ガザ:「水の不足は爆撃のように命を奪う」 ロジスティシャンからの報告

ガザでは清潔な水が極度に不足している=10月20日 © Mohammed ABED

国境なき医師団(MSF)の医療援助活動は、医療スタッフだけでは行えない。水と衛生、物資の調達などを担うロジスティシャンが不可欠だ。MSFの緊急チームの一員として1カ月間、パレスチナ・ガザ地区で活動した、ロジスティック・コーディネーターのリカルド・マルティネスが報告する。

1日1リットルの水で生活

リカルド・マルティネス © Santiago D.Risco/MSF

まず何よりも、ガザでは即時かつ持続的な停戦が必要です。私はそれに加え、ガザでの水と衛生の欠如についても警鐘を鳴らしたいと思います。長期的には、爆撃と同じように多くの人の命を奪う可能性があります。

水道システムはもう機能していません。1人が1日に使える水はせいぜい1リットル。それで飲み水も洗うことも料理もまかなうのです。シャワーは500人に1つしかありません。シャワーを浴びることができる人は、ここでは幸運なのです。ガザ南部では、私たちのチームが1日に50~60立方メートルの水を提供していますが、大海の一滴にすぎません。

ガザ南部では、まるで満員のサッカースタジアムにいるような過密状態です。数少ないトイレを多くの人で使用し、水を汲み上げる燃料もないため、通りに汚水が流れ込んでいます。子どもたちが、汚れた黒い水の中で水しぶきをあげて遊んでいるのを見ました。人びとの健康への影響は明らかです。

燃料不足が与える影響

場所によっては、燃料も電気もありません。それがあらゆることに影響しています。燃料がなければ製粉機も動かないので、小麦を手に入れることができません。小麦がなければパンなどの食べ物が作れません。エジプトから来るトラックがガザのトラックに援助物資を積み込んでも、燃料がなければ、トラックは移動することも、物資を配ることもできません。

病院では、燃料がないために発電機が動かず、医師が人びとの命を救うことができず、多くの命が失われる壊滅的な状況を目の当たりにしました。病院は避難所と化し、人びとは廊下で生活しています。

空爆で破壊された場所から生存者を探すガザの住民=2023年10月21日 © Mohammed ABED

閉鎖を余儀なくされた、ガザ南部ハン・ユニスの診療所

イスラエル軍は、12月1日からウェブサイトを通じて退避要求を発表しています。地図上のある地域が "レッドゾーン "に指定されると、それは攻撃の対象となることを意味します。しかし、ガザにはほとんど電気が通っておらず、インターネットにつなぐことも困難です。その状況で、自分たちが退避すべきかどうか、どう知ることができるのでしょう。

私たちが働いている地域にいずれ退避要求が出るのは明らかでした。ほんの2、3日前に、私たちはそのことを話し合っていました。そして12月3日、診療所を閉鎖し、ハン・ユニスを離れることを余儀なくされたのです。その日の朝、私は西へ数キロ移動するためのロジスティックを担当していました。私にとっては、この日がガザ滞在中に経験した最も辛い日でした。

私は車に荷物を詰め、すべての準備が整ったことを確認しました。何よりつらかったのは、パレスチナ人の同僚たちと離れることでした。これまでずっと一緒にいて、何もかも助けてくれた彼らと、もう会えないのかもしれません。感謝を伝える時間もありませんでした。正直を言うと、恥ずかしい気持ちでした。

ガザに安全な場所はありません。学校、民家、給水所……。私たちが訪れた直後に破壊された場所がいくつもあります。同僚のパレスチナ人ロジスティシャンであるオマルはこう私に言いました。 「リカルド、昨日までここに人がいたのに、今は瓦礫の山だ」 生きていられるかは運次第なのです。

つかの間の休戦

爆撃の一時停止が始まった時のことも忘れられません。あの朝、時計が7時を回った瞬間、祈りの声や歌声、喜びの歓声が聞こえ始めました。彼らがとても喜んでいるのを見て、私は涙がこぼれました。しかし、それはほんの数日しか続きませんでした。地獄が再び始まったのです。

短い期間ではありましたが、この間に人びとは家族に会うことができました。これは誰にとってもとても重要なことです。ガザの北部に戻り、愛する人たちと数日間を過ごした人もいました。

同時に、この時間を死者の埋葬にあてた人もいました。多くの人びとが、路上で腐敗していた遺体を回収しに行ったのです。この時の心の痛みと臭いを想像できるでしょうか。

ガザ中部、アル・アクサ病院の廊下では多くの人が過ごしている=11月29日 © Mohammed ABED

パレスチナ人スタッフの存在

MSFが活動できているのは、献身的なパレスチナ人スタッフのおかげです。彼らは命を救い続けるために全力を尽くしています。悪夢の真っ只中に、希望をもたらしているのです。

パレスチナ人スタッフのほとんどは家を追われ、愛する人を失っています。悲惨なことに、今起きている残虐行為は彼らにとって目新しいものではなく、以前にも経験しています。いつ死んでもおかしくないと分かっていても、彼らは毎朝笑顔で挨拶をしてくれます。そして、あなたは元気かと尋ねると、彼らはこう答えるのです。「大丈夫、まだ生きてるよ」

パレスチナの同僚たちは、照明の充電や食事など、ガザの外から来た私たちが必要なものを手に入れられるように力を尽くしてくれました。彼らは患者だけでなく、周りの人たちにも気を配っているのです。「私はあなたを助けたい。仲間を助けたいんです」と彼らは言うでしょう。 そして同時に、彼らはこう問い続けます。 「どうして世界は、私たちのことを忘れてしまったんだろう」と。

即時停戦を求める

MSFは、ガザでこれ以上の命が奪われるのを防ぐため、即時かつ持続的な停戦を繰り返し求めてきた。また、イスラエル当局に対し、水や燃料などの必需品を含め、援助関係者や人道物資のガザへの無条件かつ継続的な搬入を可能にするため、封鎖を解除するよう求めてきた。無差別で絶え間ない攻撃を、今すぐ止めなければならない。強制的な移動、病院や医療スタッフへの攻撃、援助に対する制限を、今すぐ止めなければならない。

ガザで活動するスタッフ=10月19日 © MSF

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【「緊急チーム」募金について】 国境なき医師団では、イスラエルとパレスチナにおける衝突で生じた人道危機への緊急援助に向けた寄付の受付を、「緊急チーム」募金より行います。自然災害、紛争の激化、感染症の大流行など、一度に多くの人びとの命が危険にさらされる緊急事態に即座に対応するため、国境なき医師団には高度な専門性をもつ「緊急チーム」があり、チームの活動を支えるための「緊急チーム」募金へのご協力を通年でお願いしています。 このたびの緊急援助に必要な活動資金は、「緊急チーム」募金から充当します。

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