「イースX」の魅力に迫りつくす、ファルコム近藤季洋氏ロングインタビュー:魅力ある作品作りについて大解剖!

日本ファルコムより2023年9月28日に発売されたPS5/PS4/Nintendo Switch用アクションRPG「イースX -NORDICS-」(以下、「イースX」)。本作のプロデューサーを務める近藤季洋氏にインタビューを行ったので、その模様をお届けする。

長いインタビューだが、ぜひ最後まで目を通してもられば幸いだ。なお、このインタビューはゲームのラスト部分まで含めてネタバレだらけなので、目を通す際はくれぐれも注意をお願いしたい。

近藤季洋氏

■「イース」シリーズ10作目だからこそのチャレンジへ

――まずは、「イース」シリーズ35周年、おめでとうございます。

近藤氏:僕は35年ずっと関わってるわけではないですけれど、日本ファルコムに入社した時にはもう「イース」は最初のリメイクをしていた頃でしたね。

「イース」シリーズがちょうど途切れていた時期なので、直接教わる先輩ももう既にいらっしゃらなくて。そこから「イース」をどうやってリブートしていくのかを、当時の有志で結構話していて、それが「イースI・II エターナル」の頃だったので、もう25年前のことですね。リブートしてからこれだけ長い間続けられているのはユーザーの皆さんのおかげですし、本当に感謝の言葉しかないです。

そして僕らの先輩たちがやってきたことは、僕らにとっても教科書みたいなものなので、絶やさずにここまで続けてこられて、本当に良かったなと思います。このまま35年と言わず、40年、50年と続けていければ嬉しいですね。

――それでは、「イースX」について伺っていきたいと思います。「イースX」は「セルセタの樹海」の直前の物語になりますが、この時間軸にしようと思った理由はあるのでしょうか。

近藤氏:チームのコアメンバーが最初に集まった時に、10作目という大きな区切りにやることは何だろうという話をしました。

「イース」シリーズももう長いものですから、なかなか手に取ってもらいにくいという宿命があります。「軌跡」シリーズなども同じ問題を抱えていますが、今後もシリーズを続けていくとしたら、10作目だからこそもっと間口を広げていける作品になるようなものを、と考えていきました。

そこから、「最初からSwitch版を(含めて)やるのはどうだろう」とか、そういう話を広げていきましたが、その中で、一度アドルを1作目の雰囲気に戻したらどうかという案が出ました。

――「イースIX」のアドルは24歳でしたが、何故また17歳に戻そうと思ったのでしょう?

近藤氏:最初からSwitch版もやるのだとしたら、年齢層的にも若い方に手に取っていただくチャンスがあるので、若い方たちから見て親近感がわく年齢でやれないか、という話になりました。そこで1作目に一番近く、現実的な年齢で考えたのですが、どちらにしても「イースI・II」の都合上、17歳より前にすることはできないので、「セルセタの樹海」の直前の時間軸にするのはどうだろう、という話になりました。

――そういう経緯だったのですね。

近藤氏:それならば物語やシステムもアドルと同年代の子たちでやりたい、ということも、最初に決まりましたね。偉大な「イースI・II」直後にするのは僕らとしても大冒険ではあるのですが、10作目ということでチャレンジしてみようか、という話になりました。

――「イースI・II」の直後ならではのプレッシャーとかはあったのでしょうか?

近藤氏:ありますね。「イースI・II」はフィーナとの別れの直後なので、他の女の子とイチャイチャしていいのか、とか(笑)。

――確かに……(笑)。

近藤氏:アドルがケロっとして冒険していたらファンの皆さんはどう思うのかとか、そこらへんはすごく意識していました。

――それで、やはり最初はやり辛かったと……。

近藤氏:10年前はそうでしたけれど、今であれば自分たちも何作か新作を経験しつつ、少なからず当時の「イースI・II」を知っているので、今のうちにこの時代をやっておかないとさらに難しくなるかな、と思ったんですよね。

――なるほど。

近藤氏:もしも今後「イース」シリーズを後の年代に引き継いだら、当時を知らないで「イースII」の直後を作るのは、もう難しいのではないかと。なので、僕がやれるうちにやっておこうというのもありまして、この時代を選ばせてもらいました。

■物語作りのキーは「海のイース」という走り書き

――「イースIX」ではバルドゥークという箱庭的なマップが舞台でしたが、本作は一転して海という広大な舞台になりましたね。今回の物語を海にしようと思ったのは、何故でしょう?

近藤氏:紆余曲折あったのですが……、「イースIX」ではちょっとオープンワールドっぽいものをやりましたが、「イースIX」はキャラクターとか世界観に寄ったもので、「イース」シリーズとしてはかなり特殊なタイトルだったんです。

ですが、幅広い層に手に取っていただけるようなものを考えていく中で、「今回は一度、王道に戻そう」という話になったんです。そうするとやはり冒険ものになるのですが、地上を翔ける冒険だと「イースVIII」以前とほぼ一緒になってしまうので、じゃあ今までの「イース」がやってそうでやってないことは何だろうね、という話をした時に、アドルが毎回漂流する割には海を舞台にしたことってないよね、と。

――他に、近藤さんの個人的な理由もあると伺っていますが……。

近藤氏:そうなんです。僕が新入社員でファルコムに入社した時に、「君の席はここで」って座らされた席の引き出しを開けたら、前にその席に座っていた先輩が書き散らかした落書きとか企画書みたいなものがそのまま入っていたのですけれど、その中に先輩のシナリオライターが書いたものらしきメモがあって、そこに「海のイース」と書かれていたんですよ。

それはアルタゴの五大竜の案で、巨大戦艦が登場してその戦艦が五大竜っていう設定だったんですが、その時から「海のイース」というキーワードが、ずっと引っかかっていたんです。

――25年も昔からあった案だったんですね。

近藤氏:僕らが作ったアルタゴの五大竜は、舞台がアフロカ大陸になってしまい、全然海ではなかったので、その先輩がやりたくてやれなかったものをいつかどこかでやりたいという個人的な思いがありました。

さらに「王道に戻そう」という話と合致して、「色々見えないところもあるけれど、船を操作する方向でやってみようか」というスタートを切りましたね。

――海を舞台にするのは大変でしたか?

近藤氏:そうですね。実質ゲームを2つ作るような形になってしまうので、スタッフに大きな負担がかかるだろうな、というのは最初からありました。ちょっと進めてみて、見通しが立たないとか、データの量が現実的ではないというのが解ったらすぐに引き返せるようにと思っていたのですが、結局はスタッフらが「やります」と言ってやり切った結果、こうしてリリースできました。

――スタッフの皆さまの頑張りはもちろんいつものことだと思いますけど、「イースX」はより一層大変だったのですね。

近藤氏:まぁリリースしたらしたで、「船の速度が遅い」とか色々ご意見をいただいたのですけれど(笑)。これでも開発当初より、船の速度は相当早くなったんですよ。船は今回必要な要素だったので、なんとか形に出来てよかったと思っています。

――「イースIX」は大きく縦軸に伸びた遊びだったのに対して、「イースX」は横軸を大きく伸ばした遊びになりましたよね。

近藤氏:元々「イースIX」が、かなり特殊だったのですよね。「イースIX」は狭いマップで縦にやろうというのがあったのですけれども、縦で遊ばせようとすると自然の地形ではやり辛かったので、じゃあ街にしようとなったんです。

「イースX」では自然の地形に戻って、船での探索とか、島をみつけたときの喜びみたいなものを感じてもらいたくて。

――船での探索って、どこか懐かしさがありますよね。

近藤氏:僕らの世代だと「ドラゴンクエストII」の時、何もない島にポツンと祠だけが立っていて、その島を見つけただけで僕らはものすごく興奮した思い出があるじゃないですか。でも、最近のRPGは3Dになって、飛行船で世界を飛び回るものが多くて、船で見知らぬ世界を開拓してくという感覚が無くなってしまいましたよね。だから、今回「イース」でそれをできないかなっていうところがありました。

「イースIX」でできたことが無くなるところは残念に思ってくださるお客様も出てくるだろうなと思ったんですけれども、やっぱり今回はこれでやってみようよということで。

――今回、縦軸はバッサリ切った感じの作品になりましたが、そこはやはり思い切った決断だったのでしょうか。

近藤氏:縦軸もそうですし、あとはパーティー制を辞めたっていうのもひとつの決断でした。右を向いたまま左を向くことはできないというか……もちろんやれるのならばそれが一番なんですけれど、今回は操作回りが色々大きく変わることも解っていましたし、縦軸の難易度がここに加わると、アクションゲームとしての難易度もかなり上がってしまうというのがあったんです。

そういうところも踏まえつつ、単純に制作側の上限値もあるので全てをやるわけにもいかず、何かを諦めなきゃいけないというところもありまして。だからマップでも、ちょっとした段差が越えられないと思う方もやはりいらっしゃるんですけれども、そこは島をたくさん作って、そちらで楽しんでいただくほうを選びました。

――今回は、冒険している感がすごい出ていますよね。

近藤氏:アドルは冒険家ですしね(笑)。冒険の舞台となる場所では、その時のアドルの冒険によって楽しめる要素が色々あっていいと思うのですが、「イースIX」で箱庭的なところを立体的に楽しんでいただいたので、同じことをやっても「イースIX」の焼き直しみたいになってしまうかなと。

とはいえ、「イースIX」も元々は「イースVIII」の焼き直しにならないように考えたアイディアだったので、今回の10作目はどちらかというと、「イースVIII」にちょっと戻りつつも、絶海の孤島だった「イースVIII」にはなかった、外に広がっていく冒険を作りたかったんです。10作目として今までやったことがないもので、皆さんの印象に残るものができたのでは、と思います。

■パーティ制をなくすことで作れた、充実したアクション

――以前、シナリオからゲームを作ったことがないと仰っていましたが、今回もシステムから作られていったのですか?

近藤氏:そうですね。僕は生粋のシナリオライターではないので、お話を先に作るよりも、こういう体験をしてほしいというシステムがあって、そこから大きな方針を絞り込むんです。

――パーティ制をなくしたのも、システムありきで?

近藤氏:はい。僕の関わった「イース」は「イースVI」から始まりましたが、「イースSEVEN」、「セルセタの樹海」、「イースVIII」、「イースIX」と経験して、ユーザーの皆さんが感じていらっしゃることはどういうことだろうと考えていくと、大抵は6人のキャラクターの中から3人パーティーを組んで進めていき、お気に入りの3人が決まると4人目以降は下手すると使わなかったりとか育てなかったりするんですよ。

――仰る通りです……。

近藤氏:シナリオ上の賑やかしとしては人数がいるのはいいのですが……、日本ファルコムはご存じの通り、そんなに大きな会社ではないので、アクションゲームとしてのリソースをある程度その6人に費やしているのに、ユーザーの皆さんが触れない部分があるっていうのは、リソースがもったいないというか……そんなにリッチにはゲームを作れないんです。どちらかというと少数だからこそできる工夫をやろう、という会社なので。

――確かに、それならば使われていない3人のキャラクター分を別の部分に費やしたほうがいいですよね。

近藤氏:だから、今回もそもそもは「パーティ制を見直そう」というところから始まったんですよ。じゃあ3人だけにするのかとか、そういう話になるんですけれど、ここは思い切って2人にしようと。

モーションやイベントの演出的な所がなかなか手間暇かけられなく、「もっとこう見せたいのに」というところが作り手としても鬱屈した時期だったので、その分リソースの振り方を変えていこうという話になりました。

――その分充実したアクションが作れると。

近藤氏:そうですね。2人に集約することによって戦闘中の演出に手間をかけることができますし、そうすれば今までの「イース」とは雰囲気の違うものにできますし。もちろん、あったものがなくなると皆さんが残念に思うことも解ってはいたんですけれど、逆に「だから2人なんだよ」っていうことがきっちりと伝われば、10作目にそういう冒険をしてもいいんじゃないかなというところもありまして、そこが出発点でしたね。

そこから、「それで、シナリオはどうする?」となった時に、「ヒロインと離れられないような設定を作ろう」という風にストーリーを広げていきました。

――今回、システムとストーリーの親和性がすごく高かったように感じたんですけれども、工夫された点はありますか?

近藤氏:今回はアドルとカージャの2人という大きな骨格が出来上がったら、そこに対してお話を肉付けしていくというやり方をしているので、例えばお話を先に作っているから戦闘システムはこうしてくれとか、必ずここでこのキャラクターが登場するから無理やり1人外してくれとか、そういうことは一切しないということを決めていて、やるんだったら予め決めたところだけでやるという風に作りました。そこがパーティが出入りするRPGと比べると、親和性が高いように見えたのかなと思います。

――カージャが倒れてしまうシーンとかも、お話からではなくシステムとして決まっていたんですね。

近藤氏:例えばカージャと別れて行動する部分は、最初からここからここまでと決めて、そこは絶対に変えない、という形でやっていますね。

――「イースVIII」のダブル主人公とは全く違う形でのダブル主人公となりましたけれども、「イースVIII」との差別化はどのように計ろうと思いましたか?

近藤氏:「イースVIII」の時にはヒロインであるダーナが序盤のうちは謎の人物としてパーティには加わらないところで操作していくのに対して、今回は最初からカージャと2人でスタートしようと決めていましたし、バトルも大きく変わるので、そこはあまり心配していなかったですね。

――ヒロイン像としての比較はどうですか?

近藤氏:ヒロインの方向性は、どうしてもダーナがちらつくんですよね。昔は、フィーナがちらついたんですけれど(笑)。「どうせダーナを超えられない」とユーザーの皆さんも言うので、そうであればダーナとは違う切り口にしようというところから始まったんです。

だから、「イース」のヒロインっていうと清楚でちょっとおとなしい女の子が多いのですけれども、しょっぱなからそれとは違うヒロインを見せていこうということで、序盤のイベントを作りました。

■アドルとカージャ、ふたりの主人公はどんな風に作られていったのか

――では、本作のアドルについて、制作時に意識した点などがあればお伺いしたいです。

近藤氏:今回のアドルは17歳で、シリーズの中では「イースI・II」に続いて年齢が低いんですよね。とは言っても「イースI・II」の時のアドルの表現はバイプレイヤーの側面が強くて、現在の描き方とはちょっと違っています。

本作のアドルは若いので、「イースIX」の時のアドルと比べれば失敗もするでしょうし、冒険を始めたばかりでそこまで大人びてはいないだろうから、少年っぽいところもあると思うんですよ。で、同じ「イースI・II」のアドルのイメージを崩さないまま、17歳のアドルを描かないといけないっていうところはちょっと気を使いました。

――昔と違ってボイスもついていますものね。

近藤氏:はい。カージャと2人でのやり取りにあたって、アドルがだんまりなわけにもいかなくて(笑)。選択肢は今までのフォーマットに沿って用意しているのですが、選択肢の内容も17歳らしいやりとりにしたりとか、あとは当たり触りのない返事をするだけではカージャとの関係が成立しないので、じゃれ合うというか……10代の男の子と女の子らしいやりとりをさせつつ、アドルらしさを最後まで悩みつつ、ラストシーンまでそのまま描き切ったんですけれど、あれで良かったのかなと心配ではあったんですね。でもまあ終わってみて、皆さんが「よかった」と言ってくださるので、正解のひとつではあったのかなという風に思っています。

――アドルのボイス量が今までの作品よりも増えているように感じたんですけれども、そのバランスも苦労されたところですか?

近藤氏:そうですね。昔だったら全部ナレーションで、「アドルは何々だと言った」とかやっていたのですけれど……、17歳のアドルというのは「イースVIII」とか「イースIX」よりも気を使いました。

「イースIX」の時は、アドルはもう冒険家としてある程度名前が知れ渡っていて、パーティの中にもアドルの名前を聞いたことがあるって言われちゃうぐらい有名な人ですし、最初バルドゥークの兵士たちに囲まれた時も全く動じないアドルを描いています。

今回は、「イースI・II」の経験を経ているので、多分同年代の男の子達よりちょっと落ち着いてはいるけれど、まだまだ駆け出しの冒険家でもあるので、グリムソンみたいな人物の前でひよっこだろうし、っていう匙加減は常に念頭にありましたね。

――カージャの制作時に意識したのは、どんなところでしょう?

近藤氏:不良っぽい強気の女の子が受け入れられるかどうかは、ちょっと心配でした。「イース」は清楚なヒロインがずっと続いていますし……。

カージャとはずっと一緒にいるから、あまり好きじゃなかったらパーティから外すとか、そういう風に逃げることができないじゃないですか。もしも嫌われちゃったらその時点でゲームそのものが嫌になってしまう可能性も高いので、そこは気を使いましたね。

――嫌味のない、すごい素敵なヒロインに仕上がりましたね。

近藤氏:単純にゴリ押しのひたすら強気な女性だったら、多分男性プレイヤーはなかなか受け付けなかったと思います。だから女の子らしさと海賊らしさ、そこにちょっと神秘性も織り交ぜて……という割合は気を使っています。

顔のデザインは「イース」のヒロインに寄せました。そこは「嫌われないように」というところがあって、ちょっとひよったところです(笑)。顔立ちは上品にしつつ、だからこそ最初にドンと印象づけるような事件があるといいよねっていうところから、カージャの人物像みたいなものを固めていきましたね。

――さまざまなバランスも良くて、カージャはみんなから愛されるキャラクターになったと思います。

近藤氏:結構試行錯誤はしました。たった1人のパートナーなので嫌われるのは論外ですけれど、あまりに無難なキャラクターにして、「ずっと一緒にいるのにつまらないな」と言われるのもシナリオを考える人間としては怖いです。だからその辺の塩梅みたいなものは結構気を使って、いろんな漫画を読んで研究しました。

――その漫画の中で参考になったお話とかを、差し支えない範囲でお聞かせいただければと。

近藤氏:まずバルタ水軍ですね。「イース」はいつもロムン帝国の領土が舞台ですけれど、ロムン帝国の領土の外って過去9作品ではほとんど描かれていないんですよ。それで、ロムン帝国の外はこうなっているんだよ、というのを10作目で出すという話を決めました。

イスパニという国と戦争してるとか、アフロカと講和条約を結んだとかそういう話がありますが、北側はまだ全くノータッチだったので、そこにバイキングのような勢力があって、北側はそこを境界にロムンとノーマンたちが勢力均衡というかたちで根を張ってるという形にしようよ、というところを決めたんですよね。

実際の歴史はともかく、固定観念的に見るとバイキングって荒くれ者たちですよね。海洋民族だけど農耕もしていて、船の操作が得意で、他にも色々あるんですけれどもすごい魅力的な民族なので、彼らをどう描くかと考えていった時に、本当に単純なんですけれど、ヤクザものとかヤンキーものをかなり読み漁りました(笑)。

――なるほど、ちょっと想定外の漫画ですね(笑)。

近藤氏:マガジン系の漫画とかを、たくさん読みました。それまで自分の引き出しになかったものなので、とにかくインプットしないと駄目だったんですね。それらをインプットしながら思ったことがバルタ水軍の描き方に繋がっていて、その中の1人であるカージャもバルタ水軍の描き方からこねくり回して作り上げていったという形になります。

――アドルとカージャを兄弟という立ち位置にしたのも、そこがモデルですか……?

近藤氏:はい(笑)。荒くれ者たちのドラマって、友情、努力、勝利だったりするじゃないですか。ヤンキー漫画にはまだこのワードが残っているんだなぁ、と。あとはヤクザものだと、仁義という言葉を使いますよね。

一見社会から嫌われている人たちが魅力的に描かれているのを見て、そこにヒントがある気がしたんですよ。だから、今までのヒロインと同じような淡い恋愛感情って違うんじゃないかな、と思いまして。

――フィーナへの配慮かと思いました(笑)。

近藤氏:それもあるんですけれどね(笑)。いくらユーザーの皆さんにそういう風に認知されているからって、「イースI・II」の冒険が終わった後にすぐ切り替えて、そういう雰囲気になっていいのかなと(笑)。ただそれを抜いても、今までのヒロインと同じような関係性である必要はないと思ったんです。

ヤクザの世界で兄弟の盃を交わすって聞きますけれど、盾の兄弟はその辺から来てるんです。実際のバイキングも、侵略に行く時には命を預ける仲間同士の結束力が強かったのではないかと言われているので、そういうところもヒントになりましたね。

■三将やロロ・リラなどのサブキャラクターらの制作秘話

――ヨルズ、ラーグ、オーズの三将の敵将がすごく良かったんですけれど、少し「軌跡」シリーズのようなドラマ性のある敵キャラクターでしたよね。ああいった敵キャラクターには、「軌跡」シリーズのノウハウが活かされているのでしょうか?

近藤氏:「イース」は確かにドラマ性を持った敵とか、人格を持った悪役というのは最近あまり出ていないんですよね。古くは「イースIII」のチェスターとかがいましたし、「イースIV」では闇の一族などがいましたけれど、それ以降は敵側にも事情があったりとかしていわゆる「悪役」という感じではなかったので、久しぶりに生粋の悪役をやろうと思いました。

僕もずっと「軌跡」シリーズを経験してきたので、キャラクター造形を決めていくときにちょっと「軌跡」っぽいやり方で、3人の役割分担を決めていきましたね。噛ませ犬としてのヨルズ、盛り上げ役のラーグ、戦士としてのオーズっていうことで、この3人の人格を決める時は「軌跡」シリーズの文法でやっていたりします。

――ロロ・リラについても、制作秘話があればお伺いしたいです。

近藤氏:「セルセタの樹海」の時にヒロインが弱いということをすごく言われて、「イースVIII」はヒロインをもっと印象付ける内容にしたいっていうところからW主人公にしたんですよ。

それで「イースVIII」は幸いとてもいい評価を皆さんにいただけたんですけれど、それがプレッシャーにもなって、同じことをやると「またか」って言われるから、同じことをやりたくないっていうところから生まれたのが、「イースIX」なんですよね。

「イースIX」ではパーティメンバーをしっかり描きましたが、パーティメンバーをあそこまで描いた「イース」はこれまでになかったですし、あれはひとつの経験として積めたので、次はラスボスを描こうと思ったんです。それがシナリオライターとしての、今回の自分のテーマでした。最後はラスボスのお葬式で締めるというのは、最初に決めていました。

――ラスボスありきのシナリオだったんですね。

近藤氏:そうですね。そこまで至るにはラスボスの半生を描かないとなかなか思い入れのあるラスボスにはならないだろうし、経験したことのないようなラスボス戦にはならないから、何らかの形でもしょっぱなからアドルと関係を持ってもらうことにしました。

ラストで意外な事実が明かされていくんですけれども、そのつなぎ役としてもう1人必要だなと思った時にリラが後から追加されたんです。ロロとリラを夫婦にした理由は、今回「イースX」をプレイしてくださった方はなんとなく感じていただいてると思うのですが、今作では家族をテーマに描いているので、そこからです。

――やはり「家族」がテーマでしたか……。

近藤氏:アドル自身の家族はほとんど出てこないですが、同じ年代の少年少女を描いていく中で、彼らの抱える悩みとは何だろうと考えると、10代の時って家族はすごく大きな存在感がありますよね。

家族を描いていく流れの中で、当然ラスボスにもそういう血縁者とか配偶者とか相棒とかがいて、人生が結実してラスボスに繋がって、そこにカージャのようなきっぷの良いヒロインが何かやらかしてくれるのが一番いいと思ったんです。

――ラストバトルも涙を誘いつつ爽快感も凄くて、素晴らしかったです。

近藤氏:ラスボス戦の後はスポーツの試合が終わった後みたいにしたいな、というのが最初に思い描いたことでした。

――そこが爽やかさに繋がっているんですね。

近藤氏:僕はずっと空手をやっているんですけれども、勝とうが負けようが、試合が終わった後の独特の爽やかさってあるんですよね。

空手の試合では35歳以上のクラスだと1試合1分半なんですけれども、その1分半でもう筋肉痛になるんですよ。本当に終わった後は指一本動かせなくて、壁にもたれかかってぐったりするくらいなんです。

そこに至るまでに、ウエイトトレーニングをしたりとか食事制限をしたりとか色んな積み重ねがあって、1分半に全てをつぎ込んで、終わった後のやり切った達成感とか対戦相手への感謝みたいなものがすごくあって、ゲームになんとかこれを持ち込めないかなっていうのはあったんです。

――あのラストバトルをスポーツの試合に当てはめると、「なるほど」と思いますね……!

近藤氏:その辺りを表現していくには、お膳立てとして最初からアドルと関わりがある人がいいなと思いました。

物語の途中でアドルの感情の揺れ幅が色々あって、そしてラスボスに繋がるという流れを過去のどの「イース」よりもきちんとやろう、と。それがあのロロという存在であり、その相方であるリラです。

アドルとカージャが最初からずっとコンビで冒険をしてきているじゃないですか。なので、ラスボス戦も2人と同じように、長い時間を歩んできた2人であってほしいというのは、チームの一番最初の会議の時ぐらいにもうメンバーのみんなから出ていたアイディアでもあったんです。そういう流れもあって出来上がったラスボス戦です。

――ちなみに、ロロとかリラとか「ラ行」の文字が入る名前が印象的でしたけれど、命名規則的なものはあるのでしょうか?

近藤氏:命名規則というわけではないのですけれど、リラは元々「イースII」で登場したリラの貝殻から来ています。リラの貝殻は、もしかしたらリラが何らかの形でイースに贈り物として贈ったものかもしれないし……、というところで、リラの名前は最初から決まっていました。

そしてロロなんですけれど、実在するバイキングです。北フランスを支配して、そのままフランスの王様になっちゃった人で、それがロロなんですね。なので、ラ行が重なったのは偶々とも言えます。

――では、リラとカージャの髪型が同じなのはやはり血縁だからですか?

近藤氏:そうですね。リラのデザインを決める時に「ちょっとカージャに寄せて欲しい」というのはデザイナーの方にお願いしてデザインしてもらいました。リラのほうがパッと見、「イース」のヒロインっぽいですよね(笑)。

ずっとリラの上部を隠していたのは、それもあってなんですよね。鋭い方は髪型一緒だっていうところから色々推測されてしまうので。どう隠しても、ロロを千葉(繁)さんに演じていただいた時点でもうネタバレになっちゃうんですけれども(笑)。

■“あの”ルーンストーンはファンサービス!

――各種クエストがとても楽しかったですが、今回クエストはどれくらいの数を作られたんでしょう?

近藤氏:今回は30個ないくらいだと思います。ちょっと少なめだと思いましたけれど、どうでしたか?

――数で聞くと意外と少ないですね。もっと多めに感じました。

近藤氏:割とクエストが分かれているせいもあるかもしれないです。同じひとつのクエストでも連作になっていたりとか、海峡を行ったり来たりしながら進めるクエストがあったりもしたので。海洋生物系のクエストとかは、最初から最後までつながっていくような内容になっていますしね。

――今回、クエストは喜怒哀楽さまざまな感情が楽しめる内容になっていましたね。

近藤氏:そうですね。今回はシナリオの分担を、ライターに「この島1個あげるから、この中で好きにやっていいよ」という感じに割り振っているんです。なのでライターの個性が色々と出たクエスト内容になったように思います。

――ラーヤのクエストとか、大作でしたよね。

近藤氏:ラーヤもそうですし、あとフリング島の「黄金のリンゴ」とかもすごい大作でした。あれも若手のシナリオの人間に「やっていいよ」と作らせてみたら、なんかすごい大作になっちゃったんですよ(笑)。あれだけでメインストーリーの一章分くらいあるような内容ですよね。

ラーヤのクエストは悲しい終わり方ではありますが、ライターの個性を活かしてバリエーションのひとつとして用意しました。

――悲しい終わり方と言えば、レイフのクエストも印象的でした。

近藤氏:今回パーティメンバーがいない分、サンドラス号の少年少女たちがそれに近い立ち位置でした。彼らを描いていく中で、父親との関係であったりとか、家族との関係であったりとか、兄弟との関係を描いていくのですけれども、現実的な話、全部のキャラクターが落ち着くところに落ち着くわけではないじゃないですか。いろんな家族がありますから、幼馴染5人いる中で全員同じ落ち着き方をするわけがないと思いました。

レイフに関しては、「やっぱり解決できなかった」というエンドもあるだろうというところで入れています。

――新密度を最大まで上げているとエピローグでイベントが変わったりしましたね。レイフはその中でもエピローグが大幅に変わって、面白かったです。

近藤氏:レイフはクエストで救われない分、エピローグでも丁寧にその後を描こうと思って、ああいう形にしました。救われないんだけれど、どこかで立ち上がってまた自分の人生を歩んでいくことになるので、そこまでレイフを追ってくれた人に対してはそのきっかけとなる糸口のところまでは見てほしくて、最後のお墓参りをするシーンを入れています。

――サシュのエピローグは、ピッカードが可愛かったです。

近藤氏:サシュはスタッフがやりたかったのと、ファンサービスですね(笑)。今回みんなピッカードを妙に気に入っていて、初回特典になったくらいにピッカードが久しぶりに脚光を浴びているんですけれど、ユーザーの皆さんのプレイ動画とか見せていただいてると割とピッカードを背負って戦っていらっしゃるので、今回はピッカードの回だったって、よくスタッフとも話をしています。

――島の数については何かご意見をいただいていたりしますか?

近藤氏:ちょうど良いというご意見と、もっと欲しかったというご意見の両方がありますね。なんだかんだと僕はちょうどいい量だったかなとは思っているんですけれど……。

これ以上多いと多分探索するのが嫌になりそうですし、ただ「もっとやりたかった」と言ってくださっているのは、アクションと探索の融合が成功しているからこそなのかなとは思っています。僕はあとひとつ、島を入れたかったんですけれど。

――どんな島ですか?

近藤氏:最強ボスをもう1体くらい入れたかったなぁ、と。

――最強ボスというと、「ヴェルモーズ」ですね。私は指が攣るかと思いました(笑)。あのクラスがもう一体いたら指が死んでしまいそうです……。

近藤氏:ヴェルモーズは最強ボスなのに、大体のプレイヤーさんはロロの世界に行く前に出会っちゃうと思うんですよね。一応ヴェルモーズは「アイテムを使い尽くして無理やり倒してください」というボスなんですけれど、ラスボス前にアイテム使い尽くすのも嫌だろうなぁ、と。その辺りを考慮してもう1体、最強ボスがいるといいなと思いました。

――あのクラスのボスは作るのが大変そうです。

近藤氏:そうなんですよね。ボスはやはりアクション面の調整が難しくて、一体だけしか作れなかったんで、ちょっと心残りです。

――エピローグで大灯台の下に出現する謎のルーンストーンについては、現時点でお話できることはありますか?

近藤氏:あれもサービスの一環です。カージャは立ち位置上、多分この後も何度もアドルと再会しているんじゃないかなと僕は思っているんですよ。アドルはもちろんこの後、エレシア大陸を転々としていくんですけれども、それはカージャも同様で、時には一緒に再び冒険をすることもあっただろうと思っています。もちろんそれが今後描かれるかどうかは別ですが。

――「兄弟」ですものね。

近藤氏:はい。今回、カージャとは盾の兄弟という形で、他のヒロインや冒険の同行者とは明らかに違う立ち位置で幕を下ろしたので、アドルの生涯に他のキャラクターよりは食い込んでいるのかなというのがあったんですよね。

恐らく「イースX」を終えた時に、ユーザーの方たちもきっとそういう風に感じていただけるのではないかなというのもありました。

――ルーンストーンという形で置いたのはどうしてですか?

近藤氏:ノーマンたちが信じている神様の体系については今回全部は描かれていないのですけれど、ある程度設定みたいなものは用意していまして、そこに沿ってああいう形で描いています。

北側の民族、というノーマンの設定を決めた時に、恐らくアドルの極点の冒険に彼らが絡んでいないということはないだろうなと。そうなると当然カージャも多分なんらかの形で同伴か協力をしているだろうし、個人的に関わっていて欲しいなというのがあって、あそこにルーンストーンを置きました。

――実際に描くかどうかはともかく、近藤さんはアドルの果ての物語を描きたいですか?

近藤氏:自分が描いていいのかなという、恐れ多いような気持ちはありますね。もしかしたら描くかもしれないですし、描きたいなという気持ちはあります。もちろん、本当に描けるかは解りませんが。

――ちなみにグリムソンが、髪色からアドルの出身地をエウロペ山間部の出身と指摘していたのですが、グリムソンはアドル以外で赤毛のエウロペ山間部の出身者に会ったことがあるのでしょうか? 例えばアドルの父親とか……。

近藤氏:そこはあまり答えられないですけれど、アドルは北から来ていますし、ノーマンも北から来ています。アドルは山の民で、ノーマンは海の民ですけれど、ルーツは一緒かもしれないです。アドルの出自も、もしかしたらノーマンの源流になっている人たちかもしれないですね。

グリムソンはその辺の経緯を何となく知っていて、そういえば山に住んでるやつらもいたな、みたいな、裏設定的な感じです。

――それでは、最後に「イースX」のファンに向けて一言お願いいたします。

近藤氏:まずは手に取っていただいて、本当に感謝を申し上げます。「イースX」は僕らにとって、10作目という節目の作品になり、自分たちも冒険したタイトルでした。今までやってきたことを1回全部見直した内容になっていますし、それを10作目でやっていいのかな、というところはあったのですが、実際に終えてみて、皆さんに楽しんでいただけて、僕らも確かな手応えになりましたので、10作目で学んだことを次にも繋げていければと思います。

「セルセタの樹海」以降は、なるべくアドルと一緒に皆さんにも新しい体験をしていただきたいという思いでやっていますので、必ずそのタイトルならではの要素もきちんと盛り込んで、ゲーム制作をしていければと思っています。

次のタイトルの話もようやく昨日(※インタビューは2023年11月28日に実施)始まったところで、次も「これはみんなにワクワクしてもらえるんじゃないか」という相手が出てきていますので、またちょっとお時間は頂くと思うのですが、次のアドルの冒険もぜひお付き合いいただければと思います。

――ありがとうございました。

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