銭湯、美術館、ヨガ体験… 孤独・孤立対策にチャット相談との補完で実体験を提供する日本初の取り組みが発進

24時間365日のチャット相談に加え新たにローンチしたオフラインサービスを発表した大空理事長(12月19日 都内で/弁護士JP編集部)

特定非営利活動法人あなたのいばしょ(東京都港区、理事長:大空幸星)は12月19日、社会的処方事業として、「いばしょチケット」のローンチを発表した。

社会的処方は、孤独や希死念慮を抱く人に、薬ではなく、自然や芸術に触れる機会などを提供し地域社会とのつながりを持つことをサポートする取り組み。孤独に苦しむ人の背中を、そっと優しく、一歩前へ踏み出すことを後押しすることで、レジリエンス(自発的な心の回復)を高め、自殺対策の抜本的な対策の一つとして注目されている。イギリスなどでは公的な医療・福祉の枠組みで運用されている。

“オフライン”の支援プログラム

「2020年から、チャット相談で望まない孤独や孤立をなくすアプローチを続けてきたが、どうしてもチャットだけでは限界もある。より回復するプロセスをしっかりと確立するためにも、この新たなオフラインでの支援は次の大きな一歩になる」と大空理事長は明かした。

同法人が行った相談件数は、開設以来これまでに、累計で85万7177件で、うち7割が29歳未満という。今回のオフラインでの支援プログラムは、そうした実績と併せ、さらに孤独対策の実効性あるアプローチとしての、ネクストステップとなる。

具体的な流れは、相談者がスマホ等で同法人の相談窓口へコンタクト。訓練を積んだボランティアの相談員がチャットで対応し、相談者の状況を見極め、効果が期待できそうと判断した相手に電子チケットで施設や体験のチケットを渡す。

「チケットはあくまでも相談員が有効と判断とした人にのみお渡しします。実際に体験をしたかどうかは新たに開発したシステムで確認できるようになっており、将来的には体験前後の回復状況をデータで蓄積しながら、より精度の高い仕組みにしていきたい」と大空理事長は展望を語った。

「プラスにまでいけるようにしたい」

社会的処方においては、自然や芸術等はコミュニティ資源であり、触れることで心の回復力の向上と孤独感の低減効果があるとの仮説で、どう取り組みによって、チャットによる相談からさらに一歩を踏み出すことを後押しする。

コミュニティ資源としての提携施設は、銭湯、博物館、美術館、プラネタリウム、ヨガ体験、森林浴など現在までに10施設ある。エリアは、東京都、茨城県、大阪府、奈良県、福島県などで、関東・近畿エリアが中心となっている。チケットは、日本財団の助成も受け、相談者に無料配布される。

「さまざま事情で、社会から孤立していた人も、今回のいばしょチケットを使い、施設等を体験することで、社会とつながっていると感じてほしい。いままでは見えていなかった世界がみえることで、心の回復につながると期待しています。ここまでは24時間365日のチャット相談でマイナスからゼロにはできたかもしれないが、プラスにまでいけるようにしたい」と大空理事長は力を込めた。

初年度は、まさに実証実験として、手探りで効果を見極めながら、データを蓄積。2年目以降は、データと連動させたより的確な体験選定と後押しなどで、「望まない孤独」を減らしていく。

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