や人物を見かけた場合は、警察に連絡してください」と市民にも呼び掛けた。

グレーチングの盗難が相次ぐ背景には「昨今の金属価格の高騰によるものと考えております」と菅谷氏。隣の茨城県では、昨年9月から今年6月にかけてグレーチング714枚などが盗難され、被害総額は1000万円を超えたといい、”獲物”にするには悪くないシロモノのようだ。

東圧町での盗難犯はいまだ捕まっておらず、手がかりすらつかめていないというが、犯行は「深夜から朝方にかけて車で来ての犯行だと思われます。また、一度での盗難枚数が少ないため、車は普通車程度の大きさと考えています」と菅谷氏は明かした。

単なる窃盗ではなく、自治体に道路瑕疵という責任を負わせ、市民の安全を脅かし、町の予算を圧迫し、生活環境を乱す悪質極まりない行為。犯人がそこまでの重大性を認識しているとはとうてい感じられず、一刻も早い逮捕を願うばかりだ。

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