明石ダコ不漁が問うもの 増える釣り客、減る資源 全国初の保護策「タコマイレージ」とは

資源保護のため子持ちタコを放流する遊漁船業者ら=9月下旬、明石市沖

 近年、記録的な不漁が続く兵庫県明石市特産のマダコ。不漁の原因は明確ではないが、明石ダコとして人気が高まり、釣り客が増えたことが要因の一つとされる。このため同市では、漁獲制限とは縁のなかった釣り船業者が異例のタッグを組み、漁師らとともに資源保護に乗り出している。全国的にも珍しい試みは奏功するか。取り組みの現場を追った。(有冨晴貴)

 

釣り客の取り過ぎが影響か

 同市が面する瀬戸内海の一角「播磨灘」は古くから豊かな漁場だった。だが近年、タコなど水産物の慢性的な不漁が続いている。

 明石ダコは、足が太く身が引き締まっているのが特徴で全国的に知られる。2015年まで年間千トン程度の水揚げがあったが、16年ごろから低迷。21年には史上最悪の143トンに落ち込み、今年も300トンほどと見込まれている。

 原因は明確ではないが、海の栄養低下が主な要因と指摘されている。ただ、市内で遊漁船を営む松本正勝さん(64)は「釣り客による取り過ぎも大きい」と認める。

 新型コロナウイルス禍で、屋外レジャーの釣りが注目された。兵庫県内で登録する遊漁船業者は、19年の352から21年は399に増加。さらに明石ダコがブランドとして定着したこともあり、松本さんは「タコ釣り客は十年以上前と比べて相当増えた」と話す。

 

一定量以上の釣果は提供してもらいポイントに

 明石市漁業協同組合連合会では3年前、所属する43の釣り船業者が遊漁船部会を設立。操業時間や漁獲規制などを取り決めた。

 釣り客にも資源保護を意識してもらう仕組みとして、釣った100グラム以上のタコを放流用に提供してもらう全国初の「タコマイレージ制度」を導入した。数に応じてポイントがたまり、景品と交換できる。制度を始めた昨年は約7500匹を放流した。

 部会長に就いた松本さんは「漁師だけでなく、遊漁船業者と釣り客が一体となって取り組むことが重要」と強調する。これまでに30匹以上を提供したという客の50代男性=京都府=は「多く釣れても全てを持って帰るのは難しい。将来、釣れなくなるのは困る」と活動に賛同する。

 同部会はこのほか、漁師から子持ちのタコを買い取って放流したり、漁場改善のために貝をまいたりもしている。

 

「一線を切れば、回復できない」

 同部会のように、遊漁船業者がタッグを組み、資源保護を目指す試みは全国的にも珍しい。そもそも活動の原点は何だったのか。

 「魚の減少がある一線を切れば、どうやっても回復できなくなる」

 部会を立ち上げた松本さんの念頭にあったのは、遊漁船を営む小島漁協(大阪府岬町)の山原学組合長(79)の言葉だった。

 大阪湾でも近年、ガシラやメバルの不漁が続く。山原組合長も以前から危機感を強め、地元で放流する魚を明石から買い取るなどしていたという。

 遊漁船業者による取り組みは神戸市でも始まった。漁獲量が年々減っているタチウオなどを保護するため、市漁協の釣船協議会は操業時間を原則正午までと決めた。

 ただ、漁協に所属していない釣り船業者にも協力を依頼しているが、調整は難航している。明石でも当初、漁獲規制の徹底は難しかったが、粘り強く呼びかけたといい、「今はほとんどの業者が協力してくれている」(松本さん)という。

 漁師だけでなく、遊漁船業者や釣り客による資源保護は広がりつつあるが、松本さんは満足していない。「今のままだと本当に魚がいなくなる。もっと取り組みの輪を広げていかないといけない」

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