【コラム細田悦弘の新スクール】 第4回 サステナビリティ経営の10のご利益

今どき、サステナビリティは経営の必修科目とわかっていても、どうも踏み切れない。予算も人材にも余裕がない。ただし経営の本分に立ち返れば、自社を存続発展させること。そのための活路となるのが「サステナビリティ」であると腹を据えて割り切りたいものです。

サステナビリティは『コスト』ではなく、『投資』

「サステナビリティ経営」に舵を切るのに二の足を踏む経営層は、まだまだ多く見受けられます。サステナビリティを経費(コスト)と考えれば、それが必要経費であっても『出っぱなし』ですが、投資と捉えれば、『リターン』があります。こうした文脈から、企業がサステナビリティに取り組む意義について、次のように列挙します。

「サステナビリティ経営」の10のご利益(ごりやく)

1. リスクマネジメント
サステナビリティ経営とは、「環境・社会の持続可能性への配慮により、事業の持続的成長を図る経営」といえます。したがって、自社の業種業態がどのように地球や社会に『負の影響』を与えるのかにまず着眼することが先決です。これが、サステナビリティ経営に取り組むべき「リスクマネジメント」の観点です。すなわち、現代社会の『要請』ともいえる「ハードロー」と「ソフトロー」への対応を意味します。前者を遵守するのは当然ですが、後者を軽視し対応を怠ると、経済的・道義的に不利を被ることになります。さらには、ソフトローが徐々に社会通念上の妥当性が高まり、ハードロー化すれば、事業の制約や差し止めの窮地に追い込まれることもあります。

2. イノベーション
サステナビリティ経営が目指すところは、社会のサステナビリティと企業のサステナビリティを『同期化』させ、地球や社会の持続可能性を担保しながら、企業の持続的成長を図ることです。それを実現するには、従来からのコアビジネスにサステナビリティ視点の『制約(ハードル)』を課されることになります。それを乗り越えるには単なる改良ではなく、これまでなかった柔軟で斬新な発想による「イノベーション」が求められます。『制約』をドライバーとしてイノベーションに挑めば、新しい競争力が身に付きます。

3. コストダウン
サステナビリティへの取り組みは、原材料の再利用・省エネルギー等の環境配慮を通じ、原材料費や販管費を低減できる業種があります。商品やサービスの製造過程において、エネルギーや廃棄物の量などを見直すことができれば、コスト削減につながります。これを商品やサービスの提供価格に反映させることで市場競争力が高まります。さらにアップサイクルができれば、それまで廃棄コストがかかっていたごみが、環境負荷を軽減しながら収益源に変貌します。

4. 資金調達先(投資家・金融機関)の評価向上
金融機関が投融資先を選別するに際し、『持続的成長が果たせる会社』を見極めます。持続的成長が期待できる会社は、地球や社会に配慮した会社です。サステナビリティに取り組まない企業より、真摯(しんし)に取り組んでいる企業の方が資金調達面で有利になる傾向が顕著になっています。そして金融機関は、自らのサステナビリティ推進のために、資金の力でサステナビリティに熱心な企業を後押ししていく動きも活発になっています。

5. 取引先とのサステナビリティ協働による競争力強化
多くの製造業はサプライチェーンの中間に位置します。取引先からサステナビリティへの取り組みを迫られる局面が増えています。TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に象徴される対応においては、スコープ3である事業者の活動に関連する他社の温室効果ガスの排出量も対象となっています。サステナビリティ協働は、これからのビジネスにおける『取引条件』になる傾向は強まり、企業間取引の拡大の契機と捉えることもできます。

6. 業界や地域経済の活性化
事業エリア周辺から雇用や物品・サービスの調達を通じ、地域の持続可能な発展に寄与できます。地域における産業集積や知的集積によってクラスターが形成されていけば、地域産業の競争力向上や地域社会・経済の活性化にもつながります。そして、地球や社会に対する『外部性(影響)』は、業界によって異なります。そこで業界としてサステナビリティに取り組めば、業界としての競争力を強化でき、ステークホルダーからの共感や評価が高まります。

7. 優秀な人的資源の獲得
Z世代を中心にサステナビリティへの志向性が芽生え、ライフスタイルや消費行動のみならず、『会社選び』の基準にも反映されてきています。「エシカル就活」という言葉もよく見聞きします。求職行動の喚起にあたっては、サステナビリティに対する企業姿勢の訴求が不可欠となっています。働く側として、『社会に役立つ仕事』ができるかどうかは就職先を選ぶ際の要件として重みを増してきています。サステナビリティ経営は、採用ブランドを高めます。

8. 従業員の離職率低下とモチベーションアップ
伝統的に有力な日本企業は、『社員を大切にする』という考え方のもと、雇用の保障や福利厚生の充実という形で報いてきました。しかし、いま大きく変容しているのは、『労働条件の満足』から一歩踏み込んで、『個人のウェルビーイング』と『会社のパーパスや中長期の経営計画』をしっかりとつなぎ合わせていく点にあります。従業員が、パーパスに依拠したサステナビリティ経営に共感すれば、エンゲージメントが強化され、ロイヤルティが高まります。そして、「リテンション戦略(優秀な人材の離脱を防ぎ、継続して活躍してもらう)」に効果を発揮します。

9. 社会的評価(レピュテーション)の向上
「社会からの評価(レピュテーション)」において、サステナビリティが新しいモノサシとなっています。表層的な企業イメージではなく、レピュテーションは社員一人ひとりがサステナビリティを具現化することによって、時間をかけて醸成されていきます。あわせて、サステナビリティ経営に関する情報をステークホルダーに的確に伝え理解・共感を得るため、「統合報告」等を通じ開示していくことが重要です。レピュテーションが高まれば、それが『無形資産』として企業価値に寄与します。

10. 新しい価値創造、新しい市場開拓
「事業によって社会課題を解決し、社会とともに発展する」といった経済価値と社会価値を両立させる経営の視座が強く求められています。「社会課題を解決しよう!」と言うと、とかく現行ビジネスの『プラスα』といった印象を受けがちです。しかしながら、生活者が直面する『お困りごと』をビジネスで解決できれば、生活者が消費者(お客様)に変わり、新しい価値創出・新しい市場開発につながります。この視点は、既存市場に根差したマーケットインを超えて、社会を軸としたアウトサイドインのビジネスへの足掛かりとなります。

上記の『10のご利益』に鑑み、サステナビリティ経営に本腰を入れて取り掛かるべき時が到来しています。目指すところは、事業基盤である環境や社会面のリソースを維持・増強しながら、経済活動としての事業を持続的に成長させることです。サステナビリティを経営戦略に組み込み、企業と社会の相乗発展に結びつけ、中長期的な企業価値向上を果たすことが、現代のリーディングカンパニーの矜持(きょうじ)です。これからの経営を担う次世代の人たちの腕の見せどころといえましょう。

細田 悦弘  (ほそだ・えつひろ)
公益社団法人 日本マーケティング協会 「サステナブル・ブランディング講座」 講師
一般社団法人日本能率協会 主任講師

1982年 中央大学法学部卒業後、キヤノン販売(現キヤノンマーケティングジャパン) 入社。営業からマーケティング部門を経て、宣伝部及びブランドマネジメントを担当後、CSR推進部長を経験。現在は、企業や教育・研修機関等での講演・講義と共に、企業ブランディングやサステナビリティ分野のコンサルティングに携わる。ブランドやサステナビリティに関する社内啓発活動や社内外でのセミナー講師の実績豊富。 聴き手の心に響く、楽しく奥深い「細田語録」を持ち味とし、理論や実践手法のわかりやすい解説・指導法に定評がある。

Sustainable Brands Japan(SB-J) コラムニスト、経営品質協議会認定セルフアセッサー、一般社団法人日本能率協会「新しい経営のあり方研究会」メンバー、土木学会「土木広報大賞」 選定委員。社内外のブランディング・CSR・サステナビリティのセミナー講師の実績多数。

◎専門分野:サステナビリティ、ブランディング、コミュニケーション、メディア史

◎著書 等: 「選ばれ続ける会社とは―サステナビリティ時代の企業ブランディング」(産業編集センター刊)、「企業ブランディングを実現するCSR」(産業編集センター刊)共著、公益社団法人日本監査役協会「月刊監査役」(2023年8月号) / 東洋経済・臨時増刊「CSR特集」(2008.2.20号)、一般社団法人日本能率協会「JMAマネジメント」(2013.10月号) / (2021.4月号)、環境会議「CSRコミュニケーション」(2010年秋号)、東洋経済・就職情報誌「GOTO」(2010年度版)、日経ブランディング(2006年12月号) 、 一般社団法人企業研究会「Business Research」(2019年7/8月号)、ウェブサイト「Sustainable Brands Japan」:連載コラム(2016.6~)など。

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