救急隊の活動に「無くてはならない」バッグ 修理を担当するのは障害者の就労施設 「修理という形で地域の助けに」

24時間、365日私たちのくらしを支える救急隊。その活動に欠かせないバッグには知られざる物語がありました。

1年中休みなく「命」をつなぐ救急。

出動のときに救急隊が必ず持っているバッグがあります。

酸素ボンベを持ち運ぶためのバッグ。

よく見ると1か所だけオレンジ色のファスナーが。

このファスナーには“ある思い”が込められていました。

(消防局職員)
「酸素ボンベを入れるカバンなんですけど、チャックが壊れてしまいましたので、ここが開かなくなった。ここが折れているのでバンドエイド貼ってある」

消防局の職員が壊れたバッグを持ち込んだ先は、障害者の就労施設。

ここで名古屋市内の救急隊のバッグの修理を行っています。

(消防局職員)
「これがないと救急隊の仕事にならないカバン。頻繁にチャックを開け閉めするので、どうしてもチャックが傷んじゃう」

出動の際、このバッグを必ず持っていくのがルール。

酸素ボンベは重く、バッグは傷みも早いといいます。

ミシンがけをする武内慎一郎さん、生まれつき聴覚障害と自閉症があり、会話をすることは、ほとんどできませんが…。

(名身連第一ワークス 井戸田啓介主任)
「バッグの裏側を縫ってから、ひっくり返して」

修理のやり取りだけは緻密な指示も伝わるといいます。

(武内慎一郎さん:筆談)
「(Q:この仕事は楽しい?)このバックは救急隊、お仕事は好きです」

この施設がバッグの修理を引き受けたのは2022年の夏頃、そこにはあるワケが…。

(名身連第一ワークス 井戸田啓介主任)
「福祉関係のところは地域に助けられることが多いと思う。修理という形でも地域の助けになる、こちら側が助けることができる、社会とつながることができるって素敵だなと思って」

障がい者の就労施設は工賃が低く、この施設のように雇用契約を結ばない施設で働く人が手にできる金額は愛知県平均で月に1万8000円ほど。

厳しい境遇の中、社会とつながることで仕事にやりがいを感じてほしいという思いがあったのです。

(尾崎桃子さん)
「表裏、縫い付けてあるので、引っかかったりすると…。探りながらやっていく」

壊れたファスナーの取り外し作業を担当する尾崎桃子さん(34)。

脳性まひで左半身をうまく動かすことができませんが、右手で道具を使い作業をこなしていきます。

(尾崎桃子さん)
「今後に役立ってくれればいいなと思う」

この日、尾崎さんは完成したバッグを直接手渡すために消防署を訪れました。

(名身連第一ワークス 井戸田啓介主任)
「バッグの修理が完了しましたので納品に来ました」
(消防署員)
「ありがとうございます」
(尾崎桃子さん)
「これから、どういう風にバッグが活躍するか、個人的に楽しみ」
(消防署員)
「皆さんのお気持ちをもらって、それを現場に持っていけるように、大事に資機材使いたいです」
(尾崎桃子さん)
「これからも頑張ってください」

バッグには、尾崎さんたちが修理したしるしのオレンジ色のファスナーが付けられていました。

(消防署員)
「いろんなところで、このオレンジ色がみられるといいですね」

思いが込められたバッグと共に、救急隊はきょうも人々のくらしを支えます。

© CBCテレビ