【レポート】「佐渡島の金山」の世界遺産登録を契機に100年先の未来を見据える 新潟県佐渡市・島民団結シンポジウム

新潟県佐渡市は12月16日、四半世紀にわたる島民の悲願である佐渡島の世界遺産登録に向けた島民団結シンポジウム「佐渡島の世界戦略! 日本の佐渡から世界の佐渡へ!」を同市のアミューズメント佐渡で開いた。後援は、観光庁、文化庁、新潟県。会場には、佐渡市の観光事業者や住民ら約200人が集まった。目前となる2024年での「佐渡島の金山」の世界遺産登録に向けて島民の一致団結を図るとともに、佐渡文化の継承や100年先を見据えた佐渡の未来について意見を交わした。

あいさつする渡辺市長

冒頭、佐渡市の渡辺竜五市長が「世界遺産登録への取り組みは27年になるが、あと少しで悲願が達成されるところまで来た。国、県、市、地元の企業、島民が一体となり、成し遂げなければならない」と参加者に機運醸成と取り組みへの参画を呼び掛けた。また、「世界遺産は取ることが目的ではない。島、地域の価値を誇りに結び付けることが大切。世界遺産がある場所に住んでみたい人、ファンになる人、感動する人など価値は幅広い。われわれは価値を知り、磨き上げて発信しながら、持続可能な島を作り上げる。将来の子どもたちに美しい島、食、歴史・文化を100年、200年と残していかなければならない」と力を込めた。

佐渡市の渡辺市長

新潟県の花角英世知事は、同シンポジウムにメッセージを寄せた。花角知事は、「佐渡島の金山の世界遺産登録は、政府の推薦書が世界遺産委員会の諮問機関であるイコモスへと送られて審査が行われている。2024年7~9月には結果が出る。これは佐渡を世界遺産にする会をはじめ島内の人の悲願である」と述べた。世界遺産登録の実現後の在り方にも触れ、「登録されれば佐渡が誇る文化を世界で認知してもらう絶好の機会となる。島民には佐渡の宝を後世に伝えること、来訪者の受け入れ態体制を作ってほしい」と呼び掛けた。

基調講演とパネルディスカッションの2部制で開催

シンポジウムは、第1部が基調講演(観光庁・竹内大一郎観光資源課長、鹿児島県屋久島町役場観光まちづくり課・岩川健地域振興係長)、第2部がパネルディスカッションの2部制で開かれた。

観光庁・竹内課長「観光資源のさらなる磨き上げが持続可能な地域づくりに」

観光庁の竹内観光資源課長

第1部の基調講演では、観光庁の竹内大一郎観光資源課長が「地域の観光資源の磨き上げについて」をテーマに、佐渡島の金山の世界遺産登録後を見据えた他の地域の事例も踏まえた地域の観光資源の磨き上げについて話した。竹内課長は、佐渡島が2004年に島内の10市町村が合併後に人口が7万人から5万人と人口減少や高齢化が進んでいることを指摘。島の在り方が問われる今、「関係人口や交流人口を増やしながら、移住者を増やすことが大事。今こそ新たな島づくりが求められている」と話した。

佐渡の観光資源については、佐渡金山のほか、トキ、寒ブリなど食、小木の町並み、地酒、分散型ホテル開発の京町エリアなど古民家泊、たらい舟など文化などを挙げた。観光資源を磨き上げることは、①来訪目的の創出②観光消費の場の提供③より長期の滞在への誘因④異文化との交流拠点-につながることから、「観光コンテンツは『地域の顔』となる。また、観光コンテンツの満足度が観光地としての満足度に直結する」と観光コンテンツの重要さを説いた。

観光資源の磨き上げと高付加価値化の実現に向けて、竹内課長は「手を加えてお客様を呼ぶのが観光資源。何かと掛け合わせる工夫をし、ターゲットに併せて磨き上げることで価格は高く上げられ、差別化につながる。ぜひ、ストーリー性を含めた『本物の体験』を提供してほしい」と呼び掛けた。先進的な事例として、和歌山県熊野古道での高品質ガイドによる語り部ツアーや、神奈川県三浦市での三浦半島の絶景を見ながらミシュラン三ツ星レストランを経験したシェフが地元農水産品を使った食を提供する特別な食体験、京都の仁和寺での宿泊者だけに特別公開やガイドを行う宿坊体験などを紹介した。

観光資源の磨き上げにあたり踏まえるべき点では、①「観光資源」がそのまま「観光コンテンツ」とされていないか②地域の「売りたいもの」が「売れるもの」ではない③観光コンテンツ化した観光資源は磨ききれているか③地域で「売ったもの」が「売りっぱなし」にしていないか―の4つを挙げた。

最後に、佐渡島の金山の世界遺産登録に向けて「世界遺産は次世代に継承すべき人類共通の宝物。価値を知ってもらうためにも、佐渡金山をさらに磨き上げる必要がある。世界遺産登録を契機に持続可能な地域づくりを地域が一丸となり進めてほしい」とエールを送った。

屋久島町・岩川係長「認定前での制度設計と住民がまとまる取り組みを」

鹿児島県屋久島町役場観光まちづくり課の岩川健地域振興係長は、「世界遺産登録までの道のりと登録後の活用を」テーマに、1993年に白神山地(青森県、秋田県)とともに日本初の世界遺産登録された屋久島の世界遺産登録までの道のりや登録後の地域資源の活用、抱える課題について話した。

屋久島町役場の岩川地域振興係長

岩川係長は屋久島について、世界自然遺産の登録ほか、2005年に登録されたラムサール条約湿地、2016年に拡張登録されたユネスコエコパークを合わせた「ユネスコ三冠」の島と表現。また、屋久島の面積は504平方キロメートルある内、21%が世界自然エリアであることや、自然遺産に登録された理由として、樹齢1000年以上の天然林や垂直分布による高質な景観が見られることから、「世界遺産の10個の基準のうち、7番目の自然美、9番目の生態系が基準を満たしていた」と話した。

入込客数は、1993年の登録時が21万人、ピークだった2007年が40万6387人、2020年には屋久島ブームが落ち着き、13万3988人まで減少していることを伝えた。「今は少し戻っているが、登録時まで戻っていない」と岩川係長。屋久島の観光関連事業者の変化(世界自然遺産登録前後)として、世界遺産登録後に宿泊施設、観光バス、レンタカー、観光関係就業者数の全てが大幅に増えたことを案内した。一方で、現状でもまだまだ受け入れ環境整備が足りていないことを指摘した。

観光客が増加することでの地域への好影響として、ブランド力向上、交通インフラの利便性の向上のほか、岩川係長は注目ポイントとして、郷土愛が育まれたことによる地域への誇り醸成が生まれたことを紹介した。「以前は屋久島出身と言っても見向きもされず、鹿児島出身と言っていたこともあったが、今は自信をもって名乗れる」と効果を示した。一方、地域のへの悪影響については、自然環境の破壊や汚染(登山道の荒廃など)や、レンタカーや観光バスによる交通事項の危険性の増加を挙げた。

世界自然遺産登録後の課題については、トイレのし尿増大と駐車場不足(路上駐車の増加)に悩んでいることを打ち明けた。トイレ問題は、屋久島の貧弱な土壌では土壌分解速度が追い付かず、悪臭やハエの発生、自然環境や里地の水源にまで影響する恐れが生じたことから、現地埋設処理からし尿処理施設への人力搬出に変更して対応。駐車場不足は、マイカー規制の本格導入や3月1日~11月30日の期間で登山バスを運行し、登山口付近の利用環境の改善に努めていること、独自のルールやマナー、自然や文化を保全・活用する食見として協力金を徴収していることなどの対策を披露した。

誘客の課題については、「独自の多様な資源を生かせておらず、リピーター割合は19.9%と低い。悪過ぎ以外の他の資源が生かせておらず、縄文杉を見た後には再訪する目的や動機が少なくなっている。また、2次交通の利便性が悪く、車両不足も発生している」と話した。

今後は地域固有の魅力を伝えるため、2002年から地域ぐるみで始めたエコツーリズムの推進のほか、屋久島認定ガイド(安全、満足、信頼を得るため、200日以上の実務と試験などに合格した人が認定される)による「星めぐりツアー」「集落を語り部とめぐる」といった商品やジビエなど山や海の食資源を生かした料理の提供、「やくしまアプリ」を活用した地域の人による情報発信などに努めていく方針。

世界遺産登録を目指している佐渡の人たちに向けて、岩川係長は「屋久島は、認定されてから制度ができたのでコントロールしきれず、多くの課題が生まれた。佐渡は今からでも準備ができる。また、屋久島には、今後100年をどういう形で保全してい残していくかの決意を表した『屋久島憲章』がある。今でもまちづくりの施策は屋久島憲章を参考として立てている。佐渡でも住民をまとめるためにも作るのも良いのではないか」と提言した。

未来の佐渡を見据えて島民と有識者が意見交換

パネルディスカッションの様子

第2部のパネルディスカッションは、「観光立国の推進と佐渡の世界遺産登録の意義と未来」をテーマに、100年先を見据えた佐渡の未来について話し合われた。コーディネーターは、跡見学園女子大学観光コミュニティ学部の篠原靖准教授が務め、パネリストには①観光庁・竹内大一郎観光資源課長②佐渡市・渡辺竜五市長③屋久島町役場観光まちづく課・岩川健地域振興係長④佐渡観光交流機構・佐藤達也事務局長⑤佐渡を世界遺産にする会・庄山忠彦事務局長-が登壇した。

篠原准教授は、「四半世紀の思いが実を結ぶ瞬間にある。一方で佐渡市の高齢化率は40.5%と新潟県内でも4番目に高い」と話し、外貨を稼ぎながら今ある産業に付加価値を付けて稼げるかが未来を作る上で重要だと説いた。また、従来の団体旅行に対応した「いつでも、どこでも、どなたでも」の観光から、生活文化や交流、体験、滞在をキーワードとした「いまだけ、ここだけ、あなただけ」の思いを持ちながら、佐渡でなければ体験できないことの価値提供を訴えた。また、交流について、「トップは定住・移住、底辺は交流、真ん中に関係がある。真ん中に来る関係人口をどう作るかだ」と話した。

跡見学園女子大学の篠原准教授

渡辺市長は佐渡島の金山の世界遺産登録について、「世界遺産登録も含めて、持続可能の島が大きなテーマ。多くの人が来ることで経済だけでなく、知恵も生まれる。佐渡にある観光、歴史・文化、食、自然を生かして交流人口を増やしていく。今回は地域を見つめ直す良い機会であり、悪いものについても議論して直せる『変化できる島』でありたい」と先を見据えた。これまでの観光・宿泊施設の囲い込みでない波及効果が生まれる受け入れ態勢づくりに取り組む方針を示した。

佐渡を世界遺産にする会の庄山忠彦事務局長は、佐渡島の世界遺産の登録に向けて1997年に「世界文化遺産を考える会」を発足してから27年となる活動の足跡を振り返りながら、「登録がゴールではない。佐渡全体が元気にならなければならない。互いに主張したいこと、譲れない部分はあるが、縄張りを譲り合いながら、いろいろな機関や団体が連携していかなければならない」と、さらなる結束を呼び掛けた。

佐渡を世界遺産にする会の庄山忠彦事務局長

屋久島町の岩川係長は、世界遺産の登録が地域振興のチャンスであることを説いた。「観光だけでなく、一次産業など他の産業の活性化のチャンスだ。屋久島では柑橘『タンカン』での収入は冬場だけだったが、製品としてだせないものを加工品として別の季節での販売につながった。これまでに目を向けられなかった部分にも日が当たる」と事例を交えながら、地域にある観光資源の掘り起こし、仕組みづくりの必要性を述べた。

佐渡観光交流機構の佐藤達也事務局長は「今でも観光は観光事業者だけでは成り立たない。これまでの日帰りや1泊を2泊以上の長期滞在にするには、観光事業者だけでは難しい。市民、他産業の型を巻き込みながら、地域と交流してもらう取り組みが必要。地元の人が食事をしている場所で食事をしたいというニーズがあるなど、受け入れの多様化は急務だ」と連携の在り方を示した。

佐渡市観光交流機構の佐藤事務局長

観光庁の竹内課長は、今後の佐渡の取り組みについて言及。「承久の乱後の順徳天皇、日蓮上人など、『流される佐渡』がイメージとして根付いている。鎌倉時代から人が住んでいたということは、生活が成り立つ場所であるということ。北前船の寄港地であったことから、厳しい場所でなく、豊かであることを認識しなければならない。今回初めて佐渡を訪れて、食が豊かな印象を持ったが、どこの地域も食はおいしいと言う。例えば、土壌や海のミネラルが良いなど、科学的に説明できれば、ブランド化、リピート化につながるので、観光資源の磨き上げに努めてほしい」と期待した。

住民との意見交換では、住民からはアドベンチャーツーリズムなどインバウンドや富裕層の集客を見据えた地域の顔づくりとなる商品の開発や、宿泊施設を含めた島内観光資源の高付加価値化、伝統的建造物群保存地区(小木町)を残しながら観光につなげること、農業と芸能を合わせた世界への売り込み、温泉やリンゴなど豊かな資源のデジタルを活用した世界へのPRなどの意見が上がった。

今度は人が輝く黄金の島に

佐渡島の金山の世界遺産登録への思いを語る羽茂高校の生徒

このほか、世界遺産登録への地元高校生の思いを、新潟県立羽茂高校の生徒4人が発表した。生徒は佐渡島の金山の世界遺産認定への思いとして、①過去には金山が日本の経済を支えたいたことが誇りであること②若者は佐渡が田舎家過疎地域であり誇りを持てなくなっているが、金山が世界遺産に登録されれば誇りにつながること③観光客など島外の人が訪れて島が活気付くこと④金山で黄金の島と言われるが、今度は人が輝く黄金の島に変わること⑤修学旅行など実習での交流により新たな学びを生むこと―などを語った。

佐渡市では、佐渡島の金山の世界遺産登録に向けた活動のほか、地域コミュニティの活性化を目的に地域経済の活性化や佐渡ファンの獲得に向け、①自然・文化と調和した観光スタイルの形成②地域内外が連携した高付加価値観光の推進③国内外に通用する「佐渡(SADO)」のブランディング④データに基づいたマーケティングに立脚した観光政策の立案-などの取り組みを推進している。

佐渡島の金山の世界遺産登録に向けて気勢を上げる島民ら参加者

取材 ツーリズムメディアサービス編集部 長木利通

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